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インターバル



「春喜、やっぱりこれって」

「言わなくてもわかる。とんずらこかれた」


今は一体何時だろうか? 暗い空と少し欠けた月が夜ということを証明してくれてはいるが、具体的な時間はわからない。なにせずっと戦ってたんだ。時間が30分のような3時間にも感じられた。


ポケットに手を突っ込んでスマホを取り出す。激しい戦闘で画面が割れていないか心配になったが、奇跡的にスマホは無事なようだった。時間を確認すると22時15分だった。


「もうこんな……うっ」

「あっ、春喜!」


突然眩暈が体を襲って地面に倒れそうになるが、なんとか膝をつく形で転倒は免れた。頭がぼやっとする中、桜楽が薄れる白煙の膜を走りながら俺の側にきた。


「どうしたの? どこか痛い?」

「いや、大丈夫だ。ちょっとぐらっときてさ。スーツを長く使い過ぎたのかも。ちょっと慣れてきたつもりだったんだが……」


天位魔術(スーツ)を使った後、その反動が疲労となって体に影響を及ぼすことは、前回で実体験済みだ。だが今回のは前よりも強い。俺は桜楽よりも長くスーツを纏っていたからか。それともキューブが壊されたことが関係しているか、はたまた途中で強制的に解除されたからか……何にせよ、このまま周辺を走りまくって処刑人を見つけるのは難しそうだ。


「クソッ。後少しだったのに……あっ」


正直言うと、さっきまで頭の中で倒すと助けるがミックスになって、それ以外のことをあまり考えることができなかった。そもそも今日に処刑人との戦闘が開始したきっかけは、あいつ(・・・)を助けるためだった。


なのに途中から存在を忘却していた。我ながら最低の奴だと思う。


「そうだ。大智は? 大智はいるか!?」


佐怒賀大智。元はと言えば、大智が処刑人と鉢合わせる可能性を察して、俺は辺りを捜索しまくった末に見つけた。そこから戦闘が始まって、後はもうわからない。まさか処刑人の攻撃巻き込まれたとか……


「おい! 俺ならここだ!」


豪快な声が静寂の公園内に響く。背中で受け止めた声の主に覚えがある。振り返れば、いかにも元気そうな大智が桜楽と同じようにダッシュで距離を詰めていた。


「大智。良かった、無事だったんだな」

「ああ。遠くの木の裏に隠れてた。すまねえ。俺は何もできなかった」

「あの状況じゃ仕方ない。ていうか、体は大丈夫か? 血とか出てなかったか?」


確か頭から血を出していたはずだが。骨とかも折れていないか心配だ。


「俺は問題ない。昔から治りは早いんだ。それよりそっちの方が心配だぜ」

「俺は問題ない。ありがたい魔術のおかげである程度の衝撃なら吸収……あ、言っちゃった」

「もう隠す意味ないでしょ」


桜楽から言われ、まあそうだなと開き直った。遠くにいたなら一部始終を間違いなく目撃しているだろう。映画の撮影やイリュージョンなんて言い訳が通じるのはギャグ漫画の中だけ。


