第十四章《林間学校⑷一日目》
少し冷たい風が吹いていた。
「これから、朝会を始める。」
「一同、規律、令、着席。」
「では、今日から四日間お世話になるホテルの方々に挨拶をする。」
「よろしくお願いします。」
「それでは到着式を終わる。各自部屋へ向かい、十四時三十分にここへ集合だ。」
先生の合図で、みんな一斉にホテルへ向かった。
「うー、寒い。」
茜音が言った。
「うん、部屋に行って暖かい服に着替えよう。」
「じゃあ、行こー!」
「この後ってなんだっけ?」
「たぶん、班でハイキングだと思う。」
「へ〜。」
「おい、ヒサ寒そうだけど大丈夫か?」
「あっ、うん、寒いの苦手なんだ。」
「じゃあ、俺の上着貸してやるよ。」
「え〜、でもそれじゃあ、月斗が寒いじゃん。」
「俺は大丈夫だから、ほらっ。」
月斗は自分で羽織っていたパーカーを貸してくれた。
「わー、ありがとう。暖かい。」
茜音と葵がニヤニヤしながら、見ていた。
「やっぱり、両思いだな〜。」
茜音が小さい声で言ってきた。
「そっ、そんなんじゃないよ!」
「ひーちゃん、明らかに動揺してるよ。」
「もう、葵まで!」
「ほらっ、行くよ。」
「あー、ちょっと、引っ張らないでよ〜!」
今日から始まる四日間。この思い出が、最後まで笑顔であふれるものになりますように。そんなことを願っていた。
「私たちの部屋三〇四号室だね。」
「うん!」
「しかも角部屋じゃん!」
「俺は向かいの三〇八号室か。」
「おぉ、近いじゃん!」
「じゃあ、着替えて部屋の前に集合で。」
「はーい!」
そして部屋に着いた。
「疲れたー。」
「着替えよう。」
私は水色を基調とした私服に着替えた。
「ひーちゃんの服、可愛い!いいな。」
「……ありがとう。茜音のも可愛いよ。」
「あおちゃんの服かっこいい!」
「えっ?そうかな?」
葵が照れていた。
「じゃあ、行こー!」
「うん。」
そして月斗と合流した。
「遅い!」
「あー、ごめんね。でも、女子って支度に時間かかるんだ。」
「ならいいけどよ。」
服、変じゃないかな?
「ほらっ、行くぞ。」
月斗の顔は少し赤くなっていた。
花火大会や文化祭の時のように。
……月斗、また照れてる。
「そこの茜音と葵もな。」
「はいはい、わかってるって。」
そして、集合場所に着いた。
「これから、ハイキングだ。くれぐれも熱中症、怪我などが無いように。」
舞園先生が言った。
「では、行ってこい!」
「はい!」
みんなが続々と歩き出した。
「私たちも行こー!」
「うん。」
「気をつけろよ。」
そして森の中へ入って行った。
森では鳥たちが楽しそうにさえずっていた。
道端には色とりどりの花が咲き、木漏れ日が優しく差し込んでいた。
景色に目を奪われた、その時だった。
「あっ!」
「ヒサ!」「ひーちゃん!」
私は階段を踏み外してしまった。
「痛い……。」
「ひーちゃん、大丈夫?」
「歩ける?」
「ちょっと難しいかも……。」
「もー、世話の焼ける奴だな。ほらっ、乗れって。」
月斗は照れながら言ってきた。
「えっ、でも悪いよ。」
「いいからほらっ、よっと。」
「重くない?」
「あぁ、全然、むしろ軽いよ。」
月斗の背中は大きくて、安心する温もりがあった。
鼓動が少しだけ速くなった気がした。
相変わらず、茜音と葵はニヤニヤしていた。
私たちは無事にゴールに辿り着いた。
「大変だったねー。」
「じゃあ、俺、保健の小鳥遊先生のところまでヒサ送ってくる。」
「了解!舞園先生に言っとくね。」
「サンキュー。」
「ありがとう……。」
「全く、だから気をつけろと言ったのに……。」
「ごめん……。」
少し斜めに傾いた太陽が二人を照らした。
「眩しいな。」
「うん……。」
そして小鳥遊先生のいる部屋についた。
「あらあら、どうかした?」
小鳥遊先生が優しく話しかけてきた。
「二年一組十三番の豊咲氷雨と、十八番の八神月斗です。」
「はい。」
「あのー、足を挫いてしまって……。」
