理由
やや短めです、すみませぬ。
「で、説明してもらえるのか?」
流石にあの場所では人の目が痛かったのもあって、俺が尋ねたのは人気のない校舎の裏までたどり着いてからだった。そばにいるのは質問をぶつけた相手であるマゾ座の人と紹介者であるプレスのみ。
「正直に言って、午後の授業も顔出しづらいんだが」
俺が後輩である目の前の女子学生を踏んだところは何人かに目撃されている。その目撃者が学食にでも行って話題に上らせたならどうなるか、想像力があるだけに既に憂鬱な未来しか想像できなかった。
「も、申し訳ありません」
そして謝罪の言葉とともにウィゾと名乗った気のする女子学生は地面に仰向けに寝転んだ。先のことを思い出せばそれにどういう意味があるかは明白だが。
「何というか、犬がやることのある服従のポーズに似てるっすね」
「犬? 飼っていたのか?」
足元の女子学生を放置してボソッと漏らしたプレスの声に反応したのは、仕方ないと思う、ただ。
「あー、自分じゃなくて元許嫁がっすけど」
「すまん」
触れてはいけない場所に触れてしまったと思った俺も即座に頭を下げた。
「あー、いいっすよ。もとはと言えば自分がコレを紹介したのが原因だった気がするっすし」
「いや、アレと聞いて構わないといったのは俺の方だ」
非があるなら俺自身だろう。
「そうっすか、そう言って貰えると助かるっす」
「とりあえず、ならその話はこれで終わりでいいな。それで――」
このままだと謝罪合戦にもつれ込みそうな気もしたので、プレスの反応を見て俺は話題を変える。
「コレがアレな理由については話してもらっても大丈夫だよな?」
「もちろんです」
また舌禍を招くと問題なので敢えて確認すると、答えたのは足元の方の後輩で。
「剣聖座の方であれば魔女座との相性はもうご存じでしょうが――」
マゾ座の人は語り始めた。プレスが服従のポーズに似てるといった格好のままで。
◆◇◆
「過去、ウィゾは剣聖座の人を酷く傷つけてしまった。だが、それに気づいたのはもう詫びることも償うことも出来なくなった後だった」
それを悔い、償う方法が何かないかと考えたウィゾが思いついたのが、同じ剣聖座の人間にいたぶられるということだったらしい。
「贖罪で赤の他人にってもういろいろ間違ってる気がするんだが」
「自分もそうおもうんすけどね、何でもその過程で新しい扉を開いちゃったらしくて」
「待て」
プレスの口から出た追加情報で俺の顔が引きつった。
「ということは何か、この後輩は」
「剣聖座の人限定で被虐嗜好のある変態さんってわけっすね」
「ちょっ」
そうであるなら先ほどと今の奇行にも説明はつくが、人間としてお近づきになりたいかというなら、ひっそり離れた場所で自分の性癖に向かって突き進んでもらいたい系の変態であると思う。
「ぷ、プレスはそれでいいのか?」
付き合う相手が変態とかかわってるというのは俺ならできれば遠慮してもらいたい。だからこそ尋ねたのだが。
「悲しいっすけど、この人自分の親戚なんっすよ」
プレスは青い空へいや、そのはるか先に向けたかのような遠い目をしていた。
「そ、そうか」
「そうっす。それもあって紹介したんすよ。自分が勉強に付き合えない時にご一緒して貰って、こう踏み台にでもしておけば満足して学校の中でまで奇行はしないかなって淡い期待もあるんすけど」
まさかのプレス公認というか推奨に俺は言葉を失った。
「ありがとう、プレスちゃん」
とか若干嬉しそうな声を上げた変態の声に関してはできれば聞かなかったことにしたかったが、ともあれ魔女座の人間が負荷になれば俺の能力が伸びるのはすでに前例があり。
「期限は最長でもこの魔術学校を卒業するまでだからな」
あの幼馴染よりはマシかと思ってしまった俺にできたのは条件を付けることぐらいだった。




