↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『人生勝ち組になるまで、俺の青春は先に進まない』~間違った選択をすると、また今日が始まる~  作者: ダイヤマ
第2章 変わり始めた青春

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/53

第19話「一番じゃなくても」



【4月30日】


「今日か……」


 朝。


 制服に着替えながら、矢城勇真は呟いた。


 二日前に受けた確認テスト。


 今日は、その結果が返ってくる。


 名取と三島に宣言した。


 一位を取る、と。


 成瀬にも勝つと言った。


「……言わなきゃよかった」


 今になって恥ずかしくなってきた。


 もちろん、本気で勉強した。


 部活が終わって疲れていても机に向かったし、朝も少し早く起きた。分からないところは教科書を何度も読み返し、三島にも助けてもらった。


 これまでの高校生活――元の三年間も含めて、あそこまでテスト勉強をした記憶はない。


「一位……取れてるかな」


 期待している。


 それ以上に、怖い。


 もし十位だったら。


 二十位だったら。


 あれだけ勉強したのに、大したことがなかったら。


 そう考えると、胸の奥が落ち着かない。


「……行くか」


 勇真は鞄を持った。


 ◇


「おはよ、矢城」


「おはよう」


 教室へ入ると、名取がいつものように声をかけてきた。


 その顔を見た瞬間、勇真は気づく。


「名取」


「何?」


「今日だな」


「何が?」


「とぼけんな。テスト」


「ああ」


 名取がニヤッと笑う。


「怖い?」


「全然」


「嘘」


「名取は?」


「全然」


「嘘だな」


「私は自信あるもん」


「腹立つ……」


「一位取るって言ったの矢城でしょ?」


「覚えてたか」


「忘れるわけないじゃん」


 そこへ三島がやってきた。


「朝から何騒いでるの?」


「テストの話」


 名取が答える。


「ああ」


 三島はいつも通り落ち着いている。


「三島、緊張してないの?」


「別に」


「絶対嘘だ」


「矢城と一緒にしないで」


「なんで俺が緊張してる前提なんだよ」


「顔」


「顔?」


「さっきから落ち着きない」


「…………」


 勇真は黙った。


 名取が吹き出す。


「やっぱ緊張してるじゃん」


「うるさい」


 三島も少し笑う。


「まあ、もう結果は変わらないんだから」


「それはそうだけど」


「だったら待つしかないでしょ」


「三島ってこういう時、妙に冷静だよな」


「矢城が落ち着きなさすぎるだけ」


「朝から毒舌だな……」


 いつもの調子で話しているうちに、少しだけ緊張が和らいだ。


 ◇


 そして四時間目。


「確認テストの結果を返す」


 担任が紙の束を教卓へ置いた。


 教室がざわつく。


「今回は入学直後の実力を見るためのものだ。順位だけで一喜一憂する必要はない。苦手分野を確認して、今後に活かすように」


(順位だけで一喜一憂する必要はない、か)


 勇真にとっては、その順位が一番気になっている。


「それと、上位十名については廊下に掲示する」


「マジかよ」


「名前出んの?」


 教室がさらに騒がしくなる。


「静かに」


 担任が出席番号順に結果を返し始めた。


 一人。


 また一人。


 勇真の番が近づいてくる。


「矢城」


「はい」


 立ち上がる。


 結果用紙を受け取り――。


 見る。


「…………」


 五教科の合計点。


 そして、その下。


【学年順位 4位】


「……四位」


 一位ではない。


 名取にも。


 三島にも。


 誰かもう一人にも負けた。


 でも――。


「四位……」


 思っていたより、ずっと高い。


 元の高校生活でも、ここまで上に入った記憶はほとんどない。


 嬉しい。


 間違いなく嬉しい。


 なのに同時に、悔しかった。


(あれだけやって……四位か)


