実験
「さてと」
思い立ったが吉日とばかりに授業後実技実習室を借りた俺は、安物の紙に炭であの不愉快生物の顔を描いた。
「これを標的に貼り付ければ、準備は完了だな」
画才はないが、自分だけわかればいいので絵の出来については気にしない。
「と言うか、そっくりの方が拙いか。落として第三者に拾われたときのことを考えれば」
ただでさえいかがわしいことに使われたなんて話のある部屋だ。
「『アレの似顔絵で何かいかがわしいことをしていた』なんて疑われた日には、な」
それだけは避けなくてはならない。不名誉とかそう言うレベルの話ではないのだから。
「俺に炎の魔術の才能があれば最終的に燃やして灰にできたんだが」
俺の才能を鑑みると、可能なのは風か剣で切り刻むことぐらいだ。
「元が何かわからないくらい切り刻むのはまぁ、いいんだが」
切り刻んでも繋ぎ合わせれば、元の絵はわかってしまう。
「やはりここは横着せず、終わったらごみとして焼却処分するか」
処分する途中で落とす可能性もゼロではないだろうが、気にしすぎては何もできない。
「始めるとしようか」
触媒の準備は万全。標的を動かし、紙を頭部に貼り付ける。目撃者は猿ぐつわをして転がってる後輩が一人だけだ。ちなみに、標的の前に飛び出してくる恐れもあったので、念の為に縛ったら嬉しそうにしだして俺の視線は自然と遠くなった。
「それもこれもあいつのせいだよな」
憤り、敵意、殺気。音の漏れないここならば、叫ぼうが問題はないだろう。
「くたばれヨアニスぅぅぅ!」
魔術で肉体を強化し、訓練用の剣で斬りつける。
「ぐ、ぅ」
魔女座の後輩がいることで肉体強化の効果もいまいちな筈だが、手ごたえが予想を少し裏切った。
「思ったより肉体が強化されている?」
だが強化分を予想していなかったため、斬撃を強く繰り出し過ぎてしまい、反動が手首と肩に痛みにまで強まった衝撃と言う形で俺を襲ったのだ。
「この効果、どうにかして応用できないものか」
使い方次第では実技の試験結果を底上げできるかもしれないのだ。
「ヨアニスの部分だけ声には出さないようにして見るか?」
魔物との戦闘で斬りかかりつつ言うのであれば、些少口汚かろうが問題ない可能性はある。
「ふむ、いざという時の奥の手としてはいいかもな」
ただ、ウィゾをあの不愉快生物だと思って何かするというのは、これでもうなしになったが。憎悪分効果とか威力が上昇してしまうのは今のところ魔術だけだと思うが、頭に血が登って大けがでもさせてしまったらシャレにならない。
「そちらはあとでまた考えるとして」
まずは新たな発見をモノにしてしまうべきだ。故に俺は死ねだのくたばれだのと物騒なことを口にしつつ魔術練習を続けたのだった。
◆◇◆
「という発見があってな」
翌日、感情で魔術の威力が増幅したことを俺は告げた。
「なるほど、先輩って本当に規格外っすね」
「ん? 規格外とは?」
「その感情で効果増幅っての、扱いが難しいらしくて魔術剣士科みたいな特別なとこでしか教えてないらしいんすよ」
聞き返せばプレスの明かした内容に俺は言葉を失う。
「そもそも、その感情をあてにするのって暴走による暴発や失敗と紙一重っすからね。低学年の時点で『感情任せに魔術を使ってはいけない』って習う筈っすよ?」
「そうなのか? あ」
聞き返してから記憶をたどり、ふと思い出したことがある。
「どうしたっすか?」
「いや、俺の幼馴染がそのあたりまるっきり守ってなくてな」
校則すら破って学校の外でも魔術を使うくらいだ。
「なるほど、身近にそういう人間がいたんでいつの間にかわすれてたと」
「あとはあれだな、俺の実技の成績が悲惨すぎて、『こいつなら暴走とかもないだろう』と教えるのを端折られた可能性があるくらいか」
「先輩」
言ってて悲しくなるがそういうときが俺にもあったのだ。
「それがまさかこうなるとはな」
本当に予想外だ。
「けれど、それで暴走とかしてないってことは、制御面では天賦の才があったってことっすよね」
「あぁ、そうかもな」
これはあの不愉快生物にも言えることなので、正直に言うとあんまりうれしくないが。
「アレとおそろい、なんて発想をしてしまうとな」
ありがたみも薄れるが仕方がないことだった。




