報告会②
「ソード……なんだ?」
「残虐の撃剱。魔王軍幹部の総称よ」
名前ちょっとかっこいいな。
「何そのかっこいい名前」
桜楽が俺の心の中の言葉を吐露した。
「カッコいいなんてとんでもない。奴らは巨悪よ。魔王軍との戦争が100年以上続いているのに、私たち人類は奴らを一体だって撃破していない。むしろその数は現在に至るまで増え続けてるわ。『剣生』のジンもその1人なの」
「じゃあ処刑人が言ってたクグツも……?」
「『人形遣い』の二つ名を持ってる。残虐の撃剱の中では1番の新参者。私は直接目にしたことはないけど、奴の噂は嫌になるほど耳にする。ある意味では、クグツが現状の魔王軍においては最も脅威と言える存在だ」
「そ、そんなにすごいのか?」
「主な要因は奴の能力にある」
グウェンはいつになく真剣に喋り出した。
「クグツは絶対隷属の能力を有している」
「隷属?」
「詳しいことはわからない。でも奴は、魔物だろうが人だろうが関係なく、そいつを自分の奴隷にすることができるの。言わば操り人形ね」
「操る能力。そんな魔術があるのか?」
「ないことはない。念力の応用の応用で、他人の精神に干渉して一時的に行動の自由を奪う方法。でもこれは難しいなんてレベルじゃないの。時間を費やして、努力で勝ち取れる技術じゃない。私も先生からそう学んで、以来学ぶことはなかった。しかし例え我が物にできたとしても、操れるのはせいぜい1人か2人。多分効果は半日も持たない。呪いは相手の動きを止めるとかはできるけど、対象を操るなんて芸当はできない。でもクグツのそれは違う。無制限なの」
バトル漫画とかで無制限付きの能力を持つキャラクターがたまに出ることがある。無制限の体力だったり、無制限の再生能力だったり。つまり、無制限というワードは、バトル漫画において圧倒的な強者を意味するということだ。
「クグツの隷属能力は底が見えない。100人、1000人、10000人だって自分の奴隷にできる。何年か前に、広い高原を進行していたクグツの奴隷軍団を一掃した時があったんだけど、その数は裕に1000は超えていた。しかも私の魔術の攻撃に対して怯む動作すらしなかった。上半身になってまでも、死ぬまで地面を這いずってる奴もいて……」
「奴隷にされた奴らの意識はあるのか?」
「多分それは自由自在だと考えるべきね。直属配下は行動範囲に制限がないから」
「サーバント?」
「クグツの懐刀。彼の最高戦力たちよ。確か人数は6人。表の戦場に姿を現すことは少ないけど、その裏で政府要人、騎士団を支える貴族たち、軍の上層部に当たる人間。要するに、人類戦力の要となる者たちを暗殺し続けてる」
「クグツの陰の立役者ってことか」
「ハルキ、サクラ。2人が相手した処刑人は、その直属配下の1人である可能性が十分にあるわ」
あいつが? いや待て、確かあいつも自分のことサーバントだとか言ってたような……?
「あいつがクグツに操られてる?」
「通常の奴隷は自由を持たない。でも直属配下は違う。自律を認められ、単体や複数、もしくはクグツと共に行動することだってある。直属配下1人は奴隷100人の戦力に相当か、それ以上の力を持っているわ。恐らく、クグツが有益と判断し選抜した奴隷にある程度の制御を外して、その者たちを直属配下に任命しているんだと私は推測している」
「……そうなのか?」
グウェンの言う通りなら、直属配下はクグツにとって、そこら辺にある手縫いの人形とは違うハイスペックな人形という扱いになる。良い風に聞こえるけど、どちらにせよ隷属として操られていることには変わりない。だが……
【クグツ様のためだったら、100人でも1000人でも殺してやる!】
【俺が命を懸けるのは、クグツ様だけだ!】
処刑人が操られているとしたら、言動に熱があり過ぎな気がした。
「心の底からクグツを慕ってた仕草で……そんな風には見えなかったけどな……」
「奴の能力が思考にまで作用しても不思議じゃない。それぐらい奴の能力は強力なんだよ」
「既存の魔術じゃないとしたら……私たちと同じ天位魔術?」
消去法でそれが妥当な解答だろう。無制限の隷属支配能力。でたらめと言える壮大な能力は、希少と言われるそれに合致してもおかしくない。
