↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『人生勝ち組になるまで、俺の青春は先に進まない』~間違った選択をすると、また今日が始まる~  作者: ダイヤマ
第2章 変わり始めた青春

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/53

第15話 やりたいから



【4月19日】


「四月十九日……」


 朝食を食べながら、矢城勇真は何度目か分からない確認をしていた。


 スマートフォンの画面には、間違いなく四月十九日と表示されている。


「何回見るんだよ、俺」


 思わず笑ってしまう。


 たった一日進んだだけなのに、これほど嬉しいとは思わなかった。


 四月十八日を何度も繰り返したことで、一つだけ分かったことがある。


 この世界には、やはり何かがある。


 自分の選択を見ている何か。


 ただし、その基準は単純ではない。


 誰かを助ければ正解。


 人気者と仲良くすれば正解。


 円花と帰れば正解。


 そんなゲームのようなものではないらしい。


「何を選ぶかじゃなくて、なんで選ぶか……か」


 それすら正しいかは分からない。


 それでも、昨日までより少しだけ気持ちは軽かった。


 ◇


「おはよう」


「おはよ、矢城」


 教室へ入ると、名取が振り返った。


「今日は普通そうだね」


「普通って何だよ」


「昨日ちょっと変だったから」


「……そうだった?」


「なんか考え事してる感じ」


 勇真は苦笑した。


 名取が知っている昨日は、一度だけだ。


 でも勇真にとっては、何度も繰り返した四月十八日だった。


「まあ、いろいろあったんだよ」


「昨日一日で?」


「俺にとっては長い一日だった」


「何それ」


 名取が笑う。


 もちろん説明できるわけがない。


「そういえば矢城、バスケ部どうするの?」


「あ」


 その話があった。


 成瀬と高石に誘われて、一度は体験にも行った。


 中学まで続けていたバスケットボール。


 高校でもやるのか。


 それともやらないのか。


 ずっと決められずにいた。


「まだ迷ってる?」


「……ちょっとな」


「好きならやればいいのに」


「林にも同じこと言われた」


「林さん?」


 名取が少しだけ反応する。


「昨日、一緒に帰った時に話した」


「ああ、そういうこと」


「何だよ、その言い方」


「別に?」


 名取がニヤッとする。


「最近、林さんと仲いいよね」


「普通だろ」


「へえー」


「なんだよ」


「何でもない」


 明らかに何か言いたそうな顔をしている。


 けれど名取は、それ以上追及してこなかった。


「でもバスケは本当にやれば? 矢城、上手いんでしょ?」


「まあ……そこそこ」


「私も女子バスケ入るつもりだよ」


「そうなの?」


「うん。中学でもやってたし」


 そういえば、元の高校生活でも名取は女子バスケ部だった。


 かなり活躍していた記憶がある。


「放課後、見に行ってみたら?」


「……そうするかな」


「お、やっと?」


「まだ入るとは言ってない」


「はいはい」


 名取は楽しそうに笑った。


 ◇


 昼休み。


「バスケ部?」


 堀井がパンを食べながら聞き返す。


「うん。今日もう一回見に行こうかなって」


「いいじゃん」


「そんな即答?」


「だって矢城、バスケ好きなんだろ?」


「好きだけど」


「じゃあやれば?」


「みんな同じこと言うな……」


 円花も名取も堀井も、驚くほど簡単に言う。


 勇真にとっては、もっと複雑な問題だった。


 部活に入れば、時間を取られる。


 勉強との両立も必要になる。


 高校生活の人間関係にも影響する。


 そして何より――。


「俺さ」


「ん?」


「バスケ部入ったら、ちょっと勝ち組っぽくない?」


「は?」


 堀井が真顔になる。


「運動部で活躍して、友達多くて、彼女もできて……みたいな」


「急にどうした?」


「いや、例えばの話」


「矢城ってたまに変なこと考えるよな」


「自覚はある」


 堀井はパンを一口食べてから言った。


「でも、そんな理由で部活やって楽しい?」


「…………」


「俺なら嫌だけど」


 あっさりした答えだった。


「じゃあ堀井ならどうする?」


「やりたいならやる。やりたくないならやらない」


「それだけ?」


「それ以外ある?」


「……ないのかもな」


 勇真は笑った。


 以前の自分なら、そんな単純な決め方はできなかった。


 何をすればクラスで上に行けるか。


 何をすれば人生が良くなるか。


 そんなことばかり考えていた。


 でも――。


「バスケしたいかって聞かれたら……」


 したい。


 答えは、とっくに出ていたのかもしれない。


 ◇


 放課後。


 勇真は体育館の入口に立っていた。


 床を蹴る音。


 ボールが弾む音。


 シューズが擦れる音。


 懐かしい。


「矢城!」


 中から成瀬が手を上げた。


「来たんだ」


「もう一回見ようと思って」


「入る気になった?」


 高石もやってくる。


「まだ考え中」


「まだかよ」


「慎重なんだよ、俺は」


「知ってる」


