悪魔と幽霊
「話ってなんだろうね」
「わかんね。会ってから話したいって」
土曜日の昼過ぎ。まだ夏本番ではないというのに、今日は太陽の存在が鬱陶しいと感じるほどに肌を焼いている。早く雲がバリアになってくれないかと思いながら、大智が指定した場所まで桜楽とグウェンのお馴染みとなったメンバーで外出していた。
「相談ってなんだろ?」
大智から急にそんな電話が来たのだ。内容は今の所わからずじまいだが、やけに暗そうな雰囲気だったのは電話越しでも伝わった。
「他にどんなピクサー映画があるか教えてほしいとか?」
「グウェンも冗談が言えるようになったんだな」
「え!? 結構本気だったんだけど……?」
マジかい。てかそれグウェンが気になってるだけだろ絶対。
「そうだとしても電話で済むでしょ。会って話がしたいほどの何かがある。まあどうせすぐわかるさ」
「そうだね」と桜楽が頷いて3秒ほど経った後、「あ、そうだ!」と沈黙を許さない桜楽の元気な声が大気を震わせた。
「どした?」
「昨日思いついたことを思い出した。処刑人がさ、サー……なんとかの一員だってことは、前グウェンさんが話したじゃん? 後々考えてみたらさ、一個だけ、これどうなんだろなあ〜? て疑問が浮かんだんだけど」
「なんだ?」
「あのさ」と桜楽は俺たちの注意を自分に集中させる。
「私たち普通に喋ってたよね?」
「……え?」
桜楽の言った言葉の意味が、よくわからなかった。
「喋っ……て? 何が?」
「だから、私と春喜、処刑人と普通に喋ってたよね? 言葉も理解できてた」
「そんなの当たり前だろ」
「本当に? グウェンさんの言葉は最初わからなかったんだよね?」
「ああ──」
そうだな、と言いかけた時、桜楽の言いたいことが予知できた。青天の霹靂と呼べる衝撃が足先から脳髄まで貫いて、思わず空いた口を片手で塞いだ。グウェンも同じく驚きを露にしていた。
「ちょっと待て。待った。えっと……グウェンと会話ができてるのは、グウェンが日本語を理解できてるからだよな?」
グウェンと初対面だった頃、最初はまともに言葉も理解できず、グウェンの魔術を介した会話しかできていなかった。しかしその状況はすぐに改善された。
【魔術を少しばかし工夫してね。念力でハルキの脳内にある情報、今回はハルキが話している言語の日本語の情報を私の脳とうまく線のように繋いで理解しようとしたの。魔力で脳の演算速度を強化して効率化も図った。所謂独学かしら】
なんともまあ魔術のスーパーパワーでグウェンはすぐさま日本語を習得したらしく、今こうして普通に喋れているのはグウェンのおかげなのだ。しかしそのことがわかっているからこそ、おかしな点がある。桜楽の言いたいことはつまりこうだ。
なぜ処刑人と普通に会話が成り立っていたのか?
「俺はグウェンの世界の、アース2の言語は理解できていないはず。ならどうして俺は会話ができてたんだ?」
「いや、それなら理由は考えられる。改めて教えると、私は、ハルキと私の互いの脳を魔術を使って橋のような通り道で繋げて、ハルキが脳に有している情報を私にインプットしたんだ。わかりやすく例えると、パソコンからデータを抽出したみたいな……例え合ってる?」
「多分大丈夫だと思うぞ」
グウェンがアース1の世界の物を使って例える場面を見て、この世界に馴染んできたなとしみじみ思う。USBを用いたデータの転送なら、現代人にもわかりやすいだろう。俺がパソコンで、グウェンがUSBになるかな。
「で、その過程で私の脳内にある情報がハルキに逆流したんじゃない? 私の言語の情報を春喜が無意識に認識して、ハルキはそのことに何の疑問も抱かない。脳は勝手にその情報を元々あったような知識に解析する。だから敵が私の世界の言語で話していたとしても、ハルキはまるでいつも耳にしている日本語を聞いているように感じる。敵の言葉が理解できたのは、多分そういう理屈だよ」
「そ、そうなのか? まあ魔術だからそんな理屈も通るか……じゃあこれで解決?」
「大事なことを忘れてる。私はサクラに対してそんなことしていない」
桜楽の方に振り返る。確かに今の説だと、俺が処刑人との会話が成立したとしても、この黒髪美少女が喋れたことの答えにはなっていなかった。
「桜楽はあっちの言語を知らない……あれ、でも待てよ? 桜楽って名無しの傭兵の言葉わかってなかったか?」
「いや、わかってなかったけど」
「あれ、そうなのか?」
「見るからにキモいし屑だし塵だったことはわかってたけどさ。だからそれを思い出して気になったんだよ。どういうことだ~って」
「たし……かに……」
桜楽が抱いた小さな違和感。わかった所で別に敵との状況が好転する要素ではないが、俺はどうしようもなく気になった。俺が、名無しの傭兵、処刑人、そしてグウェンの言葉を理解できているのはわかった。でも桜楽がわからない。どうして処刑人と意志の疎通ができたのか?