「はあ~デジャブ感じる」

「だから言ったじゃーん。こういう事態になるんだって」

「ま、魔術? 正直、俺はもう何がなんだかわからねえ。春喜、お前は一体……あとその子誰だ?」


そう言えば初対面だった。「初めまして~。春喜の親友の天方桜楽でーす」と、桜楽が疲れを微塵も感じさせない笑顔で挨拶をする。


「そっちは元気そうだな」

「そうでもないよ。春喜が言ってたみたいに体が怠い。道場の稽古とは段違いだね~」


よっこらせと、地面に座り込む俺に体重を乗せてくる。右肩に顔を乗せる桜楽は「春喜成分補給〜」とよくわからないことを言っている。


桜楽が元気そうに見えるのは、俺よりもスーツの稼働時間が短かったからかもしれない。それか俺に隠れて俺以上に魔術の練習をしていのか。


「お前ら仲良いな」


俺と桜楽の距離感を見て、大智が何か言いたげな顔をしていた。


「親友の距離じゃない気がするんだが……?」

「お、大智くん見る目あるねー。私たち、一蓮托生なので」

「会話はこれくらいにしとこうぜ。大智も色々訊きたいことあると思うけど、今日の所は勘弁してくれ」

「わかった。でも、これだけは言わせてくれ。来てくれて…………ありがとな」

「いいよ。俺ら友達じゃん」


やり切れない気持ちもあったが、誰にも被害は出ていないことを今は喜ぼう。



          ────



「クソ眠い」

「私もぉ……ふぁ~」


片手であくびを抑えようとした桜楽だが、堪えることができずに涙腺から涙が漏れてしまう。かく言う俺も眠気が絶えず俺の脳を蝕んでいて、昼休みまでの授業全部ギリギリの所で目をかっぴらいていた。俺は今日何回眠いと口にしたのだろうか?


処刑人との戦闘から一夜明けて翌日。俺と桜楽はいつも通り学校に登校し、お昼の購買を買いに2人で廊下を歩いている。ここだけの話、学校に行こうかどうかギリギリまで迷っていた。理由は睡眠不足。


処刑人との戦闘の疲労が思った以上に体に残留していて、後5時間はベッドの中に潜っていたいと思った。だが睡眠不足になった原因は他にもある。


「なんで帰りの道中にチンピラたちと鉢合わせなきゃならなかったんかねー」


3人徒歩で夜道を歩いていたら、女性にウザ絡みしているカスや、獄冥の制服を着ている奴らが道を荒らしていた。見過ごすわけにもいかず、「早く寝かせろー!」と2人揃って不良共を叩きのめした。そのせいで時間を浪費した。


両親に説明するのがめんどくさかったよ全く。


「やっぱあそこら辺治安悪い」

「最近は治ってた気がするけどねえ」

贄羅威禍亡威ニライカナイってやつのせい?」


カスたちをのしている時にも、同じような名前を耳にした。大智も口にしていたし、何かきな臭い予感がする。


あれの亡霊(・・・・・)かあ?」

「残党狩りは協力してやったつもりなんだけどねえ」

「はあ。今はそれどころじゃないってのに」

「ホントね」

「ホントホント……ん?」


今の「ホントね」は、桜楽の声じゃなかった。もちろん俺でもない。桜楽も同じように気づき、同時に背後へと振り向いた。会話に割り込んできた犯人は、制服を着ていない不法侵入者の銀髪美少女だった。


「「うわっ!!」」


腰が抜けそうになった。気配がまるでなかったが、言わずもがなグウェンだった。着ている服は、前に桜楽と3人で映画を観に行ったついでに買った服だ。制服を着たグウェンの姿も見てみたい、って、そんなこと今はどうでもいい!


「おい何してんだ!?」


グウェンが明善学校に来たことは何度かあった。でもそれは、グウェンが学校の生徒や教員と会わないことが前提条件。鉢合わせたら色々とめんどくさいからな。


でも今は違う。言葉通り、真正面にグウェンがいる。左も右も見れば、廊下に生徒が数人歩いている。そんな状況に私服のグウェンが現れれば、間違いなく注目が集まってしまうではないか。主に服装と見た目の美で。だがグウェンは何も焦っていない様子で平然としていた。


「落ち着いて。ハルキたちの方が目立ってる」

「え?」


周囲を確認すると、数人の生徒の視線は俺と桜楽の方に集まっていた。グウェンの方を見ていない。驚いた顔をしているが、それはグウェンに対しての物ではなくて、いきなり大声を出した俺たちに対してのように見えた。


「知ってるでしょ? 私は隠密ハイドを使ってる。ハルキとサクラ以外には私の姿を認識できていない。最初から私は隠れる必要なんてなかったの。ハルキは今、周りからは壁に話しかけている人に見えてるよ」