「そうかもしれない。でもそれは今は問題じゃない。直属配下の1人が確認できたってことは、私を抹殺するために、直属配下の総勢がこの世界に来てる可能性が高まったってことなの」
クグツが持ち得る最高戦力のリソースを全てグウェンに割いたと。
「そんな大盤振る舞いなことするの?」
「わからない、けど、ハルキたちが言う人の気配があったなら、処刑人が1人だとは考えにくい。同じ任務に同行するなら意思疎通できる直属配下の方が都合が良い。さっきハルキが言ったように、最悪のケースを考えるなら…………クグツが直々に来てることも考えなきゃならない」
腹心だけに限らず魔王軍の柱となる存在がグウェンの命を狙ってくる、か。前回の名無しの傭兵が失敗したとはいえ、そこまでしてグウェンの存在を葬りたいのか。高い戦力なのはわかるけど、そこまでするほどグウェンを恐れてる? グウェンに関して何か秘密があるのかますます気になってきた。
「こりゃあ……割とヤバヤバな事態ですな。人を操れる能力持ってるんならさ、私たちのことどうとでもできちゃわない? 私と春喜は顔も名前も知られちゃったんだから、どこにいるのかなんて相手に筒抜けなんじゃ……?」
「もしかして、この扉のすぐ側まで……」
個室のドアに全員の視線が移る。ホラー映画ならば、ドアにカメラがアップされて実はその向こうには誰もいなくて、背後に貞子風なお化けががおーって出てくる場面なんだが、「その心配はない」とグウェンが冷静な口調で吐き捨てた。
「もし来ているなら昨日の夜の時に全て終わってる。そもそものおかしい点は、敵に動きが全くないことよ」
グウェンのこれまでの仮説を参考にするなら、少し前の桜楽の言い分は無しになるな。
【うーん。敵さんに自信がなかったか、私たちの迫力に恐れ慄いたか、はたまたあちらで何かしらのトラブルが起きたか。考えるとキリがないね】
直属配下の合計人数なら自信がないはありえない。俺たちを恐れたも論外。何かしらのトラブルは考えるだけ無駄だ。グウェンの言う通り、明らかに敵の動きがおかしかった。
「なんか……妙だな」
「ね、私たちのことおちょくってんのかな?」
「私の噂を流したのは、ハルキたちの存在を表に出すことが狙いだったのはわかる。それにしてもやり方がもっとあるんじゃないのとは思うけど。でも未だに何もして来ないのは不自然極まりないわ。まるで戦う意志がないみたいな……」
「昨日ドンパチだったけど」
「それはそうなんだけど……ああもう、わけわかんないわよおおおおお!!」
真剣そのものだったグウェンの情緒が崩れた。確定していない情報が多過ぎて思考がオーバーヒートしてしまったか。
「後手に回り過ぎてる! いつもなら私が正面突破で蹴散らすのにぃ!」
「やっぱグウェンさんご乱心だ」
「よくわかんねえけど、大変なのはわかる」
「でも今の所どうにもならないからな。こっちからは何も仕掛けられないし、敵も動こうとしない。とりあえずは安全……とは言えないか。実際交戦したわけだし。万全のグウェンならクグツに勝てるか?」
「実際には見てないから何とも言えないけど、クグツは『我刃』で知られた小英雄のセシル=ヴォルーボを倒してる。戦い方次第では私が不利になるかもしれない」
「小英雄?」
「英雄になりきれなかった者たちのことよ」
その説明じゃあまりよくわからなかったが、これ以上質問するとグウェンの脳のキャパを超えそうなのでやめておこう。
「まあとにかく、相手が何もして来ないなら、俺たちは備えるしかない。俺と桜楽はもっともっと強くなって、グウェンは治癒に専念。機会を伺うしかなさそうだ」
「やること変わんなくてつまんなーい」
「街丸ごと破壊されるよりは何も起きてないことの方が良いだろ」
桜楽の言うように、人を無条件に操るなんて能力を持ってたらどうとでもできてしまう。しかし何もして来ない状況をいくら考えてたって仕方がない。やれることをやるのみ。それに時間ばかりが過ぎることは決して悪いことではない。
時間が過ぎると言うことは、グウェンの復活が近づいているということでもあるからな。
「それは確かに。よし! それじゃあ歌いまくるかぁー!」
