最終章《最後の一カ月の地球で》
今日は2026年10月5日月曜日。
隕石衝突当日。
みんなで徹夜をしたのでとても眠かった。
「あっ、あれ!」
「日の出だねー。」
「最後の日の出だ。」
「あと、三、四時間だな。」
「もう、終わっちゃうのか……。」
「そうだな。」
私たちはただ見つめていた。
大きな太陽を。
あと少しで終わりを迎えることなんて嘘のようだった。
「本当に隕石って来るの?」
「うーん。」
「スマホで速報見てみる?」
「うん。」
〔速報です。隕石衝突まで残りわずかとなってしまいました。当たり前が終わりを迎えようとしています。それでも最後まで笑顔を忘れないでください。〕
「本当に終わっちゃうんだね……。」
「うん。」
「そんな悲しいことばっかいうなって。」
「そうだ!」
「ひーちゃん、どうしたの?」
私はカバンから最後の一カ月ノートを取り出した。
「じゃじゃーん!」
「おお!それで何するの?」
「今までの思いを書く。」
「いいね。」
私たちは海辺に座って、最後の一カ月ノートを開いた。
最初のページには、一カ月前の私の字が残っている。
『隕石衝突まであと一カ月。』
あの頃は、まだ一カ月もあると思っていた。
でも、気づけば今日が最後の日。
「まず、何書く?」
「やっぱり最初は海じゃない?」
「海?」
「うん。最初にみんなで行った場所だから。」
「確かに!」
私はペンを握った。
そして、ゆっくりと書き始める。
『一番最初に、みんなで海に行った。』
その下に、みんなで少しずつ言葉を足していった。
『花火を見た。』
『学校でいっぱい遊んだ。』
『林間学校に行った。』
『付き合った。』
「月斗、それ書くの?」
「大事な思い出だろ。」
「……まあ、そうだけど。」
「ひーちゃん、顔赤いよ!」
「もう……。」
『タイムカプセルを埋めた。』
『隣町を探検した。』
『展望台で星を見た。』
『葵の誕生日を祝った。』
ページが少しずつ埋まっていく。
「……いっぱい書いたね。」
「うん。」
「一カ月しかなかったのに。」
「一カ月だったからこそ、いっぱい遊んだんだよ。」
茜音が笑った。
「ねえ、最後に一人ずつ書こうよ。」
「何を?」
「未来の自分へ。」
「未来の自分?」
「うん。」
私は少し考えてから、ノートに書いた。
『もし、この先も生きていたら。
また、この海に来たい。』
茜音は、
『またみんなで遊びたい!』
月斗は、
『来年を迎えたい。』
葵は、
『また星を見たい。』
それぞれの言葉を見て、私たちは笑った。
「……みんな、同じようなこと書いてるね。」
「だって、また会いたいから。」
「うん。」
そのときだった。
空の彼方から、かすかな光が見えた。
「……あれ?」
「どうした?」
「見て。」
私たちは空を見上げた。
遠くの空に、小さな光が浮かんでいる。
それは、少しずつ大きくなっていた。
「……来た。」
「……うん。」
誰も逃げなかった。
怖くないわけじゃない。
悲しくないわけでもない。
それでも、私たちは手をつないだ。
「最後まで、一緒にいよう。」
「うん。」
「もちろん。」
「約束。」
私は海を見た。
一カ月前と同じ海。
太陽も、空も、波も。
何も変わっていないように見える。
でも、私たちは変わった。
一カ月前より、ずっと大切なものが増えた。
「……楽しかったね。」
「うん。」
「本当に、楽しかった。」
「じゃあ……。」
私は笑った。
そして、みんなに言った。
「また、明日。」
「うん。」
「また明日!」
「また、明日。」
「また明日。」
最後まで、私たちは笑っていた。
――こうして、私たちの最後の一カ月は幕を閉じた。
― 完 ―