「そっか、痛かったね。たぶん軽く捻っただけだから、明日か明後日には普通に歩けるようになると思うよ。」
「はいっ。」
「じゃあ、包帯巻いとくね。」
「ありがとうございます。」
「無理はしちゃだめだよ。痛かったらすぐに言うんだよ。」
小鳥遊先生は優しく微笑んだ。
「じゃあ、お大事に!」
「はい。」
帰りも、月斗におんぶしてもらった。
「お前、本当に軽いなー、なに食べたらこんなに軽くなるんだ。」
「わかんないや。」
「あ、あの、月斗。今日はありがとう。」
「別にいいって。」
月斗は照れていた。
その横顔を見て、私も少し照れてしまった。
あと少しで、この世界は終わるけど来世があるなら……また、みんなと一緒だといいな。
「ヤベッ、早く帰らないと夕食間に合わねー。」
「頑張って!」
「おぉ、わかってるよ。」
そして十八時、食堂で夕食。
「よいしょ、ふー、ここでいいな。」
「うん、ありがとう。」
「じゃあな。」
「うん。」
月斗が男子たちのところに戻った。
「おい、月斗お前、豊咲とラブラブだな!」
「だから、そんなんじゃないって。」
「でも、お前、顔真っ赤だぞ。」
「これは熱いだけだから……。」
「本当か?」
「もう、いいだろ。ほら、早く食おーぜ。」
「ニヤニヤ、お前誤魔化したな。」
「うるせぇ、てかなんでニヤニヤって言うんだよ。」
「いいじゃねぇか。」
「もう、黙って食べろ。」
そんな月斗を横目にご飯を食べた。
「ねぇ、ひーちゃん、やっぱり月斗といい感じでしょ。」
「えっ、そんなことないって。」
「バレバレだよ。」
「ねー、あおちゃん。」
「うん、そうだよ。」
「からかわないでってばー。」
そんな笑いに包まれながら夕食を食べた。
そして十九時三十分、入浴の時間が終わり、消灯の二十二時まで暇な時間ができた。
「ねぇ、ひーちゃん!恋バナしよ!」
「えっ、どうせ私と月斗のことでしょ。」
「そうそう、で実際どうなの?」
「えー、気になる、気になる?」
歯磨きをしていた葵が戻ってきた。
「えーと、あのー、ねぇ……。」
「うんうん!」
「えー!花火大会で!」
「もう、シー!静かにしてよ。」
「へー、あの時からか。」
「でもねぇ、月斗は結構前からひーちゃんのことが好きだったんだよ。」
「えっ?」
「幼稚園の時、初めてひーちゃんを見て、一目惚れしたって、言ってたよ。」
「えっ……。」
思わず声が漏れた。
「そんな昔から私のことを……?」
「うん。それで私にどうしたら告白できるかって聞いてきたの。」
「じゃあ、茜音は結構前から知ってたの?」
「うん、小学六年生から。」
茜音は自慢気に言った。
「知らなかった。」
「私って、秘密を守るの上手くない?」
「そうだね。そういえば、茜音とあおちゃんは好きな人いないの?」
「えっ、私はひーちゃんと月斗を見てるだけで充分だなー。あおちゃんは?」
「えっ、私、私は……舞園先生。」
「へぇー、まあ、舞園先生ファンクラブあるもんね。」
「う、うん。」
照れてる葵を見るのは初めてだった。
「あおちゃん照れてるでしょ!」
「まぁね。」
そして消灯時間。
「じゃあ、明日も早いので、しっかり寝てくださいね。」
放送が流れた。
「おやすみなさい。」
電気が消えた。
「ねぇ、ひーちゃん、あおちゃん!夜更かししようよー。」
「明日早いからヤダー。」
「同じく。」
「ブー、ケチ。」
「じゃあ、最終日ならいいよ。」
「本当?」
「だから、早く寝てね。」
「うん、やった〜!」
「おやすみ。」
「おやすみ。」
眠りにつこうとしたが、明日のことを考えると眠れなかった。
「むにゃむにゃ、もう食べられないよ〜。」
てか、茜音もう食べられないよ〜って言ってるんだけど。
この寝言、アニメとかでしか見ないな。
もう、一日終わっちゃったんだな。
林間学校も、あと三日。
地球も、あと少し。
楽しい時間ほど、あっという間に過ぎてしまう。
だからこそ、一瞬一瞬を大切にしたい。
明日も、みんなとたくさん笑おう。
そう思いながら、私は静かに眠りについた。




