それぞれの戦い 11
「食らえっ!」
「っ!」
先手必勝!
まずはドールに向かって左拳でジャブを放つ。
しかし、何の当てる工夫もしてないただのパンチ。
当然避けられる。
だが、それはただのブラフだ。
「そこだぁっ!」
「っ!?ぐっ!」
避けて体勢が崩れ、ガラ空きになった腹にすかさず右拳をたたき込む。
アッパーの要領で放ったため、ドールの身体が一瞬宙に浮く。
「くっ!舐めるな!」
「うわっ!?」
しかし、ドールも負けじと殴られた体勢から身体を捻り、アタシの側頭部に回し蹴りを放つ。
アタシは慌ててそれを腕でガードするも、受け止めきれずに吹っ飛んでしまった。
「ぐぅ…!腕が痺れて…!」
無理な体勢だったにも関わらずこの威力。
魔力そのものは完全に相手のほうが上のようだ。
これを万全な体勢のときに食らったら、アタシの身体はおそらく耐えきれないだろう。
(……でも、戦闘経験はアタシのほうが上だ…!)
先ほどの単純なフェイントにすら引っかかっていることから、相手は戦い慣れていないことが分かる。
それに比べてアタシは、毎日ヴィサスとの模擬戦で鍛えてることに加え、メアリー様や魔王との戦いから実戦経験は豊富だ。
頭の回転にも自信がある……この勝負、勝機は十分にある!
「……ははっ、思ったより大したことないみたいね?」
「…………」
腕の痺れを悟られないようハッタリをかましながら不敵な笑みを浮かべる。
それを忌々しげな目で見つめるドール。
一触即発の雰囲気が漂う中、隙を探り合いながらジリジリとお互いの距離を詰めていく。
そして、ついにその時は訪れた。
「「__はっ!」」
同時に地面を踏み込んだアタシたちは、再び格闘戦が始まる。
(……速い。けど、メアリー様ほどじゃない…!)
アタシの目の前を縦横無尽に拳や蹴りが飛んでくる。
パワーはもちろん、速さもアタシより上だ。
しかし、いくら速いと言ってもメアリー様ほどではない。
メアリー様はあまりにも速すぎて、いつの間にか目の前にいて避ける間もなかった。
それに比べて、ドールのほうは動きが目で追える。
動き出しの予備動作までハッキリ見えるのだから、いくらアタシより速くても先読みで対応することが出来る。
きっと、メアリー様との戦いで速い動きに目が少し慣れているのだろう。
さらに、ドールの動きはすごく単調だ。
フェイントを仕掛けてくる様子もない。
これなら、パワーとスピードに劣るアタシでもさばき切れる…!
(……右…左……下、上……)
ドールの攻撃を紙一重で避け、隙を探る。
(ずっと攻撃を避けてれば、その内焦れて大振りの攻撃を仕掛けてくるはず…そこがチャンスだ…!)
アタシの作戦を裏付けるように、ドールの表情が徐々に苛立っているように見える。
自分のほうが魔力が強いはずなのに全部ギリギリで避けられるから、まるで動きを全て見切られている気がして余計に焦っているのだろう。
まあ、事実そうなのだが。
格下と思っている奴にいいようにされるなんて、内心相当キテるはず。
(…………きたっ!)
直前、一際焦った表情をしたドールは、一気に勝負をつけようとしたのか、大きく横薙ぎに蹴ろうとしてさらに一歩前に踏み込む。
しかし、その動きも全部見えている。
大振りの蹴りをギリギリで避けながら、さらにアタシも前に踏み込む。
「焦ったわね!もらった!」
「っ!?」
大振りの蹴りを放って隙だらけの今、アタシは渾身の魔力を込めてドールを突き飛ばす。
「あっ!ぐっ!うあっ!」
地面を転がるドール。
いくらアタシより魔力が強かろうと、隙だらけのところに思い切り突き飛ばされては耐えることなど出来ない。
そして、ある程度転がったところで動きが止まる。
「……くっ!まさかこの私が…!」
悔しそうに身体を起こすドール。
アタシが渾身の魔力を込めて突き飛ばしたために多少はダメージがある様子。
ダメージを受けたせいか、それとも格下と思っていた相手に隙をつかれてショックを受けたためか、ドールは未だに周りが見えていない。
そして、そんな隙を見逃すアタシじゃない。
「__どうしたの?アタシにやられてそんなにショックだった?周りが見えてないわよ」
「っ!せ、聖女…!」
「ほら、トドメよ!」
ドールが隙だらけの間に後ろに回り込んでいたアタシは、最大出力のホーリー・スフィアを叩き込むべく、起き上がったばかりのドールの背中に両手を向ける。
それに気づいてこちらに降り向こうとするが、もう遅い…!
「食らえ!ホーリー・ス__」
呪文を唱える直前、絶体絶命であるはずのドールが何故かニヤリと笑った気がした。
そして__
「__ぐっ、ああっ!」
それを疑問に思う間もなく、アタシは背中から強い衝撃を受けた。
完全に不意を突かれたアタシは、先ほどのドールと同じように無様に地面を転がる。
「ぐっ!クソッ!いったい何が起きて…!?」
即座に立て直し、すぐに立ち上がる。
するとそこには、予想もしていない光景が広がっていた。
「……ドールが…二人…?」




