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不愉快生物は知る2



「……どういうことよ?」

 復活を果たしはしたが、ヨアニスは混乱した。何故見下していて絶縁した幼馴染に恋人なんて出来ているのかと。

「私にだって出来たことないのよ?! って、よくよく考えたらそれ、あのエレンが近くに居たからじゃない!」

 もし、そのエレン当人が近くに居たら逆恨みだと指摘しただろうか。いや、人の話を聞かないと言う意味で何を言っても無駄なのだから、絡まれるのを避けるべく早々に立ち去っていたかもしれない。

「許さない、思い知らせて――」

「……ニス、ヨアニス!」

 ブツブツ呟きつつ俯くヨアニスは気づかない。始業の鐘がとっくに鳴っていたことも、教室を通り過ぎていることも、やって来た教師に声をかけられていたことさえ。

「ヨアニス・ヨラントーコ!」

「まずは、え?」

 気づいたのは何度も呼びかけられ、まなじりを吊り上げた教師が自身を見ていることに気付いた後のこと。

「先生、どう」

「罰則は覚悟のことだろうな?」

 こめかみをひくつかせたままその男性教師は歪んだ笑顔でヨアニスに告げる、遅刻のペナルティを。


◆◇◆


「ようやく、終わった……」

 罰として課せられた雑用を終えてヨアニスがへたり込んだのはそれから数日後のこと。実技準備室に並ぶ魔術用の標的。近くの棚には触媒が整列しておかれ、魔術を付与するための武具は種別で分けられて壁に飾られたり纏めて円柱上の筒に突っ込まれたりしており。ヨアニスの手にはそれらの個数と状態の確認する表があり、投げ出されたペンと合わせると、備品の確認作業をしていたのだと思われる。

「無視されたことを根に持つなんて最低ね。たった一度の遅刻で雑用4回だなんて」

 自身もエレンに無視されそうになって規則を破り魔術まで使ったことは都合よく忘れ、ヨアニスは自分に雑用をするよう言った男性教師を非難した。成績がよかったが故にこれまで味方だった教師陣との間に、これによって確執が生まれることになるとも知らず。

「とにかく、噂の確認よ。エレンのことだから見栄の為にデマを広めたのかもしれないし」

 卑怯者のエレンのことだから、充分ありえるわと独り言を口にしつつ、ヨアニスは立ち上がると実技準備室の入り口に向かって歩き出す。

「見てなさい、散々苦汁をなめさせてくれたお礼は必ずするんだから!」

 当人にしか理解されない憤りを平らな胸に、準備室の戸に手をかけ。

「問題はどこに居るかよ……え」

 廊下に出てすぐ。窓の外に幼馴染の姿を見つけ、ヨアニスは立ち尽くす。

「はっ、あ、あぁ」

 女子生徒を足蹴にし、踏みにじるのは間違いなくヨアニスの幼馴染であり、片足を乗せられた女子生徒は地面と幼馴染の足に挟まれて身をよじっている。

「なに、あれ」

 理解が追い付かない様であった、ただ。

「アレがエレンの恋人?」

 不意にヨアニスが思い出したのは、幼馴染に恋人ができたという話だ。

「えっ、えっ、ええ?! エレンにああいう趣味が?」

 衝撃を受けたヨアニスの手から、備品のチェック表が離れ、ヒラヒラと廊下の床に舞い降りる。

「何よそれ、どうすればいいのよ……」

 はなからデマだと信じても居なかったところで見せつけられたまともで無い男女の関係。

「おい、あの魔女座の女、また踏まれてるぜ」

「な」

 もはや真相を調べる気もなくしたヨアニスだったが、不意に聞こえた誰かの呟きに思わず振り返る。

「あー、また踏まれてるのな、あいつ」

「と言うかさ、アレ何? 何で踏まれてるの?」

 見れば若干引きつつヨアニスが先ほど見た光景を見ている男子生徒が近くの男子生徒に尋ねており。

「さぁな? が、よっぱど恨みでもあるんじゃねぇ? 見ろよあの冷たい目。あんな表情で平然と女を踏みにじれるとかよっぽど恨みでもあるんだろうよ」

 肩をすくめ、問われた男子学生はそのまま去ってゆく。

「う、恨み?」

 だが、立ち聞きしてヨアニスはただ困惑するしかない。これまで幼馴染とはそれなりの時間一緒にいたはずだが、ヨアニスが覚えている限りエレンが今踏んでいる女子学生に何かされた記憶はなかったのだ。

「どういうこと?」

 訳が分からない。理由がわからない。故にヨアニスは混乱する。

「何よ、何なのよ、本当に」

 相談しようにも、相談できる相手なんてどこにもいない。居るなら、パートナーに悩むことだってなかったのだから。




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