それぞれの戦い 10
「辺りは見たこともない景色で、少し離れたところに知らない街が見えました。きっと、母は何かあったときにこの街に逃げるつもりだったのでしょう。しかし、そんなこと当時の私は知りません。一心不乱に母を探し回りました。それこそ、少し離れた街まで行って通行人に聞き込みもしました。ですが、母のことはおろか私が住んでいた街のことすら誰も知りません。考えてみれば当然です。母が緊急の際に逃げる先の街なのですから、前に住んでいた街と繋がりがあってはそこから辿られてしまいます。誰も知らなくて当たり前なのです。そして私は悟ったのです。母は私のために身代わりになったのだと。私は絶望に打ちひしがれました」
あ、あれじゃない?
これはアタシもメアリー様のことを愛称で呼んだり…とか?
キャー!いいね!
でもこの場合、ヴィサスと同じでメア…様?になるのかな?
被るのはあれだけど、複数愛称があるのもおかしいし、これは仕方ないのかな?
「時が過ぎ、絶望の中でかすかな母の生存の希望を胸に抱きながら母の情報を探していたある日、遠い噂でとある街で凶悪なサキュバスが討伐されたとの話を耳にしました。そう、私が住んでいた街のことです。それを聞いて私は__って、話聞いてます?」
愛称も大事だけど、メアリー様にはシャーユ王国に帰ってきてほしいなぁ。
でも、あんなことがあった手前、簡単に戻るなんて出来ないよねー。
まさか第一王子があんなクズ野郎だったなんて……
それにシャーユ王国自体も闇が深そうだし…ゲームで語られなかったことが多すぎて難しすぎる。
「おーい、聞こえてますかー?もしもーし?」
今となってはゲーム知識なんて、どこに何があるかとかくらいでしか使えないし、ほとんど意味がなくなってるよね。
ストーリーはめちゃくちゃ。
登場人物の情報は間違いだらけ。
その上裏の事情とか訳わかんないし、もうなるようになれって感じだよね。
「……………………………ファイア・ボール」
メアリー様が国に戻ってこれないなら、アタシがメアリー様についていくとか?
でもアタシ聖女だし、両親のこともあるし……
うーん…いっそ第一王子をヤ__ってうわぁっ!!?
ビュッ!とアタシの頬をかすめるように炎の塊が飛んでいく。
アタシの自慢の髪とリボンが少しだけ焦げてしまった。
「な、なんてことすんのよっ!いきなり不意打ちだなんて!」
「……不意打ち?人の話も聞かないくせによくもそんなことを…」
ドールの表情が怒りに歪んでいる。
あんなに怒るなんて、アタシそんなに悪いことした?
「な、なによ!アタシが悪いって言うの!?そもそもあんな長ったらしい話を急にしてきたのはアンタの方じゃない!途中までとはいえ話を聞いてあげたんだからむしろ感謝してほしいわね!」
「なっ!?」
アタシの急な剣幕に面食らったのか、ドールは驚いた様子で怯んだ。
「だいたいなんであんな話アタシにしたのよ!まさか時間稼ぎしてた訳じゃないわよね!?」
「あ、いや…別に……」
アタシの言葉に、何故か気まずそうにするドール。
「……何その反応。まさか本当に時間稼ぎしてたの!?もしかしてあの話も作り話な訳!?」
「…作り話ではありません。確かに時間稼ぎの意図がなかったとは言いませんが、あの話自体は本当にあったことです」
「は?じゃあなんでアタシにあんな身の上話みたいなのを話したのよ?」
「…………貴方は知らなくていいことです」
「え、なに…?」
ドールの雰囲気が変わった。
何がきっかけか分からないが、急に張り詰めた空気に包まれていく。
「急に雰囲気が…なに?アタシ何か都合が悪いことでも聞いちゃった?」
「……確かに貴方の言う通りです。話はこれで終わりにして、そろそろ本番と行きましょう」
「…っ!そう、いいわ。アタシも長い話聞かされて身体がうずいていたところだったから…!」
アタシの質問は無視して、ドールは身体に纏う魔力をどんどん高めていく。
アタシも遅れまいと魔力を高める。
「……コンカラー様には貴方の足止めを命じられています。ですが、わざわざ時間稼ぎなどしなくても倒してしまっていいはずです。そのほうが、コンカラー様もきっと喜ばれるでしょう」
「はっ!そう簡単にいくかしらね?アタシは強いわよ?」
「…フッ、そうでしょうか?見たところ、とても強そうには見えませんが?」
ドールはアタシの足元から頭の先まで値踏みするように見てくる。
そして、アタシの纏う魔力を見て物足りないと思ったのか、アタシを弱そうと言いながら鼻で笑った。
「この…っ!アタシを笑ったこと後悔するわよ!」
「貴方こそ、私を甘く見てると痛み目を見ますよ」
感情が高ぶり、魔力がさらに高まる。
ドールもさらに魔力を上げ、濃密な殺気を放つ。
そのプレッシャーから、アタシはまるで肌が刺されるような錯覚を味わう。
そして、お互いに魔力が最大にまで高まったところでシン…と辺りが静まり返った。
「それじゃあ……」
「尋常に……」
「「勝負…!」」
お互いの掛け声が重なると同時に、アタシとドールはお互いに向かって突進した。




