第二十一章《林間学校11帰宅》
長かったような短かったような林間学校も今日で終わる。
地球はあと一週間ぐらい。
「おはよー!」
「おはよう。」
「ほらっ、ひーちゃん起きて!」
「あと五分……。」
「もう、あと十分で出発だよ!」
「えっ!」
私は慌てて飛び起きた。
「冗談、冗談。」
「ビックリしたー。心臓にわるい。」
「でも、こうでもしないと起きないでしょ。」
「まぁね、ありがと。」
そして、帰りのバス。
「あっ。」
「あっ。」
私は月斗と隣だったことをすっかり忘れていた。
「なんと!昨日カップルになった二人が隣の席だった!」
「茜音、うるさい!」
「てへっ。」
「ヒサ、どっちがいい?」
「えーと、通路側で。」
「オッケー。」
月斗が通路側に座った。
私はその隣。
……近い。
昨日までなら何とも思わなかった距離なのに。
今は、少しだけ心臓が速くなる。
「……。」
「……。」
二人とも黙っている。
「あれ?」
前の席から茜音が顔を出した。
「二人とも、静かじゃない?」
「えっ?」
「昨日まで普通に話してたのに。」
「そ、それは……。」
「昨日カップルになったから?」
「茜音、うるさい……。」
「てへっ。」
「ふふっ。」
葵が小さく笑った。
「あおちゃんまで笑わないでよ……。」
「ご、ごめん。でも、なんか微笑ましくて。」
「うぅ……。」
恥ずかしい。
「そういえば、あおちゃんは昨日ちゃんと寝られた?」
茜音が聞いた。
「うん。……でも、ちょっと寂しかった。」
「え?」
「林間学校、今日で終わりだから。」
「あー……。」
茜音が少し寂しそうな顔をする。
「楽しかったもんね。」
「うん。」
私も窓の外を見る。
山道を走るバス。
少しずつ、見慣れた景色に戻っていく。
「……終わっちゃうんだね。」
「うん。」
葵が窓の外を見ながら呟いた。
「でも、またみんなで遊べばいいじゃん。」
茜音が言う。
「そうだね。」
月斗も頷いた。
「……うん。」
私は小さく笑った。
すると――。
「ヒサ。」
「な、なに?」
月斗が少し小さな声で言った。
「昨日のこと。」
「……!」
思わず月斗を見る。
「俺、嬉しかった。」
「……。」
顔が熱くなる。
「そ、そういうこと言わないでよ……。」
「ごめん。」
「……でも。」
「うん?」
「私も……嬉しかった。」
「……そっか。」
月斗が少し笑った。
その笑顔を見て、私も少しだけ笑う。
「……これからもよろしくね。」
「うん。こちらこそ。」
「おーい!」
突然、前から茜音の声が聞こえた。
「二人とも何話してるのー?」
「なんでもない!」
「怪しいなー。」
「本当に何でもないって!」
「ふふっ。」
葵も楽しそうに笑っている。
「あおちゃんまで……。」
「ご、ごめん。でも、二人とも昨日からずっとこんな感じだから。」
「うぅ……。」
恥ずかしい。
でも――。
こうやってみんなと一緒にいる時間が、私は好きだった。
しばらくすると、バスの窓から見慣れた町が見えてきた。
「あっ、学校見えた!」
茜音が指を差す。
「ほんとだ。」
「もう着くんだね。」
葵が少し寂しそうに言った。
「楽しかったね。」
「うん。」
「また行きたいなー。」
「また四人でどこか行こうよ。」
茜音が言う。
「うん。」
「私も行きたい。」
「俺も。」
「じゃあ決まり!」
四人で笑った。
やがてバスは学校に到着した。
「みんなー! 忘れ物ないようにねー!」
舞園先生の声が聞こえる。
「よーし、荷物持って帰ろー!」
「重い……。」
「ひーちゃん、大丈夫?」
「うん。ちょっと重いけど大丈夫。」
「じゃあ、これ持つよ。」
月斗が私の荷物を持とうとする。
「えっ、いいの?」
「うん。」
「ありがとう。」
「月斗、優しいねー。」
茜音がニヤニヤする。
「別に普通だろ。」
「ふふっ。」
私も思わず笑った。
そして、私たちは四人で学校を出た。
「じゃあ、ここで解散だね。」
葵が言う。
「うん。また明日!」
「また明日ー!」
「また明日。」
「……また、明日。」
私はその言葉を口にした。
あと一週間。
地球はあと一週間ぐらい。
それでも――。
私は、この四人で「また明日」と言えることが嬉しかった。
「じゃあね!」
「また明日!」
四人はそれぞれの帰り道へ向かった。
私は帰り道、空を見上げた。
青い空。夏の雲。
あと一週間で、この景色も変わってしまう。
それでも――。
私たちの夏は、まだ終わっていなかった。