「大智も処刑人とコンタクトを取ってた。殴り飛ばされてたなら会話の一悶着ぐらいあったはず」
「大智も言葉を理解できてた……ねえ、これってあれしかないんじゃない?」
「あれ?」
「相手は日本語がわかってた」
ぶっ飛んだ推論が桜楽から出てきた。
「日本語を?」
「それしかなくない? 春喜も私も大智も相手の言葉が理解できたってことは、相手の喋ってる言語が私たちの知ってる物だったんだよ。そうすれば私が言葉を交わせた理由になる」
「いやいやいやいや」
桜楽の言い分ならこの疑問にも説明が付く。だが、そんなことはありえない。
「発想がぶっ飛んでる。なんで処刑人が日本語を喋れるんだ? こっち来た瞬間に日本語をマスターしたのか?」
「可能性はあるんじゃない? グウェンさんだってできたんだから。残虐の撃剱のクグツが来てるなら可能性は大でしょ」
「グウェンはどう思う?」
「うーん、クグツの実力は認めてるけど……ハルキの脳と私の脳を魔術で繋いだって技術はハイレベルなんだよ。私の先生もできないって言ってたし」
「天才グウェン様の神業ってわけか」
なんかそんな話多いような気がするのは気のせいか?
「本当にグウェンさんってすごいの?」
「ひどい!? 嘘つく意味なんてないでしょ!?」
「見栄張りたいのかなって」
「そんなわけないでしょ!?」
「まあまあ、抑えて抑えて」
昂るグウェンを宥め落ち着かせる。ついでにスマホを見て周辺の地図を確認してみると、目的地である複合商業施設が後5分ほどの距離であることがわかった。
「もうすぐ着きそうだ。とりあえずその疑問はしまっておこう」
「まあ、そうね。考えても答えを言ってくれる人はいないし」
グウェンも了承した。「むむむむ、気になるな〜」と桜楽は根に持っているようだった。気がつけば視線の左奥に施設の一部が見えていた。今日はその中のフードコートで待ち合わせだった。
「日本人がグウェンさんの世界に転生したとか?」
そんな一言を建物の中に入る前に桜楽が口にした。大智に会う前の最後の適当な思いつきだろう。桜楽だって「んなわけないかー」と笑い混じりに吐き捨てていた。俺だって笑った。それだったらグウェンの説の方が正しい確率が高い気がする。
しかし、俺は魔術という摩訶不思議な現象をこの目で見て、この身に宿している。異世界転生なんてラノベかアニメの架空の存在でしか認識していなかった。現実味がなさ過ぎたから。
だが、グウェンがこの世界に来たこと、魔術の存在、魔王軍。それこそこんな映画のような展開が現実に現れてしまったせいで、桜楽の軽いノリで言ったことが、完全には無視できなくなっていた。
グウェンは黒い穴を通ってこちら側の世界に来た。
同じような奴がいたとしたら……なんて、変な考えが頭の片隅に残り続けていた。
────
4階のフードコートに着いた。やはり土曜日だから家族連れや友達同士で賑わっている。概ね子どもはトイザらスかボールプールにでも行っているんだろう。この施設にはポケモンセンターがあるから、ポケモンカードで対戦しているプレイヤーもいるのかも。
「大智はどこかなっと」
そんなことは置いといて、確か大智から場所の指定もあったはず。メッセージを見てみる。なになに……奥から2列目のソファ席と。
「春喜、あそこじゃない?」
桜楽の人差し指の先に、6人の男子グループがいた。全員特に何の変哲もない私服に身を包んでいて、まあどこにでもいそうな男子高校生たちって感じだ。全員少しガラの悪い雰囲気を醸し出してはいるが、うちのクラスのはみ出し者に比べればマシに思える。何より、見知った善人がその中にいたからだ。
「お、大智だ」
佐怒賀大智がソファ席に座っていた。それは良いのだが、他の5人は誰だ?
