白黒ハッキリつけましょう 11
腕に力を込め、拳を放とうとしたその瞬間__
「…っ!ちょっと待てメアリー嬢っ!!!」
ビタッ!!
ブワァッ!
イーリスの目と鼻の先で、私の拳がピタッと止まる。
その瞬間、風がイーリスに向かって吹き荒れ、イーリスはその風圧に耐えきれず、思わず尻もちをついてしまう。
「…………ほぇ?」
イーリスは、立ってられないほどの風を起こす威力がある拳の存在と、その拳があとほんの少しで命中するところだったという事実を上手く飲み込めず、尻餅をついたまま口を開けて呆然としている。
「……レオン殿下。少々マナー違反なのではないですか?神聖な決闘に横やりを入れるなど_」
「いや、今どうしても確認しておかねばならないことができたのだ」
「……今、ですか?」
「ああ。今でなければ、メアリー嬢もきっと後悔すると思う」
レオン殿下も、決闘に横やりを入れることがどれだけ無作法なことか正しく理解しているはず。
それなのに無理矢理止めるということは、本当に今確認しなければ私が後悔するような内容なのだろう。
「…仕方ありません。どうぞ」
「すまない。イーリス嬢、いいか?」
「………………ほぇ?」
「……イーリス嬢!」
「っ!は、はい!」
レオン殿下からの呼びかけによって意識が戻るイーリス。
「イーリス嬢。一つ聞きたいんだが、いいか?」
「は、はい。どうしました?」
「…先ほどから見ていたが、動き方が無属性魔法の身体強化を使っているにしては遅すぎる。もしかしてなんだが…イーリス嬢は無属性魔法を知っているか?」
「…無属性魔法?なんですか?それ?」
え、無属性魔法を知らない?
あんなに聖女の魔法をバンバン使っておきながら?
って、ちょっと待てよ?
無属性魔法を知らないということは、当然使ってないということ。
無属性魔法には身体強化もあるから、それを知らないということは、今イーリスの身体は身体強化を使っていない状態ということだ。
ということはつまり……
「…おっと、真っ赤なお花が咲くところだったのですね。危ない危ない」
身体強化を使っていないのなら、私の一撃に耐えられるはずがない。
もしさっきレオン殿下が止めていなければ、冗談抜きでイーリスの身体は粉々に弾け飛んでいたことだろう。
別に殺したい訳でもないため、止めてくれてよかった。
「え?どういうこと?結局無属性魔法ってなに?」
自身が弾け飛ぶ寸前だったことも知らず、のんきにレオン殿下と私の間で視線を行ったり来たりさせている。
いや、もしかしたら、さっきイーリスの意識が混乱していたとき、無意識に私の拳をくらうと自身がどうなるのか察していて、それであんな「ほぇ?」とかしか言えないアホ面をぶちかましていたのかもしれない。
私が投げていた瓦礫も、当たればおそらくは……
「結構、運が良かったんですね。貴方」
「え、な、なによ急に!もしかして馬鹿にしてる!?」
「いえいえ、そんなことは……」
無属性魔法も知らないくせに、よく私に決闘を申し込めたな、と思っていただけです。
他意はありませんよ?