第七章《文化祭⑵》
翌日から、文化祭の準備が始まった。
教室には段ボールや絵の具が並び、廊下にはほかのクラスの笑い声が響いている。
「ここはもっとお城っぽくしよう!」
「それいい!」
文化祭まであと一週間。
みんな忙しそうに準備を進めていた。
「ひーちゃん、セリフ合わせよう!」
茜音が台本を持って走ってくる。
「う、うん。」
私は台本を開く。
シンデレラの最初のセリフ。
「……お、お義母さま。」
声が小さすぎて、自分でも聞こえなかった。
「もっと大きく!」
演劇係の男子が言う。
「ご、ごめんなさい……。」
私はうつむいてしまう。
(やっぱり無理かも。)
その時だった。
「ヒサ。」
月斗が隣へ来る。
「最初から上手いやつなんていない。」
「でも……。」
「俺も王子なんて初めてだ。」
少しだけ笑う月斗。
「一緒に頑張ろう。」
私は小さくうなずいた。
「……うん。」
休憩時間。
「疲れたー!」
茜音は机に突っ伏した。
「魔法使いって意外とセリフ多い!」
「自分でやりたいって言ったじゃん。」
月斗が笑う。
「そうだった。」
三人は顔を見合わせて笑った。
その笑い声を聞いて、氷雨も少しだけ肩の力が抜けた。
放課後。
今度は音楽室。
「演劇終わったら演奏練習だ!」
茜音がケースを開ける。
「忙しいね。」
氷雨もフルートを組み立てる。
「文化祭まであと一週間。」
月斗が楽譜を譜面台へ置く。
「一回通そう。」
演奏が始まる。
昨日より音が揃っていた。
途中で目が合う。
茜音が笑う。
月斗がうなずく。
私も笑った。
先生は少し離れた場所で三人を見ていた。
「本当に仲がいいな。」
その言葉に三人は照れくさそうに笑う。
練習が終わる頃には外は夕焼けだった。
音楽室の窓からオレンジ色の光が差し込んでいる。
私は最後の一カ月ノートを開いた。
⑤ 文化祭で演奏する
その文字を指でなぞる。
(もうすぐ叶う。)
ノートを閉じる。
「帰ろうか。」
「うん。」
校門を出る。
夕焼けの空を見上げながら三人で歩く。
「文化祭、成功するといいね。」
茜音が笑う。
「絶対成功する。」
月斗が静かに答える。
私は二人を見て微笑んだ。
「うん。」
三人の声が重なる。
「また、明日。」
文化祭前日。
学校中がいつもより少しだけ騒がしかった。
廊下には色とりどりの飾り付け。
体育館ではステージの準備が進んでいる。
教室には絵の具の匂いが漂っていた。
「やっと完成だー!」
茜音が大きく伸びをする。
みんなで作ったシンデレラのお城の背景が黒板いっぱいに飾られていた。
「すごい……。」
私は思わず見上げた。
「本当に劇ができそうだね。」
「できるじゃなくて、やるんだよ!」
茜音が笑う。
「そうだな。」
月斗もうなずいた。
「じゃあ、最後にリハーサルをするぞ。」
舞園先生の声が響く。
みんなが舞台へ集まる。
劇は順調に進んでいく。
「シンデレラ。」
王子役の月斗が手を差し出す。
私は少し緊張しながらその手を取った。
「ありがとうございます。」
拍手が起こる。
先生は満足そうにうなずいた。
「いい出来だ。」
私はほっと胸をなで下ろした。
昼休み。
三人で校庭のベンチに座る。
「緊張する?」
茜音が聞いた。
「……ちょっと。」
「大丈夫だよ!」
「俺も緊張してる。」
月斗が小さく笑う。
「えっ、月斗でも?」
「当たり前。」
「なんか安心した。」
私は少しだけ笑った。
放課後。
今度は体育館で演奏のリハーサルだった。
ステージの上には譜面台が三つ。
客席には誰もいない。
それでも広い体育館は少し緊張した。
「じゃあ始めます。」
先生の合図で演奏が始まる。
フルート。
アルトサックス。
バリトンサックス。
三つの音が体育館いっぱいに響く。
音が消えた後も静けさだけがしばらく残っていた。
演奏が終わると、
静かな拍手が聞こえた。
朝霧先生だった。
「本番もその調子だ。」
「はい!」
三人は笑顔で返事をした。
帰る前。
茜音が突然スマホを取り出す。
「あっ!」
「どうした?」
「ノート!」
私は思い出した。
⑥ みんなで写真を撮る
「撮ろー!」
茜音が三人を呼ぶ。
「先生も入ってください!」
「えっ、私もか?」
舞園先生も照れながら並ぶ。
「じゃあ撮るよー!」
三人は肩を寄せ合う。
月斗は少し照れながらも笑っていた。
私は自然と笑顔になっていた。
「いくよー!」
カシャ。
写真の中には、
今までで一番楽しそうに笑う私たちがいた。
「いい写真!」
茜音は満足そうに笑う。
私は写真を見つめながら思った。
(この一枚も、一生の宝物になる。)
校門を出る。
空には夕焼けが広がっていた。
「いよいよ明日だね。」
茜音が空を見上げる。
「あぁ。」
月斗も静かに答えた。
「楽しみ。」
私は小さくつぶやく。
そして三人はいつもの分かれ道へ着いた。
「じゃあ……。」
茜音が笑う。
「明日は最高の文化祭にしよう!」
「うん。」
「おう。」
三人は笑って手を振る。
「また、明日。」
夕焼けの中、それぞれの家へ歩き出した。
その時はまだ。
その「また、明日。」が、
残された時間を数える言葉になるなんて、
誰も知らなかった。




