第二十二章《再び海へ》
「おはよー!」
「あ、おはよう。」
「林間学校楽しかったね!」
「うん。」
「ヒサ、おはよう。」
「あ、うん。おはよう。」
「ひーちゃん、照れてる!」
「照れてないし。」
「顔真っ赤だよ!」
「……。」
「ほらっ、行くぞ。」
「うん。」
そして、学校に着く。
「はー、一時間、英語かー。」
「あれっ?茜音って英語嫌いだったっけ?」
「うん。だってここ日本だよ!」
「えっ?」
「それに……あと二週間だし。」
「まぁ、確かにねー。」
「でも、もしかしたら。」
「そうだね。」
「てか、今日、九月二八日だからあと一週間だよ。」
「えっ!」
「そっか……。」
「ねぇ、放課後空いてる?」
「うん。」
「じゃあ、楽器持ってあの海に行こう。」
「いいよ。」
「じゃあ、後でねー。」
一時間目、二時間目、あっという間に時間は過ぎていった。
一週間なんて、すぐだな。
そして、放課後になった。
「じゃあ、正門前で。」
「うん。」
「そういえば、月斗も来る?」
「いいのか?」
「もちろん。」
「わかった。」
この前と同じ16時、私たちは楽器を持って集まった。
「じゃあ、行くか。」
「うん。」
「レッツゴー!」
海が近づくにつれて潮の匂いが濃くなっていく。
ザーザー波が押し寄せる音が聞こえた。
「この前と同じだね。」
「……うん。」
「あおちゃんは初めてだね。」
「うん。」
「いつ見ても綺麗。」
「あぁ。」
「もう、九月も終わるんだね。」
「そうだな。」
「しみじみしてないで、楽器吹こうよ!」
「そうしよう。」
楽器を組み立てた。
「あおちゃん、クラリネットって日光に当たったらダメだよね?」
「うん。あそこのパラソルの下で吹かない?」
「了解!」
私は、海を見つめた。
この海も、あと少しで……。
「ひーちゃん!吹こう!」
「う、うん。」
「何吹く?」
「うーん。」
「文化祭の曲とか?」
「いいねー。」
「そういえば、クラリネットの楽譜もらってた。」
「じゃあ、あおちゃんも吹けるね。」
「なんていう曲?」
「また、明日。」
「いいね。」
「じゃあ、行くぞ。」
最初に流れるのは、私のフルート。
優しく、透き通った音が体育館いっぱいに広がる。
続いて茜音のアルトサックス。
明るく温かい音色が重なる。
そして、葵のクラリネット。
文化祭では無かった音が重なる。
最後に月斗のバリトンサックス。
低く力強い音が、三人を優しく支える。
四人の音色が海に響いた。
赤い夕日が私たちを照らしている。
「はー、もう終わりか。」
「早いね。」
あっという間に日は暮れた。
「みて、星が綺麗だよ。」
「幻想的。」
「②と⑨叶えられたね。」
「うん。じゃあ、日の出も見よう。」
「えー、明日も学校だよ。」
「まぁ、いいじゃん。」
「俺は賛成。」
「私も。」
「わかったよ。」
「ちょっと待って、親の許可取るから。」
「そうだ、私もお母さんの許可取らないと。」
「私も。」
「俺も。」
「よーし、私は許可取れたよ。みんな取れた?」
「うん。」
「じゃあ、みんなで④の海で日の出を見るを叶えよう!」
「おー!」
「スピースピー。」
「茜音、寝るの早っ!」
「秒で寝たね。」
「世界記録取れるんじゃね?」
「確かに。」
「えーと、日の出は……五時四十五分過ぎだって。」
「じゃあ、五時半に起きるか。」
「うん。」
「じゃあ、おやすみ。」
静かになったパラソルの下で私たちは眠りについた。
ジャジャジャジャーン!
