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報告会①



「お、いたぞ」


俺が指差す先にいるのは、獄冥高校の制服を羽織った少年だった。少年と呼ぶには些か想像する少年のイメージとは異なる気もするが、彼は歴とした俺らと同じ高校1年生である。


威圧感がある強面の顔に、獅子を彷彿とさせる豪勢な金髪の姿に、声をかけにくいと思う人も少なからずいるだろう。でも俺は知っている。彼──佐怒賀大智は見た目によらず優しい奴で、紛れもない善人であることを。


「あの人が?」

「そそ。春喜が知り合った強い人ー」


大智を興味深そうに見据えるグウェンと、省略し過ぎな説明を伝えた桜楽が俺の両隣にいる。学校を終えて、家に直行して眠りたかったが、今日は大智と会う約束をしていた。


ビルに腰掛けている大智は俺たちの存在に気づき、軽く手を挙げて挨拶をしてきたので、俺も同じくそうした。


「おっす、大智。ごめん待たせた」

「全然。また知らない顔がいるな」

「グウェンだ。まあ、詳細は中で話そう」

「ど、どうも」


グウェンが軽く会釈し、大智も同じ動作をする。なんだかグウェンの方が緊張しているように見えた。


「緊張してんの?」

「だ、だって、アース1(こっち)に来てから、まともに話した男の人ハルキだけだし……」

「仲間に男いなかったのか?」

「いたけど、ハルキとの出会い最悪だったから」


だから大智との接し方がわからないのか。桜楽とは最初から話せてなかったか? 同じ女子だからだろうか。そんな悩む必要ないと思うけどな。まあ勝手に慣れていくだろう。


「なんか、春喜の周り美人な人多いな」

「あーそう言えばそうだな」


なんでだろ?


「そりゃあ、春喜は主人公補正がかかってますから」

「何それ?」

「いいよグウェン訊かなくて」

「まああれだ……あんまり遊ばない方がいいぞ」

「初めて言われた」


絶対に大智は誤解してる。まいいや。このまま外で話していてもしょうがない。俺たちはビルに入って4階のカラオケ店に行った。フリータイムで受付を済ませ、割と広めな部屋に4人でお邪魔した。


「よーし、歌うかー!」

「今日は歌うのが目的じゃない」


桜楽が歌う気満々で叫ぶが、今日の目的を忘れてはいけない。カラオケを選んだのは個室だからで、一切合切の報告会として、今日この場を設けたんだ。別に主催者じゃないけど。


「えー歌わないのー?」

「話がひと段落したらいくらでも」

「悪いな。えっと……天方、さん?」

「桜楽でいいよー。改めて、私は明善高校1年の天方桜楽です。よろしくね」

「わかった。よろしく桜楽」


大智と桜楽は互いに笑顔で握手を交わした。


「いやー春喜の言ってた通り、外見に反して礼儀正しいね大智は。あ、今の良い意味でだからね。気分悪くしたらごめん」

「問題ない。俺のダチにもよく言われるんだ。それと……確かグウェンさんだっけ?」

「そうです。あ、私も全然、タメ口で構わないから」

「わかった。グウェンも春喜たちと同じ明善高校?」

「いや、私は違くて、その……」


この後どうすればいいかわからず、グウェンが戸惑っている様子だった。これは助け船を出した方が良さそうだ。


「大智。今日来たのは、俺たちに色々聞きたいことがあるからだよな?」

「ああ。昨日の光景が、全然頭から離れなくてさ」

「俺も、大智にはこのまま隠しておくわけにはいかないから、今日ここに来た。流石にあれを誤魔化せるほどの言い訳はないからな」

「なんか炎だしたり、雷がどかーんって。あれ本物なのか? なんかこう、すげぇ最新テクノロジーとかそんな感じか?」

「そうだったらまだ良かったんだけど……実はグウェンは──」


多分、桜楽の時と同じ言葉を言った気がする。俺がグウェンと出会った経緯から話して、グウェンが何者かを詳しく説明する。前は桜楽がすんなり理解して、その矢先にやたらと興奮を示していたが、


