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アレの居ない日

「は?」

 事件が起きたのは突然だった。不愉快生物こと幼馴染が突然授業を休んだのだ。

「何が起きた?」

 約束を守らずわがまま放題な幼馴染ではあったが、それを理由に授業を休む事だけは今までなかった。もちろん殊勝な考えなどなく、ただ学力で上位をキープしてマウントをとり他者を見下したいとか言う割と酷い理由ではあるが、些少の体調不良ぐらいならばおして出席するぐらいであり、それがあの不愉快生物を教師陣が高く評価する理由の一つでもあったはずだ。

「まして今は修学旅行も迫って重要な時期だよな?」

 ここ数日の授業の中には旅行中の自由行動についてや旅行先での実習についてなどを決めるというものもあるというのに。

「解せん」

 だからこそ、休む理由が俺にはわからず。

「また妙な思い付きか? だとしてもこれまで授業の参加を犠牲にしてまでってことはなかったはずだが……」

 ろくでもないことを始めるのではないかと心の中で警鐘を鳴らす俺が居て、居ないなら居ないで気になった。

「いや、だがこれも好機か。今まで散々振り回してくれたんだし」

 不愉快生物が居らず、口出しされないというならこれ幸いと自由行動については希望を出させてもらおう。

「欠席では反対意見も出せないしな。実習の方もソロで申請を出しておくか」

 絶縁されはしたが、現在の班では、何も言わなければ結局パートナーの居ない不愉快生物と俺が組まされることになってしまう。それを避けるのであれば事前に申告しておくより他ない。

「つまり、それは絶縁されたことも話さなければならなくなるわけで――」

 アレが勝手に思い付きでやったことなのに、言葉にしてみようと考えただけでまるでこちらが見捨てられたような様にもとれると気づくと俺は憂鬱になった。

「だが、アレと組まされるよりはマシか」

 唐突な転校生でも来て班員が増えるだの入れ替わるだのと言った奇跡でも起きない限り、俺が申請しなければ不愉快生物と組まされることになる。

「そも創作モノみたいなミラクルを期待するのってアレと同レベルになるってことだもんな」

 それは避けたかった俺は、内心もやもやしたまま絶縁された件についての説明込みで実習をソロで受ける旨の申請を出し。

「このもやもやは標的にぶつけることにしよう」

 今日も放課後に実技実習室を借りることにするのだった。


◆◇◆


「とまぁ、そんな感じでな」

 昼休みに見かけたプレスに声をかけて誘い、放課後に訪れた実技実習室。いきさつを語りつつ徐に歩み寄って本棚から俺は無造作に教科書を引き抜いて開いてみた。

「今日も大丈夫か」

「なんだか確認する癖ついちゃったみたいっすね」

「まぁな」

 結構な頻度で借りに来て居ることもあってか、最初に見かけた時とは別にもう一回ほど破れた教科書と遭遇した俺はついついこうして確認するようになってしまったのだ。

「出来れば犯人見つけて、もうこんな真似をしなくていいようになるといいんだが」

「そう言えば前に借りてた人も違ったらしいっすもんね」

「ああ。聞いた話では、教科書は持参していたためにここの備え付けのは見なかったんだろ?」

 結果として破損を見逃し、更に使用者を前にたどっても結局犯人は見つからなかった。使用者の中に犯人は居るはずだが、証拠がなかったのだろう。

「嘘のわかる魔術でも開発されれば一発なんすけどね」

「まぁな。そんなモノがあれば――」

 あの不愉快な幼馴染も俺が剣聖座だと理解しただろうか。

「いや、ないな」

「先輩?」

「何でもない。ちょっとな」

 今更もしもを気にしてもどうにもならない。それに。

「せっかく借りた実習室だしな。時間いっぱい活用して今日こそ会得してやる」

 ひたすら練習したおかげで、魔術のレパートリーもずいぶん増えてきている。

「修学旅行までに追い上げる」

「おー、先輩燃えてるっすねー」

「まぁな」

 あの不愉快な生き物なしでそれなりの成果が出せれば、俺の学生生活もこれまでとは違ったものになる筈だ。

「気を緩める気はない」

 教科書を戻すと、俺は手をかけた標的を運び始めた。








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