わからないままに
「ねー、エレン。ヨアニス何で休んでるか知らない?」
クラスメイトが尋ねて来たのは、アレが休んだ翌日のことだった。場所は教室。休んだ当日に声をかけられなかったのは、休んだことに俺が驚いているのを周りの席の連中は見ていたからだろう。
「いや、まったく。少し前に小説に影響されたのか勝手に絶縁だとか言い出してそれっきり顔も合わせて居ない筈だしな。昨日は急に休んだと聞いてこっちが驚いたくらいだぞ?」
「絶縁?」
「ああ。ほら最近流行ってるんだろ? 偶々本屋に行った時背表紙見ただけで内容が一目瞭然な感じのタイトル群の本がよく目立つところに並んでたからな。あれに影響されたって当人が言ってた」
別に隠すことでもないので、俺は普通に話し。
「それに男女で寮は別なんだから、詳しいとしたらむしろそっちだろ?」
何か知らないのかと俺は逆に聞き返した。尋ねた来たクラスメートは女子なのだ。今までは不愉快生物がだいたいそばに居たし、席が離れていることもあってよくよく考えるとこのクラスメイトと話すのは初めてかと思うくらいに接点のない相手でもあるが。
「あー、言われてみればそうだよね。直接ヨアニスのとこ尋ねるのが手っ取り早いのか。けど、あの子性格がアレだしなぁ」
「あぁ、出来れば関わり合いになりたくないタイプではあるな」
言われて手のひらを打つなり微妙そうな顔をしたクラスメイトの言に、俺はついつい同意する。どうやら俺とかかわりないクラスメイトにも不愉快生物の性格のひどさは知れ渡っていたらしい。
「そう言う訳だから、実は絶縁、渡りに船と言うか願ったりかなったりだったりするんだけどな」
「そっか、エレンも大変だったんだ」
「まぁな」
ひょんなことから話題が俺の苦労話に移るが、今は休み時間中でありこの後も授業を残しているので寮に戻って確認というわけにもいかず、確かめるすべがない以上、話題がそれてしまったのはしかたのないことだったかもしれない。
「けど、本当にいろいろ初耳だよ」
「まぁ、前は当人が隣にいたからな。自分の素行の悪さとかをバラそうものなら全力で阻止してきただろうし」
今、この状況だからこそできたことだ。
「こう、なんだろうなこの開放感」
ずっとこの状態が続いてほしい。ふいに俺はそんなことを思っていた。
◆◇◆
「しかし、あれだな」
魔女座の人間とは言っても千差万別だ。あの不愉快生物と比べれば、全然大丈夫ではあるものの微妙な気持ちにはさせられる後輩を踏みながら、俺は天井を仰ぐ。
「この後輩だったら、俺の学園生活ももっと……いや、人から見たらこっちのほうが異様か」
精神的な負荷なら何倍も後輩のほうが楽なのは間違いなくて、想像の中の幼馴染をソレと置き換えてみる。
「踏んで下さ、ああっ、もっと――」
想像の中の第一声に、俺は早まったかなと思った。
「これはこれで、なぁ」
別種の精神的負荷はかかるようだった。
「とは言え、効果が出てるのはまぎれもない事実だしなぁ」
体感的にそんな気がする程度でしかないが、トレーニングの負荷としての効果はあると思う。今までと比べると頻度が少なくなっているせいで微量ではあるが。