「ちょっと待った。もう1回説明してくれないか?」


やはり大智の反応が正解だろう。前例がおかしかっただけだと、しっかり再認識できた。アニメだったら絶対に大智の頭の上にハテナマークが3つほど存在しているだろう。話が終わりに近づくにつれ、大智の顔が険しくなっていく姿が少し面白かった。


「魔王……魔術……処刑人……これって夢か?」

「紛うことなき現実です」

「まああれだよ。グウェンさんは、モンスターズインクでブーがサリーたちの世界に迷い込んじゃったみたいな」

「表現がマイルド過ぎる」

「モンスター……なんだ?」


桜楽の例えにピンと来ていない大智がいた。


「え、え? 大智、モンスターズインク知らないの?」

「観たことない」

「ええええ!? 嘘でしょ!? あのピクサーの名作を観ていないと!?」

「トイストーリーなら……1だけ」

「1!? 1だけ!? 3が至高なのに!? て言うかトイストーリーもモンスターズインクも最早義務教育みたいなもんじゃないの!? ねえそうだよね春喜!?」

「いや、映画あんまり観ない人は観ないんじゃないか?」


俺と桜楽は月に5回ほど映画館に行く。少なくて3回くらい。別にそのことに関して特に疑問にも思ってなかったけど、どうやら周りの人間は3ヶ月に1回、もしくは半年に映画館に1回行くか行かないかだと耳にしたことがある。


映画禁止条例でも制定されているんじゃないかとびっくりしたもんだが、映画にあまり興味ない人はそんなもんなのかと今は理解している。だが、大智の発言に俺も内心息を呑んでいた。桜楽の言う義務教育にも俺は賛同している。


「マジか!?」

「俺らが特殊なんだろう。世の中にはもっと月にアホみたいに映画観る人もいるんだろうけど」

「でも勿体無い! 私と春喜でもう3回は一緒に観てるのに!? モンスターズインクを観ていないなんて、人生の5割は損してる!」

「後の5割なんだよ」

「そんなに面白いのか?」

「そりゃもう! 何が面白いかってね」

「ストップストップ! 話が進まん!」


映画感想会は他所で開催してほしい。


「兎にも角にもだ、大智。グウェンのことは他言無用でお願いしてほしい」

「あ、ああ。それは良いけど……今一実感湧かねえな。いや、昨日の見てやばいのは理解してるんだけど……」

「じゃあ失礼して」


俺は右腕を前に出し、以前にもやってみせた部分変身を顕現させる。現れた黒いブレスレットをなぞり、俺の肌や服を包み隠すように形成されるスーツを肘の少し手前までに止めた。


「うおっ! こ、これは?」

「昨日見てなかったか? これが俺の魔術だ」

「ちな、私も大体同じだよ」

「そしてこんな感じに」


お馴染みのキューブをカシャンと音を立てて取り出し、立方体からロングソード、ロングソードから西部劇に登場しそうな拳銃に変形させ、大智の空いた口を閉じれなくした。


「できるわけだ」

「マ……マジか……じゃあグウェンも使えるのか?」

「ええ。でも今は見せられない。ハルキたちのが特殊なだけで、私が今使えば、相手に居場所を発信するようなものだから」

「相手って……それが処刑人ってことか?」


大智もようやく頭の整理が追いついたようだ。俺もその話をすぐにでもしたかった。


「そうだ。グウェンを元の世界に帰すための手がかりは、命を狙ってくる処刑人が知ってる。だから昨日は焦った。大智に危害が及ぶんじゃないかって。結果的に間に合ったから良かった、いや、良くはないな。俺のドジで取り逃しちまった」


俺の失態。相手が逃げるという選択肢が頭に全く浮かんでいなかった。考えてみれば、処刑人だって魔術師なんだ。劣勢になったら引いて、隠密ハイドで身を隠し、後からまた体勢を整えれば良い。グウェンはまだ動けない状態だから。


