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【50万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
10章前編 交易都市ベルシュテット

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今とっても幸せ

 交易都市ベルシュテット、北地区。

 昼の時の出店が多く並んで賑やかだった印象は既に無く、辺りは静まり返っている。


「えー!!? 今日なにも食べてないのぉぉ!?」


 ‥‥‥そこに、場に合わない大声が響き渡る。


「バカっ、声が大きいッ」


 隣で聞いていた黒髪ショートの少女は目を見開き、急いで相手の口を塞ぐ。


「ほぉにふんのふぁぁなっ」

(訳: 何すんのターナっ)


 口を塞がれた銀髪ツインテ少女は、手をバタつかせる。


「この時間に大声出したら目立つだろっ。カンナ、いいかげん周囲を気にーーー」


「ふぅぁ」


 説教を受けながらも銀髪ツインテ少女、いやカンナは空間魔法【異空間】を発動し、手を伸ばす。


「っておい、ボクの話を聞いてーーー」


「ふぁい! ふぇっふぁくばし、ふぉれ!」

(訳: はい! せっかくだし、これ!)


 そして、ターナに小さな袋を見せた。口を押さえられていても、カンナは笑顔である。


「は? いや普通、この流れで今クッキー渡す?」


「ほぉれ、ぶぇふきょうほうのふぉきにふぁったの!」(訳: これ、別行動の時に買ったの!)


「え? いやだから今はボクが話してーーー」


 ターナは困惑するが、カンナは笑顔のまま言葉が途切れない。口を塞がれているにも関わらず、平常運転。


「ふぁ、ふぁはくふぁべぉぉー!」

(訳: さぁ、はやく食べよー!)