「……ん? あいつどっかで見たことあるような……?」
「春喜! こっちだ!」
太い声を響かせ、大きな腕を左右に振ってくる大智。俺たちの存在に気づいたみたいだ。俺たち3人が大智のいる方へ近づいていくと、何やら変な空気があった。
「マジか!?」
「お、おいあいつって!」
「あの子もいますよ!」
「どういうことだ? 報復しに来たのか?」
6人のうちテーブルの奥にいる4人がこそこそと何かを喋り始めた。俺のことを見ているような、あれちょっと待て。金髪1人に黒髪が3人……見たことあるような……
「大丈夫でしょ。俺らのことなんかとっくに忘れて」
「あっ! 俺がぶっ飛ばした奴ら!」
「「「「気づかれた!!!!」」」」
「んあ?」
「なんだ、知り合いか?」
桜楽と大智がポカンと状況を理解できていない様子だった。それはそうだ。俺とグウェンだけが面識があるんだから。まだグウェンと知り合って間もない頃。そうだ、アメイジングスパイダーマン2の続きがあると思って俺のバイト先にグウェンが来た時だっけ。
「あーあの人たちね」
グウェンも思い出したようだ。
「なに、春喜たち知り合い?」
「知り合いってレベルでもない。あっちがグウェン目当てでメンチ切って来たから、俺がぶっ飛ばした」
「へー運悪いね、この人たち」
「まさかまた会うとは思わなかったけど」
「「「「すんませんでした!!!!」」」」
出会って早々、4人が立ち上がって綺麗に90度の謝罪をかました。そんな彼らの態度に大智の顔は険しくなっていた。
「おいお前ら、そんなことしてたのかよ」
「ちょ、ちょっと遊びに行ったんですよ! でまあ……それで……魔が差しちゃって」
「はあ……2人とも悪かった。俺のダチが迷惑かけちまったみたいで」
まさか大智の友達だったとは。確かに獄冥高校の制服を着ていたか。世間は意外と狭いな。
「いや、私は別に大丈夫だから」
「俺も気にしてない」
「それなら良かった。と言うか心配なんてする必要ねえか。どうせお前らコテンパンにされたんだろ? さっき言ってたしな」
「思い上がってました。も、もう反省してます。だからこれ以上は勘弁してください!」
全員がまた頭を俺に向かって下げる。あの時もグウェンをワンちゃんいけるかと思ってやっただけで、実はこいつらそこまでひん曲がってないのかもな。後俺に対する目つきがやたら怯えてるんだが。
「なんか春喜のことトラウマになってない? 拷問でもしたの?」
「そんなわけないだろ。数発殴っただけだ」
「ふーん。まいいや」
「さ、立ち話もなんだ。隣のテーブル使ってくれよ」
大智は隣のテーブルに座ることを促した。テーブルや椅子の上にはショルダーバッグなどの荷物が置かれていた。俺らのために席を空けておいてくれたのだろう。お言葉に甘えて席に座らせていただいた。
「えっと、友達4人なのはいいとして……そっちは?」
俺らが来る前に、大智たちは6人で座っていた。後1人の紹介がまだだった。大智の隣に鎮座している不機嫌そうな黒髪男子がいた。
「て言うかあれ山内だよね?」
桜楽が指をさすと、山内は真反対の方向にそっぽを向いてしまった。あいつは逆にグウェンだけが面識がない奴だ。処刑人の情報収集がてら聞き込みをしようとしていた時に、金目当ての集団に襲われたことがあった(返り討ちにしたけど)。その時にいた1人がこの山内だった。
あんまり他人の名前を覚えるのは得意じゃないが、こいつのことは覚えていた。
「今日は一体全体何なんだ?」
