踏みしめる日々
「俺は何をしているんだろうな」
時々思ってしまうことがあった。後輩の女子学生を足蹴にしつつただ立ち尽くしていれば、きっと同じ心境に至る人間は少なくないと思う。
「トレーニングの負荷として自主勉強などに付き合わせる報酬、とは言えなぁ」
出来るだけ人目につかない場所を選んではいるが、完全に人目につかない場所だと、たまたま目撃された時、誰もいない場所でいかがわしいことをしていた、などと噂される可能性もあって、そう言った場所を避けているせいか、この状態を目撃されることがたまにある。
「はぁ」
思わずため息が出たのは、今踏んでる後輩に修学旅行の土産について一応聞いたところ、魔物用の拘束具をと即答されたことを思い出したからだ。用途はきっと言うまでもないが、この変態、ブレない。せめて声が出ないようにしたら目撃者を減るかと何かの気の迷いで猿ぐつわを用意して来たら、感謝され、今も猿ぐつわは使用中であったりする。
「それが回りまわってプレスの恋人はドSの変態とか言われる羽目になりそうなんだが」
今朝会ったプレスは、あんな変態じゃ君を幸せにできないと言い寄ってくる同級生が増えたんすよねとちょっと遠い目をしていた。
「よくよく考えてみると、第三者視点では二股に見えなくもないしな」
魔女座との相性を利用した負荷トレーニングについてはあの不愉快生物が調子に乗りかねないということもあり伏せているが、理由が無ければ第三者目線で見た場合、二股の上に片方とそう言うプレイをしていると見られても仕方はなく。
「何らかの対策は急務か」
もう逃げ去った泥棒を捕まえるための縄を作っているぐらいの手遅れ感はあるが。
「真実を、と言う訳にもいかないしな」
無論俺側ではなく、今も足の下に居るウィゾ側の理由である贖罪の為に自ら望んで甚振られているという話の方だが、まず話して信用されるかと言う問題がある。
「次にコイツの過去とプライベートに土足で踏み込むことになるしな」
既に本人の背中には土足を乗せているが、それはそれだ。
「それならまだコイツの趣味にプレスから頼まれて付き合ってるとかの方がまだ無難だよな」
これはこれでプレスが俺に変態の相手を頼んだとあちらに泥をかぶせてしまうのでこれも現実的ではないが。
「あと一年と幾らかだからと目をつむる、のもなぁ……そもそも」
俺が卒業したらこのドMの後輩はどうするつもりなのか。剣聖座は魔術師には向かない。剣聖座でこの学校に入学してくるなんてレアケース中のレアケースだ。俺はそのレアケースなわけではあるが。
「はぁ」
ひたすら愚痴るようなことになってしまっているが、仕方ない。一番近くに居る相手は猿ぐつわをはめてしゃべれないのだから。
「そろそろ、か」
もちろんずっと猿ぐつわさせたままと言う訳でもない。
「取るぞ」
しゃがみ込み、断りを入れてからウィゾの猿ぐつわに手をかける。
「ん゛ん、あっ……はぁ、ん、もっと」
「寝言はいいからさっさとしろ」
どことなく恍惚とした後輩の表情にドン引きしつつ務めて平静を装って促す。ウィゾは傷を癒し、体力を回復する魔術の触媒を携帯しているのだ。何のためかは言うまでもない。
「回復魔術の祖である先人もこれを見たら頭を抱えるよな」
変態には技術を与えてはいけない。誰が言ったかは知らないが、至言だと思う。
「回復魔術があろうがなかろうが――」
女性に手を上げるのは抵抗があるのだ。これがあの幼馴染である不愉快生物なら別だろうが。
「ふむ、そうか。むしろアレだと思えば……」
些少はマシになるだろうか。
「いやしかし、やりすぎてしまう可能性も」
否めないかもしれない。
「そうだな、まずは魔術だ。魔術の訓練の時に掛け声とかで試してみるとしよう」
実技実習室なら防音だった筈だ。あの不愉快生物への憤りを乗せても他者に聞かれることはないだろう。
「このまま付き合ってもらうなら、一年以上続くわけだしな」
今の内に打開策を模索しておく。悪くない考えだと思っていた、このときの俺にとっては。