セットされたマイクを手に取り素早くスイッチをONにし、大音量で叫ぶ桜楽。
「切り替えはやっ」
「これ以上陰鬱な雰囲気出してもしょうがないでしょ。歌って弾けよう! さあグウェンさんも一緒にストレスを吐き出そうぜ!」
「よ、よし。わかったわ」
「あれ、グウェン歌えるのか?」
以前グウェンと桜楽の3人で遊びに行った時、カラオケにも足を運んだんだが、グウェンは存在する曲自体殆ど知らなかったので聴いてるのみになってしまったのだ。それでも新鮮で楽しいと言ってくれたんだが、これは少し配慮が足りていなかったと反省した。
今度行く時には、せめてグウェンに有名な曲をいくつかピックアップしてからにしようと思っていた。
「サクラに色々教えてもらったの。残酷な天使の……テーゼ? が、1番カラオケじゃ無難で歌いやすいって言ってた」
「これを歌っておけば間違いなく盛り上がる。他にも色々教えといたよー」
「抜かりないですねー桜楽さん」
どうせならミセス歌ってくれないかな。好きな映画を教えたいように、好きなアーティストもグウェンに教えたい。
「大智はよくカラオケ来る?」
「ダチが好きで、よく一緒に行ってる」
「そうだ! 忘れる前にさ、明日皆でモンスターズインク観ない?」
「え、良いのか? 春喜たちはもう何回も観たんだろ?」
「おいおい大智。真に面白い映画は何回観ても飽きないんだぜ。連続は飽きるけど」
「私も観てみたい」
「じゃあ春喜セッティングよろしく!」
「俺ん家かい」
まあいいけど。4人で映画か…………新鮮だな。最近は誰かと観る映画が多くなってる……いや、違うな。
桜楽が隣にいるようになってからか。冬真が死んでから、俺は1人で映画を観てた。他に映画を観るくらい仲の良い奴はいなかったから。当時の俺が映画を観ようと誰かを誘おうとしても、きっと笑われるか石を投げつけられるかのどっちかだったろう。
あの時の俺が今の俺を見たら、きっとびっくりすること間違いない。桜楽が現れてから、グウェンが来て、大智とも知り合えた。危険なこともあるけど、小学の頃のクソみたいな時とは打って変わって素晴らしい日々だと思う。桜楽は天から舞い降りた幸運を引き寄せる女神なんじゃないかと信じちゃうほどに、俺の生活に光を当ててくれている。
「ん? 春喜、私の顔に何かついてる?」
「いや、何も」
ホント……俺は恵まれていると、常々思う。
その後、グウェンは残酷な天使のテーゼで95点を叩き出し、皆で大拍手を送った。
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後日、桜楽の宣言通りモンスターズインクを俺の自宅で鑑賞した。グウェンは一応2週間ちょっとは家に住んでいたから、わざわざ玄関の扉を開けて入ってくるのはなんだか変な感じがした。
母さんは大智とグウェンを見た時に、友達を連れて来たのねと、とても嬉しそうな顔をしていた。桜楽が最初に我が家に来た時も同じ顔をしていたことを覚えている。俺が病んでいた頃は心配ばかりかけてしまった。気恥ずかしくはあったが、母さんの笑った顔を見られたなら悪い気はしなかった。
映画鑑賞会はざっくりこんな感じで、
「子どもの悲鳴がエネルギー源って設定考えた奴頭良過ぎじゃねえの?」
「「「確かに」」」
大智の感想に全員で頷いたり、
「グウェンさんはマイクとかサリーに抵抗なかった?」
「なんで?」
「いやー観た後に聞くのもあれだけど、一応モンスターだからさ、魔物と似てるかなって」
「ハハハハッ。そんなわけないわよ。魔物はあんなに可愛くない。私はマイクを抱きしめたいくらいよ」
異世界人だからこその感想をグウェンから聞けたりした。平たく言えば大好評だった。流石モンスターズインクと言った所。グウェンも大智に対する緊張はいつの間にか消え失せていた。俺も同性で映画の話ができる奴ができて、少し嬉しかった。
その日の夜のことだ。風呂に入って自分の部屋のベッドに寝っ転がりながら「次はモンスターズユニバーシティかなあ」と独り言を呟いていた時、大智から電話がかかってきた。
『春喜……ちょっと相談したいことがあるんだ』
躊躇いがちな声で、こんなことを言われた。