「えぇ」


何それ恥ずい。最初から言っといてほしいな。とりあえず立ち止まっても仕方ないので、なるべくグウェンの方は見ずに歩くのを再開する。


「びっくりしたわ。まあせっかく来たんだし、一緒に飯食べるか。ここのコロッケパンめっちゃ美味いんだぜ?」

「私はフレンチトーストが好きー」

「……」

「ん? グウェンどうかした?」

「もっと他の言葉があるでしょおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


奇声に似た大声を張り上げたグウェン。グウェンが魔術師ソーサラーでなければ、ただの変人野郎として少しの間学校で有名人になるだろう。突然過ぎて階段を滑りそうになった。


「おっとと! え、な、何急に大声出して?」

「絶対違う! 今私と会って最初がお昼の話なのは絶対違う!」

「じゃあパンいらない?」

「食べるけど!?」


食べるんかい。


「ハルキが処刑人と交戦になって丸1日! まだ会ってなかったんだよ私!? すぐに会いたかったけど家に帰ってきたサクラは疲れてるって言うから待った! でも全然眠れなかった! でも布団が気持ちよくていつの間にか寝てた!」


寝たんかい。


「起きたらサクラは学校に行ってるし、居てもいられなくなってここに来た! なのにこの温度差!? 私はもう、わーでわーでわーだよ!?」

「お、落ち着いて! 言葉おかしくなってるって!」


グウェンが俺の肩が外れるくらいぐらぐらと揺らす。桜楽が楽しそうにこちらを見ているが、少しは手助けしてほしいもんだ。


「あらーグウェンさんご乱心だー」

「ちょっとマジでグウェン落ち着こうぜ。怒ってるんだろ? 俺が処刑人取り逃がしたから。本当に申し訳な──」

「ちがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああう!!!」


こんな昂ったグウェンを、今後見れることは多分ないだろう。



         ────



「こんな状況、私は全く経験したことがなかったんだよ」


階段で喋っていたら俺が変質者扱いされそうなので、俺たちは屋上に場所を移した。アニメとかじゃ屋上に主人公たちがいる場面があるけど、現実じゃ大抵の屋上は扉が鍵で閉まっているため入れない。ならどうやって入ったかというと、これまた天位魔術(べんりどうぐ)の登場。


キューブを屋上の鍵と同じ形状の鍵に変形させて鍵を開けた。種は至ってシンプルである。昨日は処刑人のまじないによってスーツが起動できなくなってしまったが、どうやら一時的な効き目のことは嘘ではなかったようだ。


グウェンの分のパンも買って、邪魔が入らない場所でお互いに飯を食いながら話している。ちなみにグウェンは定番の焼きそばパンを美味そうに頬張っている。


「こんな状況?」

「黙って指を咥えて待ってたこと。仲間と一緒に魔王軍と戦ってた時は、私は先陣を切って魔物を殺してた。仲間がピンチな時には、目の前の敵を即蹴散らして救援に駆けつけた。私が1番強かったから。だからこんな……力不足で駆け付けられないなんて状況、私にとっては信じられないの」


俺が処刑人と死闘を繰り広げている時、グウェンは桜楽の家にいた。本人は待ってたと言っているが、待ちたくて待ってたわけじゃないのはわかってる。グウェンは魔術の酷使と負傷のせいで、本来の力を出せていない。本心は処刑人と直接やり合いたかったんだろうけど、それができない状態にあるから、俺はグウェンの代理戦闘員ゴーストファイターとして戦った。


