戻った後で
キリのいいところまでにしたためか、今回はいつもの半分ちょっとと短いです申し訳ありません。
「何の騒ぎですか」
だが、事態は更に変化する。俺にとっては都合のいい方向に。不愉快生物と後輩達の声を聞きつけた事務員が事務室から出てきたのだ。
「仕事中に近くで喚かれればそうなるな」
俺も出された宿題を実習室を借りて片づけていた時、後ろであの不愉快生物に喚かれて酷く迷惑した覚えがある。作業中の雑音というのは存外殺意がわくものだとその時学んだ。
「今だ」
今回は加えて後輩達も怒鳴ったりしているのだから、事務員が出てきても不思議はない。ただ、事務員には申し訳ないがアレと後輩の注意が別方向に向いたのはチャンス以外のなにものでもない。
「この先輩が言いがかりをつけてきたんだ」
「言いがかりとは何よ! 勉強を見てあげるって言ってるだけじゃない!」
事務員に両者が上げた声に紛れるようできるだけ足音は立てず、事務員に注意されぬよう走りはしないものの速足で。
「ふぅ」
何とか通り抜ければ思わず安堵の息が漏れてしまっても仕方がないと思う。
◆◇◆
「ということがあってな、ここから出るときは注意した方がいい」
何とか実技実習室に戻ってきた俺はプレスにまずこれまでの経緯を説明し、忠告した。知らせず実習室の使用時間が終わって鉢合わせでもした厄介なことになるのは目に見えていたから。
「あー、そんなことになってたっすか。なんだか申し訳ないっす」
「いや、結果的にあの幼馴染に見つからず済んだのは件の後輩連中がアレに絡まれたおかげでもあるからな」
気にしなくていいと俺は頭を振り。ちらりと廊下の方をへ視線をやり。
「ただ、出るときは別々の方がよさそうだ」
「そうっすね。しっかし、同級生は知ってた筈なんすけどね」
「ん? 何をだ?」
「いや、自分、許嫁が居たんすよ。だから、『あわよくば恋人に』とかそういう思考のクラスメイトは居なかったと思うんすけど」
組んだ腕に豊かな胸を乗っけて唸るプレスの言で俺の疑問は一つ解消した。なるほど、許嫁の存在があるから男性の影がなかったのかと。
「ん?」
だが、プレスは先ほど居たと過去形を口にしていた。
「どうしたんすか?」
「いや、『許嫁が居た』と過去形だっただろう? つまり今は居ないと知って『今ならチャンスが』とかそういう思考になった連中なんじゃないか?」
「っ、んー、それなら説明はつくっすけど、自分の許嫁が居なくなったのってそれほど前じゃないんすよね。どこから情報が漏れたのか」
唸りつつ思惑顔になったプレスにひょっとして拙いことを言ってしまっただろうかとも思ったが、今更前の発言をなかったことにはできない。
「しかし、そうなってくるとこれはもう仕方ないっすね」
俺が何とも言えない表情をしている間に考え事は終わったのか、嘆息したプレスは俺の方に向き直り。
「先輩今パートナー居ないんすよね? お詫びというにはアレっすけど、自分とお付き合いして貰えないっすか? 公私ともに」
「え」
唐突な申し出に俺は硬直したのだった。




