第二章《海を見に》
「競争しよー!」
「ちょ、茜音、速いよ!」
「置いてくぞー。」
月斗は前を走りながら小さく笑う。
海が近づくにつれて潮の匂いが濃くなっていく。
ザーザー波が押し寄せる音が聞こえた。
「海着いたー!」茜音が叫んだ。
自転車で約二十分、海に着いた。
海風が吹いてきて涼しい。
「ねぇ、海で何するの?」私は聞いた。
「えっ、あっ、なんも考えてなかった。」月斗は言った。
「えっ〜」私たちは叫んだ。
(なんで海?)
頭に?が浮かぶ中、月斗は言った。
「見たくなった。」
「ねぇ、ひーちゃん!貝殻探さない?」
茜音がしゃがみ込み、砂浜を見つめながら言った。
「うん、いいよ。」
「じゃあ、一番大きいのを見つけた人が勝ちね!」
「勝ったら何かあるの?」
月斗が聞く。
「えーっと……。」
茜音は少し考えてから笑った。
「勝った人は、みんなにジュースおごってもらえる!」
「了解」
「じゃあ、スタート!」
そう言うと、茜音は勢いよく砂浜を走り出した。
「待ってよー!」
私もあとを追いかける。
三人でローファーを脱ぎ、裸足で砂浜を歩いた。
「あっ!」
「どうした?」
「見て、丸い貝殻。」
手のひらに乗せると、白くて小さな貝殻だった。
「かわいい。」
「ひーちゃんらしいね。」
茜音が笑う。
「大きさ勝負だから、それじゃ勝てないよ!」
「う、うん……。」
その時だった。
「おい。」
月斗が私たちを呼ぶ。
「これ。」
手には青く透き通った小さなガラス片があった。
「きれい……。」
「シーグラスだ。」
太陽の光を浴びて、海の色みたいにきらきら光っている。
「すごーい!」
茜音は目を輝かせた。
「こんなの初めて見た!」
「波で何年も削られると、こうなるらしい。」
「へぇ~、月斗物知り!」
「……前に調べた。」
少し照れたように月斗が言う。
「ヒサ、持ってみる?」
「いいの?」
「うん。」
私はそっと受け取った。
ひんやりしていて、角は丸くなっている。
まるで海が作った宝石みたいだった。
「きれい……。」
思わず声が漏れた。
「じゃあ、それはヒサにあげる。」
「えっ?」
「俺はまた見つければいいし。」
「……ありがとう。」
私は大事にポケットへしまった。
そのあとも三人で砂浜を歩きながら、大きな貝殻を探した。
「見て見て!これ!」
茜音が両手いっぱいに大きな貝殻を持って走ってくる。
「それ、割れてるよ。」
月斗が冷静に言う。
「えぇー!?」
「惜しかったね。」
私は思わず笑ってしまった。
「ひーちゃん笑った!」
「えっ……。」
「やっと笑った!」
「べ、別に……。」
照れて顔をそらす私を見て、茜音も月斗も笑った。
波の音と、三人の笑い声が、静かな海にいつまでも響いていた。
その後、私たちは二時間ぐらい遊んだ。
そして、空と海が夕陽のオレンジ色に染まった。
防波堤に三人で座る。
自動販売機で買ったジュースを飲む。
カモメが鳴いている。
「こういう時間、好き。」
私は小さくつぶやいた。
「あぁ〜、疲れた。」茜音が言った。
「そろそろ帰る?」
月斗が珍しく照れくさそうに、
「なぁ、楽器吹かない?」と言った。
「いいね!」
「何吹く?」
「去年の文化祭の曲。」
「覚えてる?」
「たぶん。」
「間違えてもいいじゃん。」
「最後かもしれないし。」
楽器を取り出し、組み立て始めた。
楽器に反射した光が眩しい。
そして、去年の文化祭で演奏した曲を吹き始めた。
海に音が響き渡る。
ザーザーと波が音を立てている。
オレンジ色の空が、少しずつ藍色の空に染まっていく……。
最後の音が消えた。
「そろそろ帰ろうか。」と月斗が言い、楽器を片付け始めた。
十九時、私たちは海をあとにした。
「また、明日」夕焼けに、その言葉だけが静かに溶けていった。




