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奇跡の裏側  作者: AKR
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24/25

第24話 見えない残り

 豪が棍棒を出すと、佐伯は先に周りを見た。


「そこで振ると、後ろを人が通る」


 豪は振り返った。

 屋根と柵の間を、荷物を抱えた男が歩いていた。


「あ、すみません」


「こっちへ寄ろう」


 佐伯が示したのは、資材置き場の横だった。

 地面は踏み固められ、片側に低い土の盛り上がりがある。

 人の通り道からは外れていた。


 豪は移動して、もう一度棍棒を持った。

 澪が斜め後ろへ立つ。

 ミミは、二人を交互に見ていた。


「打つ前に、どこへ逃げるか言ってみてくれ」


 佐伯が言った。


 豪は棍棒を下ろした。

 正面から来る相手を想像して、横を指す。


「こっちへ」


「澪さんは?」


 豪は彼女を見た。

 指した先に、澪が立っていた。


     *


 佐伯は、棒も持たずに近づいてきた。

 豪は一歩、後ろへ下がる。


「そこで振ったら」


 佐伯が止まった。

 豪はゆっくり棍棒を動かし、途中で止めた。

 先端が、澪の立っていた場所を通る。


「……当たる」


「俺を見ると、後ろが見えなくなるな」


 豪は棍棒を引いた。

 キツネのときは、澪が離れたところから石を投げてくれた。

 昨夜は、同じ岩の周りにいた。

 同じ動きでは、戦えなかった。


「私が、もっと離れた方がいいですか」


 澪が聞いた。


「離れればいいとも限らん。ミミもいるしな」


 佐伯は足元を見た。


「ミミは、二人が急に動いたら、どっちへ行く?」


「ごう」


 返事は早かった。

 豪は口を開きかけ、閉じた。

 足元へ来てくれれば安心だと、思っていた。

 棍棒を振りながら下がる自分の足が、どこへ着くかは考えていなかった。


 豪はしゃがんだ。


「じゃあ、こうしよう。俺が『下がる』って言ったら、澪の方へ。俺の足の後ろを、通らない」


「みお?」


「私、呼びます。こっちって」


 澪もかがんだ。

 ミミの耳が、彼女へ向く。


「一回、ゆっくりやろう」


 豪は立ち上がった。


     *


 一度目は、ミミが豪を追った。

 二度目は、澪のところへ着いてから、豪を見て戻りかけた。

 三度目に、そこで止まった。


「そのまま。俺も、そっちへ行くから」


 豪は棍棒を振らずに下がった。

 澪が半歩ずれ、通り道を空ける。

 ミミは彼女の横にいた。


 豪は息を吐いた。


「できた」


「相手がいたら、これよりずっと慌てる」


 佐伯が言った。


「でも、今やったことが一つあれば、何もないよりいい」


 豪はうなずいた。

 ガロが資材置き場の陰から出てきた。


「俺の後ろへ下がってくるなよ」


「分かってる」


「今、踏むところだった」


 豪は足元を見た。

 犬のいた場所に、自分の踵が近づいていた。


「……悪い」


 ガロが鼻を鳴らす。


「声は出す。だが、お前も見ろ」


     *


 紗弓が戻ってきたのは、何度か動きを繰り返したあとだった。

 手に水を二本持っていた。


「見張り、一回入る。終わったら、もう二本」


 佐伯が顔を上げた。


「時間は?」


「夕方までの途中。場所と交代の相手は、あとで見に行く」


 紗弓は水を収納した。


「寝床、取るなら早めにって。小さい屋根から埋まるらしい」


 豪は棍棒を収納した。

 ミミの分も含めれば、水は四本。

 澪は自分で払うとして、今持っている数字をまた減らすことになる。


「先に、取ってきます」


 豪が言うと、澪もうなずいた。


「一緒に行きます」


     *


 榎本はハイへ、小さな紙の上を指していた。

 豪たちに気づくと、立ち上がる。


「今夜の場所?」


「ああ。俺と、ミミ。それぞれ水二本だったな」


「そう。隣にしたいなら、小さい屋根が空いてる」


 榎本が奥を指した。

 豪は澪を見てから、うなずいた。

 澪も自分の分を頼む。

 豪は水を四本買った。


【所持ポイント:54】


 渡す前に、屋根の場所を見せてもらった。

 布の下には、乾いた地面がある。

 周囲が囲われているわけではなかったが、ミミが隠れられる低い隙間が、板の裏にあった。


「夜に外へ出るときは、入口の人へ声を掛けて。戻る人がいるって、見張りに伝えるから」