「‥‥‥わかった食べるからぁぁ!!!」


 そして結局、ターナも大声を出すハメになるのだった。



「それで、2人はなんて言ってた? (ポリポリ)」


「うーん、有力な情報は無かった! (ポリポリ)」


 少し離れた路地裏で、ターナとカンナはクッキーを食べながら座り込んでいた。


「ディルフィちゃんとネルちゃんの話によると、2人がここに来る以前から噂はあったの。でもそれは噂の域を出ない程度のもの。そして今まで特に何もなかったんだって」


「そうか、特に無しか。グロッサ王国よりも行方不明者が多いアルスガルト帝国周辺なら何か分かると思ったんだが」



  ターナが交易都市ベルシュテットに足を運んだ理由。それは各国で行方不明者が続出していること。

 最も行方不明者が続出しているのはアルスガルト帝国。だが他の国は無関係というわけではなかった。

 それはグロッサ王国内でも例外ではなく、既に数名が原因不明のまま行方が分からなくなっている。

 まだグロッサ王国では数が少ないため事態は明るみになっていないが、深刻化する未来を辿るのは目に見えていた。

 このままでは国外にも滞在している『エルジュ』の構成員たちにも影響が出るかもしれない。そのため、単独任務で国外に詳しいターナが調査を開始していたのだ。

 ちなみに、付き添いのカンナはただ交易都市で組織に役立ちそうな物を買いたかっただけである。



 ターナが事態の不明瞭さに考えながらクッキーを食べる隣で、カンナは嬉しそうに話しかける。


「このクッキーも2人が販売してた所を買ったの。本当に美味しいよね、私も見習わないと!」


「いや、別にそこはどうでもいい」


「ひどっ!? そんな意地悪言うならターナにはあげないよ?」


「‥‥‥何を?」


 すると気になる言葉が聞こえ、ターナは視線を合わせる。カンナはポケットから手を抜いて見せた。


「じゃーん! 私からのプレゼント!」


「‥‥‥ボクに?」


 差し出された手の平に乗っている物を見て、ターナは目をパチクリさせる。それは、黒のポーチだった。


「丈夫な革で出来てて、ベルトに装着可能! 交易都市って、やっぱり良いものあるよね〜」


「‥‥‥確かに、これなら予備の暗器も携帯できそうだ」


 ターナが無意識に呟くと、カンナは珍しく目を細めて意地悪く笑う。


「ふふんっ。ターナの欲しいものってこういう実用性に長けた物だもんねっ?」


「‥‥‥なんだそのドヤ顔は」


「ふふっ、図星だ?」


 そう言って微笑むカンナから、ターナは視線を逸らす。正直、かなり嬉しかったのだ。


「ふふっ。ターナは単独任務がんばってるし、いつも助けてくれるから、そのお礼! これからもよろしくね、ターナ!」


「‥‥‥あ、ありがと。これからもよろしく」


 嬉しそうに微笑むカンナと、ぎこちなく感謝を述べて受け取るターナ。

 すぐにポーチを腰に付けるターナを見て、カンナは握り拳を作りながら嬉しそうに宣言する。


「よしっ! ターナには渡せた〜! あと10人!」


「10人?」


 ターナが気になった様子で呟くと、カンナは満面の笑みで応えた。


 「うん! まずはレスタくんでしょ? 次にいつもお世話になってる『黄昏トワイライト』のみんな!」


「お前‥‥‥相変わらずお人好しだな」


 ターナが呆れたように言うと、カンナは小さく首を振る。


「ううん、そんなんじゃないの。私、今とっても幸せなんだ。私だけ、こんな幸せで良いのかなって。だから、伝えきれない感謝を伝えたいの」


 そう言ったカンナは下を向いて目を細める。そんな彼女を見たターナは、ゾッとした。


「‥‥‥‥‥‥」


 何かを思い出している彼女の眼差しが、闇を彷徨っていたからだ。


「‥‥‥ってわけで! 今日も楽しく生きてるの!」


 だが、それも一瞬。カンナはすぐに目を閉じて微笑むと、いつもの様子に戻ってくる。


「あ、ああ。じゃあ早く事態の解明を急がないとな」


「うん! ‥‥‥って何の話してたっけ」


「おい」


 頭を抱えたターナが説明すると、カンナは「あ、そうだったね!」と手を叩く。

  

