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不愉快生物は知る

短いです、済みませぬ

「どういうことなのよ!」

 ヨアニスは苛立ちを罪のない鞄に向け、ソファへと叩きつけた。

「何で私が謝ったりなんかっ」

 流石にヨアニスとて事務員を敵に回した場合どうなるかぐらいの想像力は有していた。事務員に目を付けられ実習室が使えなくなればパートナーがどうのといった話どころではない。もっとも、ヨアニスからするところの人の話を聞かない不愉快な後輩のせいで激昂していたために謝罪が遅れ、謝った上雑用を手伝わされる羽目になったのだが。

「覚えていなさいよ……」

 ちゃっかりと自分より早く謝罪して雑用を免れた後輩達への憎悪を言葉の形で吐き出し、ドカッと乱暴に椅子へ座る。ヨアニスは気に入らなかった、何もかもが。

「何なのよ! ちゃんと話の通りにしたじゃない!」

 歯ぎしりしながら睨んだのは机の上へぞんざいに放置されていた一冊の小説。幼馴染を絶縁してざまぁするという内容の今王都で流行してる話の一つだ。自分にも恩知らずな幼馴染が居ることに気づいたヨアニスはすぐさま幼馴染と絶縁した。

「何で出来ないのよ、成績優秀なパートナー! 実習室だって借りれないし!」

 結局雑用だけで半日使ってしまい、こうして寮の自室に戻ってきたヨアニスにできるのはせいぜい座学の勉強だけだが、教科書が先ほど投げた鞄の中にある時点でそのつもりがないのは明白だった。

「それに、エレンよ! なんですり寄ってこないのよ! 私の補正という恩恵がなくなったのよ? だったら補正を失って私より酷い状況の筈じゃない!」

 はっきり言って幼馴染と二度と組むつもりはないヨアニスだったが、それでも頭を下げてもう一度組んでくれと求められれば些少は溜飲が下がるはずだったが、それもない。

「全然『ざまぁ』出来ないじゃない!」

 憤って腕を薙ぎ、机から小説を払い飛ばすと、はぁはぁと乱れた呼吸で壁を睨む。

「……うん?」

 その時不意に目に入ったのは、壁に掛けられていたカレンダーであり。

「あ」

 目が止まったのは、修学旅行の書き込み。

「修学旅行……ということは、必然的にエレンと同じ班ね。……そう」

 そういうことだったの、とヨアニスは呟いた。

「ふざけてくれるじゃない。全然すり寄ってこないと思ったら、これを見越してただなんて。私とエレンが絶縁してもクラスの班はそのままだものね。今頭を下げなくても、修学旅行に出れば結局組むことになる……小賢しいわ」

 してやられた感を覚えつつも幼馴染を認められないヨアニスは不愉快気に吐き捨て。

「けど、本当に使えないわね。こういうイベントはもっと楽しくなるモノでしょ? エレンと同じ班だとか、ただの罰ゲームでしかないじゃない!」

 どうにも気に入らず、立ち上がると床に転がっていた小説に近づき足を振り上げる。勢いよく蹴り飛ばそうとしたのだ。

「こんなも゛っ」

 問題があるとしたら、本の転がった側にクローゼットがあったことか。

「お゛ぉお゛ぉっ」

 クローゼットに足をぶつけたヨアニスは膝を抱えて床を転げまわった。


◆◇◆


「ううっ、まだ痛むわ」

 それもこれもエレンのせいよと続けながら、ヨアニスは廊下を歩く。翌日、顔をしかめての登校となったことも幼馴染に責任転嫁し、ぶつけた足を庇う様にして進むが廊下をゆく学生の姿は少ない。

「拙いわね」

 理由はわかっている、始業のベルが鳴るのが近いのだ。ちらりと何気なく近くの教室を覗き込めば、わずかに空いた戸の向こうで席に座りつつも雑談に興じる後輩たちの姿が見え。

「え、プレス先輩にカレシが出来たって本当?」

「らしいよ。五年のエレンって人だって話だけど」

 えっと声を漏らしてヨアニスは立ち尽くした。


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