 榎本が言った。

 豪はうなずき、水を渡した。


 ハイは紙の横で待っていた。


「どうなった」


 豪が聞くと、小さな鼻先が上がった。


「明日、明るいとき。見にいく。道、教える」


「仕事か」


「まだ。行けたら、水、もらう」


 榎本が付け加えた。


「人が通れないところを、外から確かめたい人がいる。今日は道の話を聞いた分で、食事を渡すことにした」


 ハイの前に、小さな包みがあった。

 豪はそれを見て、うなずいた。


「よかったな」


 ハイは包みへ鼻を寄せた。


「におい、する」


     *


 昼の食事には、運搬でもらった包みを出した。

 澪も自分の分を開く。

 ミミは自分で食べ物を買い、澪に手伝ってもらっていた。


 豪は食べ終え、収納を確かめた。

 棍棒。

 小皿。

 地図と鉛筆。

 今使っていない物にも、一つずつ使い道があった。


 次に、購入画面を開いた。

 身体を強くする項目を見て、指を止める。

 強くなれば、昨夜の爪を弾けただろうか。

 もっと速く動ければ、鳥に棍棒が届いただろうか。


 答えは、分からなかった。

 画面の項目を戻す。

 真壁が言っていたものを探した。


【対象HP表示:20ポイント】


 説明を開く。

 視認した参加者を一体選び、現在のHPと最大HPを表示する。

 見えていない相手を探す機能ではない。

 ランクも、所持ポイントも分からない。


 二十。

 石の囲いで増えた分と、同じだった。


「澪、これ、どう思う」


 豪は説明を読み上げた。

 澪は最後まで聞いた。


「私も見られますか」


「買った人だけ、だと思う」


「だったら、見た数字を言ってほしいです。戦ってるとき、私からは分からないので」


 豪は画面を見た。


「買って、何も増やせなかったら、二十減るだけだ」


「はい」


 澪はうなずいた。


「でも、相手がもう倒れるって、見た目で決めるよりは」


 豪はフクロウの翼を思い出した。

 当たったのかも、あと何度来るのかも分からなかった。

 真壁の話を聞くまでは、自分が何を分かっていないかも、はっきりしていなかった。


 購入を選ぶ。


【所持ポイント:34】


 数字が変わった。

 棍棒を買ったときのように、手の中へ何かが現れることはなかった。


     *


「澪、試してもいいか」


「はい」


 豪は彼女を見て、表示したいと念じた。

 視界に、小さな文字が出る。


【HP:100/100】


「百。最大も百」


 澪が自分の表示を確かめ、うなずいた。


「合ってます」


 豪は顔をずらした。

 文字へ目を向けると、澪の手元を見落としそうになった。

 表示を閉じ、もう一度開く。

 誰を選ぶか考えるだけでも、少し時間が掛かった。


「これも、練習が要るな」


「動いてる相手だと、難しそうですね」


 澪が言った。


 豪は立ち上がった。

 資材置き場へ戻る前に、見張りの場所を確かめたいと言うと、澪もついてきた。

 ミミは二人の間を歩いていた。


 入口の近くで、槍を持った男が外へ声を掛けていた。


「そこで止まって。後ろは、誰か来てるか」


 柵の外に、人がいた。

 若い男だった。

 片手を上げ、もう片方で服の裾を払っている。


「いや。もう来てないと思う」


 男は答えた。

 息は上がっていたが、立ち方は普通だった。


 豪は足を止めた。

 さっき買ったものを、使ってみる。


【HP:3/100】


 豪は数字を読み直した。

 三。

 百のうちの、三だった。


 男が一歩進んだ。


「歩ける。大丈夫だから、入れてくれ」


 豪は入口の男へ顔を向けた。


「待って。その人、HPが三しかない」


 槍の先が下がった。

 若い男が、自分の身体を見た。

 何も変わっていなかった。


 豪は走り寄ろうとして、足を止めた。

 昨夜も、足元を助けようとしたとき、上が見えなくなった。


「澪、ミミと下がって。上も見ててくれ」


 返事を聞いてから、豪は入口へ寄った。

 槍を持った男が、柵の内側へ声を飛ばした。


「回復できる人、来てくれ!」


 豪は外の斜面を見た。

 若い男は、まだ自分の手を見ていた。

 普通に動く指を、何度も握り直している。


 豪は表示を閉じなかった。

 男を囲むように誰かが近づいても、今度は、その三という数字を見失いたくなかった。

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