第四章《最後の一カ月ノート》
次の日、少しだけ秋の風が涼しく感じる朝だった。
「忘れ物大丈夫?」母のいつもの声が聞こえた。
「はーい」私は答えた。
ローファーを履き、家を出た。
「今日も早いね!」茜音に言われた。
「よしっ、行こー」
学校に着いた。
「最後の一カ月ノート書かない?」
茜音がノートを開きながら言った。
「いいね。」
私はうなずく。
「じゃあ、一つ目!」
茜音は勢いよくペンを走らせた。
① 花火大会を見る
「やっぱり夏の終わりは花火でしょ!」
「楽しそう。」
私は小さく笑った。
「じゃあ、俺は……。」
月斗が少し考えてから書く。
② 海で遊ぶ
「前も遊ばなかった?」茜音が言った。
「まぁ、楽しければいい。」月斗が答えた。
「ふーん」
茜音は笑って次を書き始める。
③ タイムカプセルを埋める
「え、でも掘り返せないじゃん。」
月斗が言う。
「いいの!未来の誰かが見つけてくれるかもしれないじゃん!」
「それも面白そう。」
私はそう言った。
「次は?」
「ヒサ、書いてみ。」
「えっ、私?」
私は少し迷いながらペンを持つ。
④ 海で日の出を見る
「ひーちゃんらしい。」
茜音が微笑む。
「朝、起きられる?」
月斗が聞く。
「……頑張る。」
「じゃあ俺も付き合う。」
「私も!」
三人で笑った。
「次は絶対これ!」
茜音は迷わず書く。
⑤ 文化祭で演奏する
「部活なくなっちゃったけど……。」
「最後くらい吹きたいよね。」
私は言った。
「うん。」
月斗もうなずく。
「じゃあ次!」
私は少し勇気を出して書いた。
⑥ みんなで写真を撮る
「いいね!」
「あとで見返せるし。」
茜音が言う。
「……思い出になる。」
月斗も静かに笑った。
「まだまだ書けるよ!」
茜音は楽しそうにページをめくる。
⑦ かき氷を食べる
「もう九月だけどね。」
月斗が言う。
「まだ暑いから大丈夫!」
「私はいちご味。」
「俺はブルーハワイ。」
「えっ、月斗も青好きなんだ。」
「……別に。」
「照れた!」
「照れてねぇ。」
二人のやり取りに、私は思わず笑ってしまった。
「次!」
茜音が書く。
⑧ 隣町を探検する
「知らないお店とか行ってみたい!」
「またクレープ食べよう。」
私は言う。
「賛成。」
月斗が即答した。
「やっぱ甘党じゃん!」
「……うるさい。」
私はページの一番下へ、小さく書いた。
⑨ 星空を見る
「いいね。」
月斗が静かにつぶやく。
「晴れるといいなぁ。」
茜音が窓の外を見上げる。
「......じゃあ私これも」
⑩みんなで中学を卒業する
「!」二人の動きが止まる。
「やっぱ、無理だよね......」
私は消しゴムで消そうとした。
「でも、これ叶えたい。」
茜音が言った。
「俺も。」月斗も言った。
「できるかな......?」
「きっとできるよ!」茜音がうなずいた。
「未来は私たちの中にある!なんちゃって。」
私はノートを閉じた。
「全部、できるといいね。」
二人は笑ってうなずいた。
「うん。」
「ねぇ、帰りにコンビニでアイス買わない?」
「いいね。」
そして、帰り道。
コンビニは閉まっていた。
「あー、閉まってる!」
「最近増えてきたな。」
「そうだね......」
「それじゃあ、また、明日。」
その日の夜。
お風呂を済ませ、自分の部屋へ戻る。
机の上にカバンを置き、昨日買ったばかりの淡い水色のノートを取り出した。
表紙をそっとなでる。
「……海みたい。」
小さくつぶやいて、ノートを開く。
そこには今日、三人で書いた願い事が並んでいた。
① 花火大会を見る
② 海で遊ぶ
③ タイムカプセルを埋める
④ 海で日の出を見る
⑤ 文化祭で演奏する
⑥ みんなで写真を撮る
⑦ かき氷を食べる
⑧ 隣町を探検する
⑨ 星空を見る
どれも特別なことじゃない。
でも、だからこそ大切に思えた。
⑩みんなで中学を卒業する
これが一番叶えたい。
(全部、叶えられるかな。)
窓の外では虫の声が聞こえる。
カーテンを少し開けると、夜空には小さな星がいくつか輝いていた。
あと一カ月。
長いようで、きっとあっという間なんだろう。
私はノートの最後のページを開き、小さく一行だけ書き足した。
「毎日、『また明日』と言えますように。」
書き終えると、そっとノートを閉じる。
「……おやすみ。」
机の上にノートを置き、部屋の電気を消した。
窓の外では、静かな夜風がカーテンを優しく揺らしていた。




