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『人生勝ち組になるまで、俺の青春は先に進まない』~間違った選択をすると、また今日が始まる~  作者: ダイヤマ
第1章 明日へ進むために

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第12話 何を間違えた?



【4月18日】


「昨日……何を間違えた?」


 矢城勇真はスマートフォンを握ったまま、しばらく動けなかった。


 昨日は失敗した感覚がない。


 むしろ、かなり上手くいった一日だった。


 昼休みには伊藤と本宮の衝突を止めた。


 清水からは「前よりマシになった」とまで言われた。


 放課後は名取たちに誘われ、駅前で遊んだ。


 楽しかった。


 自分が欲しかった高校生活に、一歩近づいたと思っていた。


 それなのに――戻った。


「何かあったはずだ」


 これまでだってそうだった。


 何の理由もなく戻されたことはない。


 少なくとも勇真は、そう考えている。


「昨日のどこだ……?」


 スマートフォンのメモを開き、昨日の出来事を書き出していく。


『朝――特に何もなし』


『授業――特に何もなし』


『昼――伊藤と本宮が揉める。止める』


『清水に前よりマシと言われる』


『放課後――名取たちと駅前』


 指が止まる。


「あ」


 円花。


『林と帰る約束をした』


『そのあと名取たちに誘われて断った』


「…………」


 一瞬だけ気になった。


 しかし、すぐに首を振る。


「いや……でも林、大丈夫って言ってたしな」


 怒っている様子もなかった。


 また今度一緒に帰ろうとも言ってくれた。


 もちろん、約束した後で断ったのは悪かったと思う。


 だが、それだけで一日そのものがやり直しになるのか。


「もっと別の何かじゃないか?」


 勇真はメモを見つめる。


 最も大きな出来事は――。


「伊藤と本宮か」


 喧嘩を止めたつもりだった。


 でも、自分は二人の事情をろくに聞かずに割って入った。


 結果的に収まっただけで、本当は違う対応があったのかもしれない。


「……今日はそこ変えてみるか」


 勇真はベッドから降りた。


 ◇


「おはよう、矢城」


「おはよう」


 教室へ入ると、名取が声をかけてくる。


 昨日と同じ四月十八日。


 けれど、すべてがまったく同じになるとは限らない。


 それはすでに分かっている。


 自分が行動を変えれば、周囲も変わる。


 だから今日は、できるだけ昨日と同じように過ごす。


 そのうえで、怪しいところだけ変えてみる。


「……実験みたいになってきたな」


「何が?」


「うわっ!」


 いつの間にか名取が目の前にいた。


「何一人で喋ってんの?」


「何でもない」


「矢城ってたまに独り言言うよね」


「マジ?」


「うん」


「気をつけよ……」


「別にいいけど」


 名取は笑いながら自分の席へ戻った。


 勇真は小さく息を吐く。


「危ねえ……」


 ループのことなど、誰にも話せない。


 ◇


 昼休み。


 勇真は堀井と話しながら、教室の後ろを気にしていた。


 そろそろだ。


 昨日なら――。


「だから返せって!」


 来た。


 本宮と伊藤。


 昨日と同じように、本宮の手にはプリントがある。


「これ、提出今日までだろ?」


「だから?」


「お前まだ白紙じゃん」


「俺の勝手だろ」


 ここまでは同じだ。


 勇真はすぐには立たなかった。


「矢城?」


 堀井が不思議そうに見る。


「ちょっと待って」


 昨日は二人の間へ入り、自分なりに仲裁した。


 でも今日は、もう少し様子を見る。


「あとでやるって言ってんだろ」


「その『あとで』で昨日もやらなかっただろ」


「本宮、お前さ……」


「レオ」


 佐藤が近づく。


 ここも同じだ。


「落ち着けって」


「まだ何もしてねえよ」


「殴るなら殴れば? それで自分が正しいと思うなら」


 伊藤の顔が変わった。


 昨日はここで自分が入った。


「……やっぱ危ないな」


 勇真は立ち上がった。


 ◇


「ちょっと待って」


「あ?」


「何?」


 二人が勇真を見る。


 昨日とは違い、勇真はまず本宮に聞いた。


「本宮。そのプリント、班で一枚出すの?」


「違う。全員分をまとめて僕が提出する」


「じゃあ伊藤のがないと、本宮も出せない?」


「そうだよ。だから言ってる」


「なるほど」


 次に伊藤を見る。


「伊藤、なんでやってないの?」


「忘れてた」


「……それだけ?」


「それだけ」


「お前が悪いじゃん」


「うるせえ」


 佐藤が笑う。


「今回はレオの負けだな」


「勝ち負けじゃねえだろ」


「じゃあ今やれば?」


 勇真が言う。


「本宮も、最初から『俺が困るから今やって』って言えばよかったんじゃない?」


「言ったよ」


「言い方」


「……僕の言い方が悪いってこと?」


「ちょっと」


「ちょっと?」


「結構」


 本宮の眉が動く。


「お前、意外とズバズバ言うな」


 佐藤がまた笑う。


「いや、だって……」


「まあいい」


 本宮が小さく息を吐いた。


「伊藤。十分でやって」


「命令すんな」


「お願いします」


「気持ちこもってねえな」


「やってください」


「もっと腹立つわ」


 それでも伊藤は席へ戻り、プリントを書き始めた。


「……これでいいのか?」


 勇真が小さく呟く。


「何が?」


 本宮が聞く。


「いや、何でもない」


 昨日よりは、ちゃんと事情を聞いて解決した。


 少なくとも悪くはなっていないはずだ。


 ◇


「矢城」


 自分の席へ戻ろうとすると、清水に呼び止められた。


「何?」


「今日のお前、なんか変じゃない?」


 清水の言葉に、勇真の心臓がわずかに跳ねた。


「……どこが?」


「何ていうか、最初からあいつらが揉めるって分かってたみたいだった」


「そんなわけないだろ」


「まあ、そうなんだけど」


 清水は納得しきれない様子で勇真を見る。


「だったら、何であんなに冷静だったの?」


「たまたまだよ。二人が喧嘩しそうだったから、ちょっと様子見てただけ」


「ふーん……」


 清水はまだ怪しそうにしていたが、それ以上は追及しなかった。


「まあいいけど」


 そう言って顔を逸らす清水を見ながら、勇真は内心で息を吐いた。


(危な……。同じ日を何度もやってたら、そりゃ動きも不自然になるよな)