「そんな付き合い長くないだろ」


 三人で笑う。


「今日も混ざる?」


 成瀬がボールを投げてきた。


 勇真は反射的に受け取った。


 手の中に収まる感覚。


「……やる」


「よし」


 体育館へ入る。


 ◇


「矢城、右!」


「分かってる!」


 ボールを受ける。


 一人来る。


 その奥にもう一人。


 抜くか。


 パスか。


 ほんの一瞬で判断する。


 勇真は前へ踏み込んだ。


 相手が寄る。


 その瞬間、横へボールを出した。


「ナイス!」


 成瀬が受け取り、そのままシュート。


 リングに当たり、ボールがネットへ落ちる。


「よし!」


 勇真は思わず声を上げた。


 楽しい。


 単純にそう思った。


 上手く見られたいからでもない。


 成瀬と仲良くなりたいからでもない。


 これをやれば人生が変わると思ったからでもない。


 走って。


 考えて。


 パスを出して。


 シュートが決まれば嬉しい。


 中学まで何度も感じていた感覚だった。


「矢城!」


 今度は高石からパスが来る。


「おう!」


 勇真はボールを受けた。


 ◇


「疲れた……」


 練習が終わり、勇真は体育館の壁際に座り込んだ。


「体力落ちてるな」


 成瀬が笑う。


「うるせえ……」


「中学でやってたんだろ?」


「卒業してから……」


 言いかけて止まる。


 本当の感覚では三年近くまともにバスケをしていなかった。


 だが今の自分は、中学を卒業したばかりだ。


「中学の最後の方、あんまり真面目にやってなかったんだよ」


「もったいないな」


 成瀬が隣に座る。


「矢城、普通に上手いのに」


「そう?」


「特に判断速いよな」


 以前も似たことを言われた。


 勇真自身、そこだけは少し自信がある。


 身体能力なら成瀬の方が上だ。


 技術だって、自分より上手い奴はいくらでもいる。


 でも、周りを見て、その場でどう動くべきか判断することは昔から得意だった。


「なあ、矢城」


「ん?」


「入らない?」


 成瀬が言った。


「一緒にやろうぜ」


 勇真は体育館を見る。


 まだ練習している先輩たち。


 ボールの音。


 汗の匂い。


 さっきまで走っていたコート。


 以前なら考えただろう。


 バスケ部に入れば友達が増える。


 運動部なら女子からの印象もいいかもしれない。


 試合で活躍すれば、クラスでの立場も上がる。


 でも今は――。


「……うん」


 勇真は頷いた。


「入る」


「マジ?」


「うん」


 高石が笑う。


「やっと決めたか」


「うるさい」


「理由は?」


 成瀬に聞かれ、勇真は少し考えた。


 答えは簡単だった。


「やっぱバスケ、楽しいから」


「それで十分だろ」


 成瀬が笑った。


「だな」


 勇真も笑った。


 ◇


 体育館を出る。


「矢城くん」


「あれ、林?」


 円花が廊下にいた。


「今帰り?」


「うん。矢城くん、バスケ部見てたの?」


「見てたっていうか、参加してた」


「どうだった?」


「入ることにした」


「本当?」


 円花の表情が明るくなる。


「うん」


「よかったね」


「林に言われたのも、ちょっと効いた」


「私?」


「やる前から考えすぎても分からないって」


「ああ……」


 円花が少し照れたように笑う。


「でも、決めたのは矢城くんでしょ?」


「まあな」


「じゃあ私、何もしてないよ」


「いや、結構した」


「そう?」


「うん」


 勇真は歩き出す。


 円花も自然に隣へ並んだ。


「今日は一緒に帰る?」


 勇真から聞いた。


「……いいの?」


「何が?」


「部活の人と帰らなくて」


「別に毎日一緒に帰るわけじゃないだろ」


「そっか」


「それに今日は林と帰りたいし」


「…………」


 円花が黙った。


「どうした?」


「何でもない」


「なんだよ」


「何でもないって」


 少しだけ顔を逸らした円花の耳が、赤くなっているように見えた。


「……暑い?」


「違う」


「じゃあ何?」


「知らない」


「なんで怒るんだよ」


「怒ってない」


 勇真には理由が分からない。


 それでも、二人で歩く帰り道は心地よかった。


 ◇


 その夜。


 ベッドへ入った勇真は、スマートフォンを見る。


【4月19日】


 以前なら、今日の行動を一つずつ振り返っていただろう。


 バスケ部に入った。


 円花と帰った。


 名取とも話した。


 それぞれが正解だったのか考えていたはずだ。


 でも今日は、そこまで考えなかった。


「バスケ部……か」


 久しぶりに楽しみが増えた。


「明日、筋肉痛やばそうだな……」


 そんなことを考えながら目を閉じる。


 そして――。


 ◇


 ピピピピピピッ――!


「……ん」


 目覚ましを止める。


 勇真はスマートフォンを確認した。


【4月20日】


「…………」


 一瞬だけ画面を見つめる。


 そして、小さく笑った。


「よし」


 今日も一日が進んだ。


 それだけ確認すると、勇真はベッドから起き上がった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。