第3話 二人での開始
「獲得ポイントについてご説明します」
黒服の男が言った。
「相手を倒した際に得られる基本額は、その相手の初期ポイントと、死亡時の所持ポイントのうち、多い方となります」
豪は顔を上げた。
「さらに、とどめを刺した者と、倒された者の初期ランクの差によって補正されます。初期ランクは種族などを基準に決定され、その後の能力強化によって変動することはありません」
「強い相手を倒せば、たくさんもらえるってこと?」
澪が小声で言った。
「たぶん」
豪は答えた。
目の前の画面にも説明が表示されていたが、細かな条件までは追い切れなかった。
「続いて、パーティーについてご説明します」
画面が切り替わった。
【パーティー】
【上限人数:5】
「パーティーを組んだ参加者は、一定範囲内で獲得したポイントを均等に分配されます。その際の補正は、とどめを刺したメンバーの初期ランクを基準に計算されます」
澪が少し身を乗り出した。
「また、メンバー間ではポイントの譲渡が可能です。加入と脱退は、戦闘中を含む任意のタイミングで行えます」
豪は文字を追った。
「移動前に結成した場合、同じ場所から開始できます。結成しない場合は、それぞれ個別に配置されます」
隣で澪が顔を上げた。
豪も彼女を見た。
少しの間、二人とも何も言わなかった。
「……組みますか」
先に口を開いたのは澪だった。
「私、一人で行くのは嫌です」
豪は周囲を見た。
近くにいた人々が、互いの顔を見始めていた。声をかけ合う者もいれば、離れていく者もいる。
「腕に覚えのある者はいないか」
刀を下げた男が呼びかけた。
数人がそちらを振り向いた。
豪は自分の腕を見た。
荷物なら毎日運んでいる。高校では陸上部だった。
人と殴り合ったことなど、ほとんどない。
「俺でいいのか」
「ほかに、話した人いないので」
澪は答えた。
豪は彼女の手を見た。
上着の裾を、まだ強く握っていた。
「俺も、何ができるか分からないけど」
「私もです」
「……じゃあ、一緒に行こう」
澪が小さくうなずいた。
豪がパーティー、と念じると、新しい画面が開いた。
【パーティーを作成】
文字を選ぶ。
今度は、メンバーを招待する項目が現れた。
澪を見てから、招待しようと考える。
「あ、来ました」
彼女が目の前の何もない場所を見た。
豪からは、その画面は見えなかった。
「これ、承認すればいいんですよね」
豪の前に文字が現れた。
【澪がパーティーに加入しました】
【メンバー:豪/澪】
その二行を見て、豪は少しだけ息をつけた。
知らない場所へ、一人で行かずに済む。
「なお、購入したアイテムを、所有者の意思に反して奪うことはできません。他者への譲渡や、他者に対して使用することは可能です」
黒服の男の説明は続いていた。
「水や食料も購入品に含まれます。移動先で、自然から調達することはできません。参加者の身体を食料とすることも不可能です」
澪が、自分の画面を操作しているらしい。
「何見てる?」
「買えるもの。水、あるかなって」
「もう買えるのか」
「項目は開けます。でも、あとにします」
澪は顔を上げた。
「向こうがどんな場所か、分からないし」
豪もうなずいた。
森なのか、街なのか。
人がいるのか。眠れる場所はあるのか。
考え始めると、聞きたいことが次々に浮かんだ。
「分からないことは、移動後も案内から確認できます」
男が言った。
「帰還を願う皆さんの健闘を祈ります」
誰かが前へ駆け出した。
「まだ終わってねえぞ!」
その姿が、途中で消えた。
豪は立ち上がった。
足元の床が透けていた。
澪が腕を伸ばした。
豪はその手をつかんだ。
*
冷たい空気が頬に触れた。
靴の下で、何かが潰れる音がした。
豪は息を吸った。
湿った土の匂い。
目の前に、太い木の幹があった。
見上げると、幾重にも重なった葉の隙間から、白い空が見えた。
長椅子も、人々もいなかった。
右手だけが温かかった。
澪が隣に立っていた。
二人はしばらく手をつないだまま、周囲を見回した。
「……森?」
「ああ」
それ以上のことは、何も分からなかった。
ゆっくり手を離すと、澪は自分の指を握り込んだ。
近くで草が揺れた。
二人とも振り向いた。
何も出てこなかった。
豪は、息を詰めていたことに気づいた。
ここには、ほかの参加者がいる。
自分たちと同じ説明を聞いて、ここへ来た者が。
「まず、どっか落ち着ける場所を探そう」
豪が言うと、澪はうなずいた。
「豪さん」
「ん?」
「さっき、妹さんがいるって言ってましたよね」
「ああ」
「帰りましょうね」
豪は澪を見た。
彼女の顔は強張っていた。
励ましているというより、自分にも言い聞かせているようだった。
「帰ろう」
豪は答えた。
妹に話すことがあった。
朝、言えなかったことがある。
目の前に画面を開いた。
【所持ポイント:100】
その下にある帰還の項目は、まだ選べなかった。




