不愉快生物は知る3
区切りの良いところまでとしたら短くなってしまいました。すみません。
「え」
それは偶然だった。パートナー探しと実技実習室の使用をあきらめきれず、懲りずに実習室の使用者と掛け合って、あわよくばパートナーと実習部屋の両方を確保しようとしたヨアニスは、廊下を歩く一人の後輩を見つけ、足を止めた。
「あれって、エレンの――」
恋人と噂される下級生だったとヨアニスも記憶していた。ただヨアニス自身が目撃した踏まれている女子学生ではない。市場で見かける瓜よりも大きな膨らみが二つ。揺れる様はそれだけでヨアニスに敗北感を覚えさせ。
「っ、悔しく何て……って、今はそんな場合じゃないわ」
思わず歯ぎしりしかけながらも耐えて頭を振った。
「チャンスじゃない。あの後輩の行先にエレンが居る筈。後をつければわからなかったことだって何か判明するかもしれないし」
即座に尾行を始めたヨアニスが前を行く後輩が立ち止まるのを目にするまで、さして時間はかからなかった。
「あの部屋ね。さてと、ここからどうしたものかしら?」
幼馴染が借りていると思しき実習室の位置は把握できたヨアニスだったが、行き当たりばったりの行動だったからこそ身を隠すモノもなければ、この状況で使えそうな魔術を行使するための触媒も腰にはぶら下げておらず。
「いいわ。あの後輩、こっちには気付いてないみたいだし、ギリギリまで近寄って」
あとは成り行き任せとでも考えたのだろうか、ただ。
「死ねっ、ヨアニス!」
「え」
後輩が開け入るために開けたドアの向こう、叫びながら斬りかかる幼馴染が練習用の剣を振り下ろせば、頑丈なはずの標的が破壊されるのがヨアニスにも見えたのだった。
◆◇◆
「何よ、アレ」
気づけばヨアニスは寮の自室で立ち尽くしていた。どうやって戻ってきたかも覚えていない。壊れた標的が倒れる音はまだ耳の中に残っている気がするというのに。
「何でエレンがあんな、あんなこと」
ヨアニスが知る幼馴染には出来なかった。魔術の練習用の標的を破壊することなど。そも実技面では落第すれすれであり、ヨアニスでさえ不可能な標的の破壊など出来ようはずもなかった。
「それより……『死ね』って」
幼馴染は明らかにそう言っていた、ヨアニスを名指しで。そして、覚えている限りで幼馴染がそんなことを軽々しく口走ったことはなかった。だからこそ、冗談ではないと、ヨアニスには判る。
「あの、魔女座の後輩を踏みつけたりしてたのって、ひょっとして、まさか」
ヨアニスも心のどこかで全く思わなかったわけではない、幼馴染が後輩をなぶっていたのが本来ヨアニスに向けられるモノである可能性があることを。数日有れば一度でもそう言う発想に至るのには充分だった。だが、除外したのだ。事実だったら怖かったから、そんなことはありえないと思ったか。
「嘘よ、そんな」
だが、聞いてしまった。ふいに扉が空いたことでなのだから、意図的に聞かせようとしたとは考えづらい。
「私、殺され……」
震えが止まらず、ベッドに転がると毛布で身体を包む。翌日、ヨアニスは一日授業を休んだ。