「3人とも、今日は来てくれてありがとうな。まずは紹介するぜ。同じ獄冥高校の同級生でダチの、左から、和樹、雄大、庸一、辰馬だ」
大智に手振りされ、トラウマ(多分)植え付けられ兄弟は順に頭を下げた。
「そしてこいつが……おい山内。いい加減こっち向けよ」
「誰に会わせたかと思えば、なんでこいつらなんだよ」
山内は表情通りの不機嫌さを露にした。
「春喜たちならお前の助けになってくれると思ったからだ」
「頼んだ覚えはねえな」
「あのー何の話ですか?」
助けってなんだ? 大智は山内に諦めのため息をついてこちらに振り返る。
「すまねえ。まあこいつの説明はいらねえか。山内大輝。こいつは俺の小学校からの腐れ縁なんだ」
「へーそうなんだ」
「で、今日来てもらったわけなんだが……春喜たちは贄羅威禍亡威って知ってるか?」
ニライカナイ。ピンッと頭の中で電球が光る前に、「はいはーい!」と桜楽の方が早かった。
「知ってるというか、名前を耳にしたことがあるって感じ」
「オッケーわかった。贄羅威禍亡威は俺らの街を拠点にしてる不良チームだ。半グレ集団の方が近いかもな。窃盗とか恐喝とか、犯罪まがいのことを平気でやってる連中。噂だともっとヤバいこともやってるって聞いてる。少し前までは名前すら知らなかったんだけど、最近になって突然現れたんだよ」
今の大智の話を聞いて、大半の一般人はきっと『怖い』という印象を抱くだろう。東京卍會みたいなイかれた組織がいるんだな、巻き込まれたくないなと、肩が少し震えるだろう。でも俺は違う。
抱いたのは既視感だ。まあとりあえずは大智に語らせてあげようと、話に相槌を打つだけに止めた。
「その構成員の一部が獄冥高校の中にもいるらしくてな。そいつらは学校の真面目な奴らにも手を出してる。こいつらも被害に遭っててな」
山内を除く4人が頷いた。
「俺らが軽い気持ちで奴らに絡んで、そしたら逆に脅されて、その時に大智さんに助けられたんだ」
「大智さんは俺たちの救世主なんだぜ!」
「やめろよ恥ずかしい」
「何言ってんすか! あの時の大智さんかっこ良かったっすよ!」
まるで兄貴を慕う弟分たちの構図だ。大智のことだ、多分入学当初に話した出来事があって、こいつらのことをほっておけなかったんだろう。それから大智のことを慕うようになった。前に大智が、処刑人を追うようになった理由は友人が襲われたからだと言っていたが、それがこいつらの内の誰かだったとしたら説明がついた。
こいつらにとって大智はヒーロー。しかし逆に言えば、大智に敬意を抱くようになったほど、贄羅威禍亡威は恐怖の存在として見えていたということだ。
「あれ、そう言えば山内って贄羅威禍亡威のメンバーとか言ってなかったっけ?」
「あ?」
訊いただけなのにすごい睨まれた。
「なんであんな不機嫌なの?」
「知らない」
「おい山内」
「もういいだろ。時間の無駄だ」
山内はうんざりと言わんばかりに席を立とうとしたが、大智に肩を掴まれ引き止められた。
「待てよ。話はまだ終わってない」
「最初から終わってるだろ」
「お前のために言ってんだぞ」
「じゃあ何か? こいつらなら潰せるのか贄羅威禍亡威を? 警察でも手を焼いてる物騒な連中を俺らだけで? もっとマシな冗談言えよ」
「まさか……それが今日のメインの話?」
大智の顔がシリアスな物に変わった。どうやらマジらしい。
「ああ、そうだ。俺のダチを助けてほしい。山内は今、贄羅威禍亡威の一員になってる。いや、なってしまった。贄羅威禍亡威には弱みを握られて仕方なく従ってる奴らが何人もいる。山内もその一人なんだ。こいつはただ──」