今回だって相手からすれば、偶然生まれた好機でしかなかったんだ。それを先読みすることができなかった自分が不甲斐ない。俺はグウェンに頭を下げた。前とは逆の構図が出来上がっていた。


「春喜のせいじゃないよ。実際私も何もできなかったし」

「いや、俺が可能性を考えきれなかったんだ。すまないグウェン。せっかくのチャンスを無駄にした。俺の責任だ」

「あ、謝らないでよ。ハルキたちが無事ならそれで良いの」

「良くないだろ。処刑人(あいつ)が逃亡を図らなきゃ絶対に捕らえ……られ……ん?」


何か引っかかった。逃亡をした……確かに処刑人は逃げた。それは事実。でも何か……違うような……


「あっ」


わかった。違和感の正体が。


「どうしたのハルキ?」

「そうだ。なんか、処刑人が逃げる時さ、気になることがあったんだよ。途中までは、まだまだやるぞって気迫があったんだけど、急に……諦めたように煙幕出して。何かがおかしかった」

「それ、私も思った。私の勘違いかもしれないけどさ、その時私たちじゃなくてどこか別の所見てた気がするんだよねー」

「……逃亡は意思じゃなくて命令されたからか?」


グウェンが「どういうこと?」と尋ねる。


「あいつの性格からして、自分から敵前逃亡をするとは思えない。最後まで喰らいつくはず。俺たちの後ろで、遠くに誰かがいて、撤退の合図を送ったってことはないか?」

「……そうか。そうだ。私たちは今まで、大きな勘違いをしていた」

「勘違い?」

「敵が1人(・・)だと思い込んでいたことよ」


その瞬間、思わず鳥肌が立った。違和感にすら思えてなかった事実。蛇口をひねれば無限に水が出てくるのが当たり前だと勘違いしているように、グウェンに言われるまで、処刑人の存在が一個体としか考えていなかった自分がいた。


「私たちが複数で行動しているように、処刑人側が1人で行動しているとは限らない。今までその可能性に気づけなかった」

「最初の処刑人の名無しの傭兵(ノーバディ)のせいで、固定観念に囚われていた。あいつだけじゃなかった……でもそしたら変だな。仮にあの公園のどこか遠くから逃げの合図を送ってたとして、そんなことする必要あるか? 加勢すれば良いだけじゃないか?」


敵が2人か、3人か、はたまたそれ以上の数でこの地球に来たかは不明だが、複数人の可能性が高まったことは確かだった。だがそれなら、なんでわざわざ逃げの姿勢なんて取ったのか? 俺と桜楽は疲弊していたし、倒せる絶好の機会だったはず。


「うーん。敵さんに自信がなかったか、私たちの迫力に恐れ慄いたか、はたまたあちらで何かしらのトラブルが起きたか。考えるとキリがないね」


悪い方向にしか向かっていない報告会だ。でも目を瞑るよりは、しっかりとした状況を把握する方が良いに決まってる。


「じゃあクグツって奴もそこら辺にいるかもしれないのか……」

「……ハルキ今なんて?」

「え?」

「名前……」

「あ、ああ。クグツか。いやさ、戦った処刑人が、やたらクグツっていう奴のことを慕っててさ。クグツ様のためならいくらでも殺せる。俺が仕えるのはクグツ様だけだって。狂信者っていうか……そいつが処刑人の上司みたいな奴だとは思うんだけど」

「処刑人が確かにそう言ってたの?」


グウェンの言葉の重さに思わず身体を引いてしまう。まるで俺の背後にいる幽霊でも恐れているかのように、カラオケの個室に入った時より顔色が悪くなっているように見えた。


「なんだ? 何か知ってるのか?」

「知ってるも何も、クグツは────」




残虐の撃剱(ソードオブギャング)の1人よ」




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