 自分でも驚くほど、その気持ちは強かった。


 ◇


 昼休み。


 廊下の掲示板前には人だかりができていた。


「見に行こうよ」


 名取に引っ張られ、勇真も掲示板へ向かう。


「待て待て。心の準備が」


「もう順位知ってるでしょ」


「上が誰なのか知らない」


「じゃあ見ればいいじゃん」


「だから心の準備を――」


「邪魔」


 後ろから三島に押される。


「押すなよ!」


「止まるからでしょ」


 三人で人混みの前へ出た。


 勇真が掲示を見る。


【確認テスト 学年上位者】


一位 名取桃香


二位 三島由香


三位 成瀬健太


四位 矢城勇真


「…………」


 勇真はしばらく黙った。


 横を見る。


 名取がものすごく嬉しそうな顔をしている。


「一位」


「……見れば分かる」


「一位」


「二回言うな」


「私の勝ち」


「分かったって!」


 名取が笑う。


 三島は自分の名前を見ながら、小さく息を吐いた。


「二位か……」


「三島、悔しそうだな」


「当然」


「さっき順位だけでどうこう言ってなかった?」


「それは先生」


「そうだった」


「私は一位狙ってたから悔しい」


 三島ははっきり言った。


 その言葉を聞いて、勇真は少し意外に思った。


 もっと冷静に受け入れると思っていた。


「三島でも悔しいんだな」


「何それ」


「いや、何でも平然としてそうだから」


「本気でやったら普通に悔しいでしょ」


「……そうだよな」


 勇真はもう一度、掲示板を見る。


 四位。


 本気で勉強した。


 それでも三人に負けた。


「矢城」


 成瀬が後ろからやってきた。


「四位じゃん。すごいな」


「お前三位じゃん」


「一個上だったな」


「腹立つ」


「なんでだよ」


「勝つって言ったから」


「ああ、そういえば」


「忘れてたの?」


「ちょっと」


「俺だけ本気だったみたいじゃん!」


 成瀬が笑う。


「でも次も勝負しようぜ」


「……次?」


「次の定期テスト」


 成瀬が当然のように言う。


「今度は俺もちゃんと勉強する」


「待て」


「何?」


「今回ちゃんとやってなかったの?」


「普通にはやったよ」


「普通で三位?」


 勇真の顔が引きつる。


 高石が横から入ってくる。


「だから言っただろ。こいつの『普通』は信用するなって」


「……成瀬」


「何?」


「次、絶対勝つ」


「おう」


 成瀬が笑った。


 ◇


 昼休みが終わる少し前。


 勇真は一人で結果用紙を眺めていた。


 四位。


 十分すごい。


 自分でも分かっている。


 なのに、悔しい。


「贅沢だな、俺……」


 元の高校生活なら、四位なんて取れば大喜びしていたはずだ。


 いや、そもそも一位を狙おうとも思わなかった。


「何が贅沢なの?」


「うわっ!」


 顔を上げる。


 円花がいた。


「びっくりした……」


「ごめん」


「いや、大丈夫」


 円花が結果用紙を見る。


「四位だったんだ」


「うん」


「すごいね」


「でも一位じゃなかった」


 口にしてから、勇真は自分でも嫌な言い方だと思った。


「ごめん。四位でも十分なのは分かってる」


「悔しいの?」


「……うん」


 円花は少し考える。


「じゃあ、いいんじゃない?」


「え?」


「悔しいってことは、一位取りたかったんでしょ?」


「まあ」


「本気だったから悔しいんじゃないかな」


「…………」


「私なら四位で大喜びするけど」


 円花が笑う。


 勇真もつられて笑った。


「林、何位だった?」


「四十二位」


「……聞いてごめん」


「なんで謝るの?」


「いや……」


「私としては悪くなかったんだけど」


「ならいいのか」


「うん」


 円花は結果用紙を鞄へしまう。


「矢城くん、一位じゃなかったから勉強したの無駄だった?」


「いや」


 勇真は即答した。


「それはない」


「じゃあ、よかったんじゃない?」


「…………」


 簡単な言葉だった。


 でも、妙に納得できた。


「林ってたまにいいこと言うよな」


「たまに?」


「あ」


「普段は言わないみたい」


「違う違う」


「ふふっ」


 円花が笑った。


 ◇


 放課後。


「矢城、パス!」


「おう!」


 勇真は成瀬へボールを出す。


 そのまま成瀬がシュート。


 決まる。


「ナイス!」


「くそ……」


「何で悔しそうなんだよ」


「テスト思い出した」


「まだ引きずってんの?」


「三位の奴には分からん!」


「意味分かんないって」


 笑いながら、勇真はコートを走る。


 不思議だった。


 負けた。


 目標だった一位には届かなかった。


 それなのに、以前ほど「失敗した」とは思わない。


 むしろ――。


(次はどうすれば勝てる?)


 そんなことを考えている。


 勉強時間を増やすか。


 やり方を変えるか。


 苦手な英語を重点的にやるか。


 次の定期テストでは、もっと上へ行けるかもしれない。


 今までは、負けることが怖かった。


 だから最初から本気にならなかった。


 でも本気でやって負けてみると、思っていたのとは少し違った。


 悔しい。


 それでも――またやりたい。


「矢城!」


「おう!」


 飛んできたボールを受け取る。


 勇真はそのままゴールへ切り込んだ。


 ◇


 その日の夜。


 机の上には、確認テストの結果用紙が置かれている。


【学年順位 4位】


「四位か……」


 朝なら、もう少し落ち込んでいたかもしれない。


 今は違う。


「次は一位取る」


 誰もいない部屋で口にする。


 以前なら、こんなことを言うのも怖かった。


 言って、できなかったら格好悪い。


 期待して、失敗したら傷つく。


 だから最初から望まない。


 それが自分を守る方法だった。


 でも――。


「負けても、別に終わりじゃないんだよな」


 当たり前のことなのに、今まで分かっていなかった。


 一位を取れなかった。


 だから次がある。


 負けた。


 だから、また挑戦できる。


「……これも、勝ち組になるってことなのかな」


 少し違う気もする。


 勝った人間だけが勝ち組なのだとしたら、今日の自分は負け組になる。


 でも勇真は、今の自分をそこまで悪いとは思わなかった。


 むしろ元の高校生活の自分より、ずっと前へ進んでいる気がする。


「勝つことだけじゃない……か」


 まだ答えは出ない。


 それでいい。


 勇真は結果用紙を机の引き出しへしまった。


 そして、スマートフォンを手に取る。


 一件のメッセージが届いていた。


【名取桃香】


『一位の人から四位の人へ。ちゃんと勉強してる?』


「……こいつ」


 思わず笑う。


『次は勝つ』


 そう返す。


 数秒後。


『望むところ!』


 さらにもう一件。


『でも矢城、本当にすごかったと思うよ』


「…………」


 勇真は少しだけ画面を見つめた。


 からかうだけではなく、こういうことも言う。


『ありがと』


 送信。


 すぐに既読がついた。


『次も勝負ね』


『おう』


 スマートフォンを置く。


 勇真はベッドへ横になった。


 今日は負けた。


 それでも、不思議と気分は悪くない。


 目を閉じる。


 明日は何をしよう。


 そんなことを考えながら眠りについた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。