「やめろよ大智! いつもいつも、なんでお前は首を突っ込んでくるんだ!」
「今更んなこと言ってんじゃねえよ!」
「ごめん、勝手に盛り上がらないで」
このままだと激しい口論になりそうだったから静止した。俺の介入により、とりあえず2人は矛を収めた。
「すまねえ。取り乱した」
「いいよ。言いたいことはわかったし。つまり街を汚染する廃棄物を除去しろと。いいよ、やるよ」
「へ?」
「私らに任せなさーい」
桜楽も豊満な胸を張って同意した。ただの承諾だけの行為だったのだが、グウェンも大智も山内すらも唖然と俺のことを見ていた。
「え? 何?」
「ハルキ、なんかあっさりしてない?」
「そう? 友達の頼みを受け入れてるだけじゃないか」
「にしてもなんか……慣れてるような……」
「お前、くだらねえこと言ってんじゃねえよ」
山内がテーブルを叩く。ずっと頭に血が昇ってるのか山内君は。
「くだらない? 何が?」
「贄羅威禍亡威に手を出す意味をわかってんのか? ヒーローごっこのつもりか? チンピラしばくのとはわけが違う」
「わかってる」
「わかってねえだろ! 蛇天愚隷羅の二の舞には行かねえんだよ!」
出てきた、既視感が。なんとなくわかってた。贄羅威禍亡威の存在は、俺と桜楽にとって無関係ではないと。「シャングリラ……て何?」とグウェンが山内に訊いた。
「はっ、他所の街の奴らは知らねえか。1年くらい前まで派閥争いが絶えなかったチームだよ。街で暴力は日常茶飯事。でもそれがある時終わった。『黒い悪魔』と『黒い幽霊』の仕業でな」
「悪魔と幽霊?」
「蛇天愚隷羅の内乱争いに不意に現れた正体不明の2人組。わかってる情報は男と女、そして蛇天愚隷羅の4つあった派閥の1つ『唯』に属していたことだけ。たった人数が2人増えたからって大した脅威にはならない。でもそいつらは違った。百戦錬磨の武人の如く他の派閥の奴らを薙ぎ倒して、『唯』の頭取の柳田義一をテッペンに立たせた。それ以来、姿も影も噂すら行方知らずだ」
山内がありがたい説明をしてくれたが、実に申し訳ない。余所者は知らないと言ったけど、俺と桜楽は知ってる。というか体験した
「お前にできるのか? 大智に気に入られたか知らねえが、半端な気持ちで首突っ込んでんじゃ」
「だからできるって。何度言えばいいんだ?」
「テメェ……口で言ってもわからねえなら──」
これは殴りそうだ。なんで山内がこんなヒートアップしているかは不明だが、これは素直に白状するしか無さそうだったから──
「だって悪魔、俺だもん」
秘密を打ち明けた。
「…………は?」
「だから、俺が悪魔で」
自分で自分を指差した後、隣にいる桜楽を指差した。
「幽霊」
「どうも〜」
俺と桜楽以外の全員の動きが凍結した。さてどうしたもんかと髪を掻く。説明が長くなりそうだ。
それは、昔々ある所に、なんて言葉で始まるほど昔の話ではなく。
それは、歴史に名を残すような大義の話でもない。
それは、映画だったら速攻企画会議でボツになりそうなつまらない話で。
それは、ヒーロー映画だったら冒頭5分でダイジェストになるような、いや、なりもしない話だ。
自己満足で、ヒーロー気取りで、勝手に首突っ込んで…………でも楽しくて、過去の苦さを消し飛ばしてくれた思い出。
ちょっとでもカッコよく言い表すなら、不良退治使者時代とでも言おうか。
その時代は、桜楽と仲良くなってからしばらく経った──
「しばし、お付き合い願えますか?」
中学2年の冬の話。




