第二十九章《最後の思い出》
2026年10月4日、日曜日。
明日世界は終わる。
今日もあの海に行った。
「やっぱ、最後はこの海だよねー。」
「うん。」
「今日は徹夜する?」
「うん。寝るのも勿体無い。」
「……衝突って明日の何時頃だっけ?」
「えーと……。」
「午前九時くらいじゃね?」
「うん。そのくらい。」
「そっか……じゃあ、二十四時間を切ったんだね。」
「……うん。」
「よーし!楽器でも吹くかー。」
「そうしよう。」
「おー!」
楽器を組み立てて演奏した。
最期の演奏になるかも……しれない。
それでも、笑顔で吹いた。
太陽が西に傾くまで。
「最後の夕日かな?」
「だな。」
みんなで夕日に反射してキラキラと光る水面を見つめた。
「……やっぱり綺麗だね。」
「うん。」
その最後の光を惜しむように目で追いかけた。
そして、星が姿を現した。
「あっ、星だ!」
「たくさんだねー。」
「あおちゃん、アレが夏の大三角形?」
「そう、もう沈みかけだね。」
「へー。」
「冬の大三角形は?」
「まだ見えないよ。もう少し夜が深くなってからかな。」
「そっか。」
「じゃあ、それも見ようよ。」
「うん。」
私たちは砂浜に座った。
波が寄せては返していく。
いつもと変わらない海。
でも、今日が最後になるかもしれない。
「……静かだね。」
「うん。」
「なんか、こうしてると明日地球が終わるなんて嘘みたい。」
「私も。」
「明日も普通に朝が来そう。」
「……そうだね。」
月斗が海を見つめる。
「でも、明日は来る。」
「え?」
「地球がどうなっても、今はまだ明日じゃない。」
「……うん。」
「だから、今は今を楽しもう。」
「そうだね。」
茜音が立ち上がった。
「じゃあ、次は何する?」
「まだ遊ぶの?」
「もちろん!」
「元気だなぁ。」
「だって、寝るのもったいないんでしょ?」
「まあ、そうだけど。」
「じゃあ、みんなで話そうよ!」
「何について?」
「今までの思い出!」
「それいいね。」
私たちは今までのことを一つずつ話し始めた。
海に行ったこと。
花火を見たこと。
林間学校。
キャンプファイヤー。
学校最後の日。
タイムカプセル。
隣町探検。
星空を見たこと。
葵の誕生日。
「……いっぱい思い出あるね。」
「うん。」
「一カ月しかなかったのに。」
「一カ月だからこそ、たくさん思い出を作ったんじゃない?」
「そうかも。」
私は海を見た。
波の音が静かに響いている。
「……この音も、もう聞けなくなるのかな。」
「……。」
誰も答えなかった。
でも、誰も泣かなかった。
泣くのは、まだ早い。
私たちは最後の夜を、最後まで笑って過ごしたかった。
「ねえ。」
「ん?」
「明日の朝、みんなで日の出見ようよ。」
「いいね!」
「俺も賛成。」
「私も。」
「じゃあ、決まり!」
夜は静かに深まっていった。
そして、午前零時を過ぎる。
2026年10月5日月曜日。
地球最後の日が始まった。