「うわっ!」
「ふあー、おはよう。」
「ビックリした。」
「なんで、運命?」
「いつも目覚ましこれだよ。」
「まじか。」
「ちなみに、通称『運命』の曲はL.v.ベートーヴェン作曲の交響曲第五番ハ短調作品67だよ。」
「ほう。」
「この曲の初演は――」
「ひーちゃん、詳しすぎない?」
「うん。まあね。」
「日の出楽しみ。」
「見たことないや。」
その時、水平線のあたりが明るくなってきた。
「あ、あれ日の出じゃない?」
「本当だ。」
「……綺麗。」
「だな。」
私たちはしばらく、何も言わずに日の出を眺めていた。
赤く染まった空が、少しずつ明るくなっていく。
海も太陽の光を反射して、キラキラと輝いていた。
「……なんか、不思議だね。」
葵が呟いた。
「何が?」
「昨日の夕日を見て、星を見て、今は日の出を見てる。」
「確かに。」
茜音が空を見上げる。
「一晩で全部見ちゃったね。」
「うん。」
私は海を見つめた。
こんな景色が、ずっと続けばいいのに。
そう思った。
でも――。
あと一週間。
この世界が終わるまで、あと一週間。
「……ひーちゃん?」
「えっ?」
「どうしたの?」
「ううん。なんでもない。」
私は笑った。
「そろそろ学校行かないと。」
「そうだね。」
「眠い……。」
「茜音、昨日秒で寝たじゃん。」
「寝たけど眠いものは眠い!」
「ふふっ。」
みんなで片付けを始めた。
パラソルを片付ける。
そして、最後に海を見る。
「じゃあ、行こうか。」
「うん。」
私たちは海をあとにした。
そして、学校に着いた。
「……眠い。」
「私も。」
「俺も。」
「私は意外と大丈夫。」
「あおちゃんすごい……。」
「昨日ちゃんと寝たから。」
「私は寝たけど、もっと寝たい!」
「それはいつものことじゃない?」
「ひどい!」
四人で笑いながら歩く。
昨日まで林間学校にいたのが、なんだか嘘みたいだった。
でも、隣にはみんながいる。
それだけで安心した。
やがて学校が見えてきた。
「おはよー!」
「おはよう。」
「おはようございます。」
「おはよう。」
いつもと変わらない朝。
先生も、クラスのみんなも、昨日までと同じように学校へ来ている。
世界が終わるなんて、誰も思っていないみたいだった。
「じゃあ、また放課後ね。」
「うん。」
「今日はどこ行く?」
「えっ、今日も?」
茜音が笑う。
「だって、あと一週間だよ?」
「……そうだった。」
「じゃあ、放課後にやりたいこと決めよう!」
「うん。」
私は頷いた。
残された時間は少ない。
だからこそ――。
「みんなで、いっぱい思い出作ろう。」
「賛成!」
「私も。」
「俺も。」
四人で笑った。
その日の放課後。
私たちは教室に集まって、机を囲んだ。
「じゃあ、残り一週間でやりたいこと!」
茜音が黒板に書く。
「まずは……」
「海。」
「もう行ったじゃん。」
「何回行ってもいいでしょ!」
「確かに。」
「じゃあ海は決定。」
黒板に大きく『海』と書かれる。
「次は?」
「花火。」
「まだできるかな?」
「探してみようよ。」
「うん。」
『花火』
「あっ、あと③のタイムカプセルを埋める。」
「楽しそうだね。」
「これは、明日やろう!」
「いいね。」
「埋めたいもの持ってきてね。」
「了解!」
「あと、みんなで食べ歩き!」
「いいね。」
「ひーちゃん、甘いもの食べたい?」
「うん。食べたい。」
「じゃあ決まり!」
『食べ歩き』
次々とやりたいことを書いていく。
「……いっぱいあるね。」
葵が黒板を見る。
「うん。」
「一週間で全部できるかな?」
「できるよ!」
茜音が笑う。
「だって――」
そして、黒板の一番上に大きく書いた。
『最後まで、四人でいる』
「……。」
私はその文字を見つめた。
月斗も、葵も、茜音も黙っている。
「これが一番大事。」
茜音が笑った。
「……うん。」
私は頷いた。
あと一週間。
長いようで、きっと短い。
でも――。
この一週間を、絶対に忘れない。
そう思った。




