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旅行を前に

「しかし、あの小説ではこんな展開なかったよな」

 絶縁した幼馴染と再び組む展開など。寮の自室で、就学旅行のしおりを片手に俺は天井を仰いだ。

「やはり事実は小説より奇なりということか。いや、そもそもどの小説もいくらか読んだところでつまらないと全部本棚に戻してたしな」

 ひょっとして読み進めればこういう展開に至った作品もあっただろうか。

「まぁ、現実と創作の世界を混同するってのもアレかもしれないが」

 少しでも参考になればと本屋へ足を運んだ過去を鑑みると、俺もアレな人間に含まれてしまうだろうか。考えなしに絶縁してきたあの不愉快生物よりはマシだと思いたいが。

「さてと、そして現実と創作の世界を一緒にするのはアレなんて独り言を言った直後に言うのもどうかと思うが、この後の展開というかあの不愉快な生物の行動に関しては、創作の方がある程度参考になりそうな気がするんだよな」

 フィクション様に誇張されたのかと思ってしまいそうなほど酷い性格。創作の世界に出てきても不自然さがないが故に、テンプレ的な行動に出てきそうな気がするのだ。

「パターンとしては大きく分けて二つだな。失ったモノに気づき、よりを戻そうとすり寄ってくるか――」

 いまだ自分が上だと認識して、恩着せがましく絶縁を撤回してあげるだなどと言い出すか。

「あの日からまだそれほど経っていないし、その二つなら後者だろうな、おそらくは」

 何気なく壁を見れば、かかったカレンダーにはプレスとウィゾから聞いた勉強に都合のいい日と時間が今月分はすでに書き込まれ、数日に跨って修学旅行という文字の付いた帯も書き込まれている。

「一応俺の方は色々な変化を実感できた数日だったわけだが」

 あくまでそれはこちらの話だ。

「あちらの事情がどうなってるかなんて俺の知る由ではないが、知ってれば行動予測の助けにはなるのか」

 とはいえ、もう頼まれてもあんな不愉快な生き物を観察なんてしたくない。

「ジレンマ、だな」

 もっとも、些少予測できるようになったところで修学旅行中はあの幼馴染と一緒に団体行動せざるを得ない。偵察がリターンに見合ったものになるかもわからず。

「兵法書なんかだと情報の重要性を説いてはいるんだが」

 情報を知ることで精神的なダメージを負う場合、どうすればいいかを兵法書は教えてくれない。

「とりあえず時間つぶし用に本は持っていくか。それを読んで無視していれば被害も些少は減るだろう」

 それでも話しかけてきたなら、絶縁したことを盾にして話すことなどないといえばいい。

「まともな人間なら、な」

 自分の都合で言ってることを二転三転どころか高速回転させ、デッサン人形の球体関節を思わせる可動範囲で手のひらを返しまくるあの不愉快生物にそういった倫理観とか常識が備わっているかというと、まぁ無理かなとしか言いようがなく。

「とは言え人の言うことも聞かないしな」

 相手にするだけ無駄というか精神がすり減ることは嫌というほど学ばさせられた。

「一般的な修学旅行は楽しいものだと聞くんだがな」

 俺にとってはただの苦行旅行だ。

「不参加にできたら、どれだけよかったか」

 ぼやいてみるがそれができるなら、こんなところで憂鬱になってなどいないわけであり。

「どうにもできないなら、他のことを考えるべきだな。例えば――」

 旅行先で誰にお土産を買ってゆくか、とか。

「帰郷は長期休暇だから近所に配るようなモノはいらないだろうから、傷まない、食品ではないモノを家族に買うのと、後はプレスだが、他の学年も時期こそズレるものの修学旅行にはいくんだよな」

 お付き合いしてる人にお土産は普通なら外せないが、状況が状況だけに難しい。

「それでも実用性がありそうとなると、プレスが使いそうな魔術の触媒とかだが」

 お土産としてはそれでいいのかと問われそうな気もするし、その手のモノはわざわざ旅行先で買わなくても、校内の売店で売っている。

「今までこういう機会がなかったのも大きいな……はぁ」

 お土産選びという難問は出発がまだ先だというのに、俺にとってはかなりの難敵だった。


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