「ここにしばらくいたディルフィちゃんとネルちゃんも調べたらしいんだけど、特に重要な情報は見つからなかったって」


「ネルはともかくディルフィが言うなら目撃情報は無いと言っていいかもな(はむっ)」


 そう言って口にクッキーを含み、頬を膨らませるターナ。するとカンナは少しムッと眉を顰める。  


「もー! ターナは一言多いよっ! ネルちゃんのこと何だと思ってるの!」


「アクアの妹分だと思ってるが? (もぐもぐ)」


「‥‥‥すごい的確だッ!?」


 カンナが目を見開いて納得していると、ターナは小さく息を吐く。


「アルスガルト帝国から近い都市なら何か分かると思ったが、ここまで情報を掴めないとは」


「この周辺で行方不明者が増えてるんでしょ? でも、この交易都市は平和そのものだよ?」


「‥‥‥そこだ。逆に引っかかる」


「え? どういうこと?」


 話が見えないカンナは目を細めてジーッと見つめる。ターナは勿体ぶらずに話し出した。


「明らかに事態について関心が無さすぎる。観光客ならまだしも、ここに定住してる人もだ」


「ここに定住してる人も?」


「ああ。それに最近、アルスガルト帝国軍でも相当な実力者が行方不明になった。このまま深刻化すれば、国の統制が効かなくなる」


「え、そんなに?」


「可能性は不明瞭だが国を治める立場の者が巻き込まれてみろ。その国は一気に瓦解する」


「た、たしかに!」


 カンナは納得したのか、ポンと手を叩く。ターナはため息をついて、小さく声を漏らす。


「まるで、住民が意識操作されてるみたいだ」


「意識、操作‥‥‥」


「こんな弱音を吐いてしまうほど、ここに来ても進展しなかったのは予想外だった」


「‥‥‥意識操作、行方不明者、深夜の徘徊‥‥‥」


「ま、意識操作はボクの勘だけどな。でも必ず、これらには何か意図が‥‥‥カンナ?」


 ターナは困惑した様子で隣を見る。そこには自身が話した言葉を何度も反芻し、明らかに動転しているカンナがいた。


「行方不明、徘徊、誘導、操り‥‥‥そんな、違う。あり得ない‥‥‥こんなの、ただの偶然なーーー」



「偶然じゃないに決まってるでしょ? バカね。何年経っても、勘が鈍いのは相変わらずのようね」



 カンナの呟きに答えるように口を開いたのは、路地裏に入ってきた女性。隣には少女を従えている。

 背中に差し掛かるほどの赤い髪、真っ赤に染まった唇。真紅のドレスに身を包むその女は、妖艶という言葉では収まりきらない。

 その女の隣に控える少女は黒髪をまっすぐに胸まで下ろし、眼鏡をかけている。そしてメイド服を身を包んだ文字通りの従者。

 だが、カンナはその少女のことをまるで認識していなかった。



「嘘、でしょ‥‥‥あぁッ? そんな、わけ‥‥‥!!」



 彼女の色の無い綺麗な瞳には、真紅のドレスを着た女しか映っていなかったのだ。

 カンナは無意識にターナの腕をギュッと掴み、わなわなと震えている。まるで何かに縋っていないと、瓦解するようだった。


「‥‥‥お前たちは、誰だ」


 カンナの異常を悟ったターナは肩をさすりながら一緒に立ち上がり、女を睨みつける。


「久しぶりね、カンナぁ? 感動の再会よ? そんなに震えちゃって、泣くほど嬉しいのねぇ?」


 女はターナを質問を無視し、ゆっくりと歩き始める。怯える少女に、近づいていく。ターナは瞬きよりも速く短剣を取り出し、右手で力強く構える。


「寄るなッ!! 質問に答えろ!!それ以上近づけば、お前の首を落とーーー」


「ダメッ!! ターナ逃げてッ!!!」


 悲痛とも言える、そんな叫び声が路地裏に響き渡った瞬間。ターナの右手が、横薙ぎに動く。

 その前に立っていたのは、左腕から血を流した黒髪メイド少女だった。


「‥‥‥思ったより痛いですね」


 だが少女は表情を全く変えずに、自身の腕から流れる血を他人事のように眺めている。


「ニーナ? なんで私の前に割り込んだの?」


「‥‥‥アローラ様をお守りするためです。ここは私に、お任せください」


 ニーナと呼ばれた少女は主人のアローラの返事を聞くよりも早く、行動に移していた。腕から滴り落ちて地面に染みていた血が、躍動する。


「ッ!?」


 それを見たターナは胸騒ぎを覚え、左手でカンナを突き飛ばす。


「きゃっ!?」


 突き飛ばされたカンナは思わず目を閉じてしまっていた。体勢が崩れ、尻餅をつく。


「‥‥‥っ!? ターナっ!!!」


 そして目を開けると同時に、カンナは絶叫していた。



「ぐっ‥‥‥!?」


 地面から生まれた赤い槍が、ターナの脇腹を突き刺していた。貫通しているため、当然彼女の血が槍から溢れ出す。


「ごめんなさい、痛いですよね。でも安心してください。すぐに楽になりますから」


「何をっ‥‥‥言ってッ!!」


 ターナは睨みながら左手で針を持ち、すぐに投げつけようとする。


 ーーードクンッ。


 だがそれよりも早く。ターナは自身の体内で響く大きな音を聞いた。


「なんだ、今のっ‥‥‥」


 その直後、自身の思考回路に理解が追いつかない信号を送られる。まるで、思考を書き換えられているようだった。


「が、‥‥‥」


 身体の異常、感覚、感情が無くなっていく。それは、自分の腹に血の槍を突き刺した相手に対する敵意さえもーーー。


「ター‥‥‥ナっ?」


 尻餅をついたまま、カンナは目を見開いて絶句していた。まるで自分の()のように、ゆっくりと振り向いて対峙する暗殺者の少女を見て。


「‥‥‥」


 何も言わずに立ち尽くす彼女の目は、塗り潰されたように真っ赤に染まっていた。その様子を見たニーナは、淡々と呟く。


「これで、吸血鬼(わたし)と同じですね」


 カンナの幸せは、逃げられなかった自分の過去によって塗りつぶされていった。

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