「待ってるのは落ち着かなかった?」

「それはもう。今はこの目で見れてるからいいけど、昨日の夜は……心配で心配で……」

「心配してくれるのは嬉しい。でも約束しただろ? 死なないって」


グウェンから魔術を教わる条件として、死なないことを約束された。あの時の言葉を俺はちゃんと覚えてる。そこまで時間経ってないし。


「俺のこと信じてくれるんじゃないのか?」

「信じてるさ。でもそういうことじゃない」

「ごめんごめん。今のは意地悪だった」

「こんな経験なかったから……自分が何もできないことが、本当に悔しいの」

「別に悔しがる必要はないよ。グウェンを助けるって、俺が自分で決めたんだから」

「でも本当に、サクラと2人だってわかってても、私は安心できなかった」

「ん? 待った。そうだ、それだ! 俺まだ何も聞いてない!」


そう言えば勢いで納得した感じだったが、ちゃんと聞かねばならないことがあった。桜楽をビシッと人差し指で差すが、桜楽は「私?」と語尾にハテナをつけていた。


「何かあった?」

「いやいやあるでしょ。俺の知らぬ間に魔術覚えてたこと!」

「あーそれか。説明いらないと思うんだけど。春喜と同じようにグウェンさんに魔力分けてもらっただけだよ。そしてそれがなんとあら不思議、私も天位魔術(リーサルウエポン)を手に入れました!」

「そうだよ。桜楽が魔力与えたもらったことはこの際良い。でもまさか桜楽も天位魔術? しかも能力は俺と全く同じ?」

「じゃあ昨日暗かったからちゃんと見せるか」


桜楽は食べかけのパンを俺に預け、奥へと行き俺とグウェンから少し離れる。そして腕時計を確認するように右腕を前に出すと、透き通るように白い柔肌に黒色のブレスレットが装着された。


「俺と同じ……」

「いざ、変身!」


そこからは俺の知っている通りだった。前に桜楽が言い表していた、アイアンマンのナノテクスーツのようにスーツが構築され、桜楽の制服が徐々に外界から遮断されていく。やがて桜楽の美人顔は隠れ、これまた彼女がバットマンとプレデターを足して2で割ったという変な例えを持ったマスクが出来上がる。


桜楽の魔術も呪いの効力は枯れて、正常に作動できているみたいだ。


「どやあ!」

「どやと言われても、俺の丸パクリしてるじゃん」


日の光の下に露になったからこそ認識できる。マジで俺のやつとほぼ同じ。色合いくらいしか違う所が見当たらない。あとマント。ポケモンの色違いみたいだ。


「いやーなんかさー。グウェンさんに魔力もらう時、春喜と同じ魔術だったらいいなーって思ったんだけど、まさか本当になるとは。でもいいじゃん! ペアルックみたいで」

「魔術のペアルックなんて聞いたことない」

「私も目を疑った。サクラまで天位魔術を発現させたなんて」

「希少かどうか疑いたくなるな」

「本当に特別なの! こんなこと普通あり得ないんだよ!」


希少な(グウェンの言う通りなら)魔術がなぜ俺たちに発現したのかは謎だ。奇跡がたまたま連続して起こったという可能性もなくはない。まあ別にこれは今考えるべきことじゃないか。


「と、いうわけで、私はこのように力を手にしました。これからは私と春喜で、グウェンさんを助けるぞー! あ、戦うなはもう禁止だからね」

「もう言っても聞かないだろ」

「聞かなーい!」


スーツを解いてジャンプで俺に抱きつく桜楽。こいつは本当に変わらない。桜楽をなるべく戦いから遠ざけていた俺だが、やっぱりなんだかんだ、一緒にいてくれる桜楽の存在に嬉しさを抱いていた。


「まったく」

「とか言って、春喜笑ってるじゃ~ん」


どうやら証拠が顔に出てしまうほど、俺は単純な奴らしい。


「どうかな」

「大丈夫だって。私たちならなんでもできる!」

「早速ドジ踏んだけどな」


さて、桜楽の話はこれでおしまい。現実問題に目を向けようか。


「うぅ~。それは耳が痛いなあ」

「グウェン。まだちゃんと言えてなか」


言葉の途中で、間が悪く学校のチャイムが鳴った。これは昼休みがもうすぐ終わるチャイムだ。



「しょうがない。続きは放課後だ。まだまだ話すことが残ってる」

「グウェンさん待っててね」

「う、うん。どこで話す? ハルキの家?」

「いや、場所はもう決まってる。新しい友人も合流する予定だ」

「え?」



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