第十三章《林間学校⑶バスの中》
私はバスの外を見ていた。
ただただ、見ていた。
そして今、私は何故かコンビニを探していた。
時はバス発車直後。
「ねぇ、着くまでにコンビニ何個あるか探そう!」
茜音が急に言った。
「いいね!」
「じゃあ、私と葵は右の方見るから、ひーちゃんと月斗は左を見ててね!」
ということで私は今、窓の外を見ている。
(この辺はコンビニ少ないんだよな……。)
そんなことを、考えていた。
「こっち、今5個見つけたよ!」
「そっちは?」
「えっと……1個。」
「まだまだ、じゃん。」
「なんかそっちの方が多くない?」
「だって、こっち街の方だもん。そっち側は森の方じゃん。」
「あっ、確かに。」
「結局、右側は七個、左側は二個だったね。」
「圧勝ー!」
茜音が嬉しそうにガッツポーズをする。
私たちは負けたけれど、そんなことで笑えるのが少し嬉しかった。
「ねぇ、もう飽きたから、他のことしない?」
「いいよ。」
「何する?」
「じゃあ、しりとりしよー!」
「いいよ。」
「じゃあ、林間学校の"う"から!」
「うさぎ!」
「ぎゅうにゅう!」
「う……うみ!」
「みかづき!」
「きじ!」
「じょうしき!」
「き……きりぎりす!」
「すみ」
「みかん!あっ!」
「茜音の負けー!」
「いやっ、まだ終わってないし!」
「いやいや、"ん"がついたから負け!」
「んじゃめな!」
「何それ?」
「アフリカの国のチャドの首都の名前!」
「えー!そんなのあり?」
「ほらっ、続き!」
「もう!……じゃあ、なす!」
「すいか!」
みんなで笑った。
周りを見ると、クラスメイトも笑っていた。
こんな日が続くといいな。
そんな感じでしりとりを続けていると、窓の外に「木漏れ日パーキングエリア」の案内標識が見えてきた。
「十五分後に出発だから、遅れないように!」
舞園先生が言った。
「はい!」
「確か、ここでレクが入るのだよね?」
茜音が言った。
「うん……確か。」
「レクって何やるんだろうね?」
「校歌歌ったり、みんなでゲームしたり?」
「楽しそう!」
十五分後、木漏れ日パーキングエリアを出発した。
「では、出発する。忘れ物はないか?」
「バスが発車して五分くらい経った頃から、レクを始める。係のものは準備しておいてくれ。」
「はい!」
バスが再び走り始めて五分くらい経った頃。
「では、レクを始める。司会よろしく。」
「はい、今回司会を務めます、亀水と」
「氷室です。」
「よろしくお願いします!」
パチパチ。
「では、まず、校歌を歌っていきます!」
「でも、普通に歌うだけだと、つまらないですよね?」
「なので今回は、一人ずつ、一フレーズで歌っていきます。」
「校歌は四つのフレーズを順番に歌います。一人が一フレーズずつ担当して、全員が歌い終わったら最後のサビだけみんなで歌います!もちろん、先生にも歌っていただきます!」
「えっ、私も?聞いていないんだが?」
「はい!舞園先生にも歌っていただきます。」
「最後の人まで行ったら、
明日へ羽ばたく 潮凪中学校
をみんなで歌います。」
「それでは、ミュージックスタート!」
前奏。
最初の五十嵐さんが歌った。
「♪――」
私は少し恥ずかしかったけれど、小さな声で歌った。
茜音は元気いっぱいに。月斗は少し照れくさそうに。葵も周りに合わせながら歌っていた。
いつも体育館で歌っていた校歌が、今日は少しだけ違って聞こえた。
『これも最後になるのかな。』
そんなことを思うと、胸の奥が少しだけ熱くなった。
歌い終わると、大きな拍手と笑い声が車内に広がった。
「では、次はみんなで先生クイズをします。」
「えっ、これも聞いていないんだが?」
「また、聞いてないんですか?ちゃんといいましたよ。」
「そうか?」
先生と司会のやり取りにバス中が笑いに包まれた。
「えー!」「絶対わかんない!」「先生のことなんて知らないよー!」
車内はすっかり和やかな空気に包まれた。
「では、始めます。」
「第一問、舞園先生は何歳でしょう?⑴二十二歳⑵二十六歳⑶三十歳。」
何歳だったっけ?
意外と難しい……。
(先生って三十歳くらいのイメージなんだよな……。でも、考えてみると案外若いかも。)
「では、⑴だと思う人。」
まばらに手が上がっている。
「では、⑵だと思う人。」
あまり手が上がっていない。
「では、⑶だと思う人。」
クラスの大半がここで手を挙げた。
「そうしたら、先生答えを。」
「はい、正解は⑵の二十六歳でした。」
「えー!」
予想が外れた人たちから一斉に驚きの声が上がった。
バスの中は驚きと笑い声に包まれた。
「第二問!舞園先生の好きな食べ物は何でしょう?」
「⑴カレーライス ⑵ラーメン ⑶オムライス」
「ヒントください!」
「卵を使った料理だ。」
「えー!それじゃオムライスじゃん!」
「いや、カレーに卵乗せる人もいる!」
「それずるい!」
バスの中に笑い声が広がる。
「では、⑴だと思う人!」
数人が手を挙げる。
「⑵だと思う人!」
こちらも同じくらい。
「⑶だと思う人!」
一番多くの手が挙がった。
「では、先生。答えをお願いします。」
「正解は……⑶のオムライスだ。」
「やったー!」
「当たった!」
「先生、子どもっぽーい!」
「おいおい、それはどういう意味だ?」
その一言で、またバスの中は笑いに包まれた。
「はーい、レクの人ありがとう。では、まもなくホテルに着くので、忘れ物がないか確認すること!」
「はい!」
レクが終わると、車内は少しだけ静かになった。
窓の外には背の高い木々が続き、山の空気が少しずつ近づいてくる。
やがて木々の向こうから、大きなホテルが姿を現した。
「見えた!」
あちこちから歓声が上がる。
バスはゆっくりとホテルのロータリーへ入っていった。
バスを降りると、標高が高いからか少し寒かった。
「はー、やっと着いた!」
「疲れたね。」
「なぁ、荷物取って早く行こーぜ。」
「うん。」
山の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込む。見上げた空は、街よりもずっと近く感じた。
みんなの笑い声が、まだ耳に残ってる。
あと何回、こんなふうにみんなで笑えるんだろう。
ここから始まる三泊四日。この四日間が、私たちにとってどんな思い出になるのか。まだ、この時の私は何も知らなかった。