 当然、清水は前の四月十八日を知らない。


 この日を繰り返していることを知っているのは、勇真だけなのだから。


 ◇


 放課後。


「矢城くん」


 円花がやってくる。


 来た。


 昨日と同じだ。


「今日……部活見に行く?」


「今日は行かない」


「そっか」


 円花が笑う。


「じゃあ、今日も一緒に帰る?」


「ああ」


 勇真は一度頷いた。


「いいよ」


「じゃあ先生にプリント出してくるから、ちょっと待ってて」


「分かった」


 円花が教室を出ていく。


 勇真はその背中を見送った。


「…………」


 昨日と同じなら、このあと名取たちが来る。


 そして――。


「矢城!」


 来た。


 名取。


 浅井。


 成瀬。


 高石。


「今日暇?」


 昨日と同じ質問。


「みんなで駅前寄って帰ろうって話してるんだけど、矢城も来ない?」


「…………」


 勇真は少し迷った。


 昨日はこの誘いを受けた。


 それ自体が間違いだった可能性も、もちろんある。


 だが――。


「今日はやめとく」


「え?」


「ごめん。先に約束してる」


 名取が少し意外そうな顔をした。


「誰と?」


「林」


「ああ」


 名取はすぐに納得した。


「じゃあ仕方ないね」


「また誘って」


「もちろん」


 浅井がニヤッとする。


「林さんと約束ねぇ」


「何だよ」


「別にぃ?」


「その顔やめろ」


 成瀬が笑う。


「じゃあまた明日な」


「おう」


 四人が教室を出ていく。


 勇真はその背中を見送りながら、少しだけ惜しいと思った。


 昨日は楽しかった。


 できれば今日も行きたかった。


 でも――。


「まあ、先に約束したしな」


 そう呟いた。


 ◇


「お待たせ」


 円花が戻ってきた。


「うん」


「行こっか」


「行こう」


 二人で教室を出る。


 昨日とは違う放課後になった。


 ◇


「昨日より……じゃなくて」


 危うく口を滑らせ、勇真は慌てて止まった。


「何?」


「何でもない」


「今日、矢城くん変だね」


「今日二人目だよ、それ言うの」


「誰に言われたの?」


「清水」


「清水さん?」


「うん」


「何したの?」


「何もしてないって」


 円花が少し笑う。


 昨日の名取たちとの寄り道とは違う。


 静かな帰り道。


 話が途切れることもある。


 でも、不思議と退屈ではない。


「そういえば」


 円花が言う。


「バスケ部、どうするの?」


「まだ迷ってる」


「好きなんでしょ?」


「バスケは好き」


「じゃあ入ればいいのに」


「そんな簡単に決めていいのかなって」


「どうして?」


「三年間続けることになるし」


「途中で辞めたっていいんじゃない?」


「え?」


 勇真は円花を見る。


「やってみて違うと思ったら、その時考えればいいと思う」


「……林って意外と適当だな」


「適当じゃないよ」


 円花が少し頬を膨らませる。


「やる前から考えすぎても分からないってこと」


「…………」


 それは勇真にとって耳の痛い言葉だった。


「俺、そういうの多いかも」


「考えすぎること?」


「うん。失敗したらどうしようとか、変に思われたらどうしようとか」


「私も考えるよ」


「林も?」


「うん。でも」


 円花は少し考える。


「最近の矢城くん、前より楽しそうだから」


「またそれ言われた」


「誰に?」


「名取」


「名取さんも思ってるんだ」


「そんな変わったかな」


「変わったと思う」


 円花が笑う。


「いい方に」


「……そっか」


 素直に嬉しかった。


 ◇


 その夜。


 勇真はベッドの上で今日を振り返っていた。


「昨日とは結構変えたよな」


 伊藤と本宮の仲裁方法を変えた。


 名取たちの誘いを断った。


 円花との約束も守った。


 昨日、怪しいと思った部分はかなり変えたはずだ。


「これなら……」


 スマートフォンを見る。


【4月18日】


 目を閉じる。


「頼むぞ……」


 眠りに落ちた。


 ◇


 ピピピピピピッ――!


 目覚ましが鳴る。


「……ん」


 勇真は手探りでスマートフォンを掴んだ。


 画面を見る。


【4月18日】


「…………」


 身体が固まった。


「嘘だろ」


 もう一度見る。


【4月18日】


「なんでだよ……」


 昨日とは行動を変えた。


 名取たちとも遊ばなかった。


 円花との約束も守った。


 伊藤と本宮にも、昨日よりちゃんと対応したつもりだ。


 それでも――進まない。


「じゃあ……何が違うんだ?」


 勇真は頭を抱えた。


 何かを見落としている。


 それだけは分かる。


 でも、それが何なのか分からない。


「くそ……」


 また四月十八日。


 三度目の朝が始まった。



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