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【50万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
10章前編 交易都市ベルシュテット

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黒い瞳の奥

 各自、交易都市を回って時間が経ち、夜。


「皆、交易都市を堪能できたかな?」


 交易都市、北地区にある酒場。

 多くの人が賑わい、飯や酒を交わす。交易都市という事もあり名物や珍味が豊富で、客の出入りは止まることを知らない。

 その中の一つのテーブルを囲うように、5人が夕食を食べながら会話を楽しんでいる。


「聞いたか? あの『使徒』が来てるらしい。しかも明日開かれる闘技大会に出場すると」


 そう言ったのはスカーレット。彼女は他の4人の反応を伺っている。


「はい、それは願ってもない機会です。僕は明日の闘技大会、出場しようと思ってます。明日の朝でもまだ受付が可能なら、ですが」


 真っ先に反応したのはジェイク。ちなみにアイトは視線を逸らして完全に沈黙している。すると、ジェイクに待ったをかけた者がいた。


「は? それはダメよヴァルダンくん。明日は外せない予定があるんだから」


 それは、システィア・ソードディアスである。


「なに? ソードディアス、どういうつもりだ」


 ジェイクは自分の予定に待ったをかけた彼女に聞き返す。すると彼女は少し睨みながら口を開いた。


「ていうか家名だと私か姉貴を呼んでるか分からない。せめてもっとわかりやすいように変えてくれない?」


「君のお姉さんの方を呼び捨てにするわけがないだろ。君を指して呼ぶ時は『ソードディアス』、お姉さんの方は『ソードディアス先輩』だ」


「は? なんで私が呼び捨てなのよ」


「なぜ同い年で同じクラスなのに責められる?」


 納得のいかないジェイクが思わず言い返すが、2人の会話は主旨からどんどん遠ざかっていく。そんな2人を引き戻したのは意外な人物だった。


「話くらい聞いても良いんじゃないかしら。剣バ‥‥‥じゃないシスティアさんはヴァルダンくん以上に戦闘きょ、じゃなくて戦うことが好きな人よ」


 それは少し咳払いをしながら話す、アヤメ・クジョウである。


「そんな人が闘技大会よりも優先したいこと。同じクラスのあなたから知りたいんじゃない?」


「‥‥‥まあ、それも確かにそうだが」


「珍しく良いこと言ったじゃない。でも、所々に悪意が満ちてるわね()()()


 システィアは彼女の言い間違いを見逃さなかった。わざと最後を強調して話しかける。すると爆弾女と呼ばれたアヤメは、長い黒髪を靡かせながら頭を下げた。


「いえ、本当にそんなつもりはなかったの。気を悪くしたなら謝るわ。ごめんなさい」


「はあ‥‥‥? どうしたのお前」


 アヤメが素直に謝る姿を見て、システィアは思わず困惑しながら小言を漏らしていた。


「まあ、いいわ。ヴァルダンくん、詳細を話すわ」


「ああ、とりあえず聞こう」


 だが彼女の真意が分からなかったシスティアは追及を諦め、話を戻してジェイクに説明を始める。

 そして話に入らないスカーレットは、アイトに話しかける。


「そういえば、面白い物を見つけてな。年甲斐もなく目を輝かせてしまった」


「いや反応に困ること言わないでくださいよ‥‥‥」


「ふっ。その発言が1番反応してると思うが?」


「っ!」


「君を揶揄うのは、本当に楽しいな」


「‥‥‥」


 ちなみに今まで空気であるアイトは継続して空気。スカーレットの雑談を聞いて相槌を打っている。


(ふふ‥‥‥)


 頭を上げたアヤメが目を細め、内心ほくそ笑んでいた。


(フフフ‥‥‥上手くいったわ。予想通り。これで明日、ヴァルダンくんは剣バカ女に付き合わざるを得ないわ)


 思い通りに行ったことに、高揚感を隠せていない。


(真面目な彼は少し押しに弱い。剣バカ女の予定の詳細を聞いてしまえばよほどのことが無い限り断らないはず)


 わざわざ心の中で呟く必要のない個人の分析結果まで呟くほどに。


(彼を生け贄にすることで最も厄介な女を潰せた。あとはお姉さんの方だけど、あの妹よりは全然話の通じる相手。一見は剣バカ女と同じように見えて、実は相手が嫌がれば引き下がるタイプだわ)


 アヤメは自分の狙い通りの展開にならなかったことを、相当悔しがっている。


(この中で最も歳上で、しかも妹がいる手前後輩に対して理不尽な事はできないはず。ましてそれが自分の妹と知り合いなら尚更っ!!)


 そのため、ひたすら知りたくもない相手のことを把握することに集中していた。


(完璧‥‥‥完璧だわっ!! これで、明日はアイト君と2人きりッ‥‥‥♡)


 こんな激重感情を、アヤメはいっさい口から漏らさずに抑え込んでいた。むしろ自身の大きな胸に手を置いて噛み締めている。

 ‥‥‥実際は明日、アイトが変装して闘技大会に出場することが確定しているとも知らずに。


「ーーーそれは聞き捨てならないな」


 だがそんな残酷(???)な事実に気づく前に、アヤメの計画は頓挫することになる。


「ソードディアス。君の言っていることは、完全な物欲じゃないか」


 それは、ふとアヤメの耳に聞こえたジェイクの声から始まる。


「1年の代表候補生で親交を深める機会を冬休み中に作るべく、お前は考えていたでしょ? その気持ちを汲んで機会を作ってあげたんだから私の予定に、付き合ってくれても良いんじゃない?」


「‥‥‥はぁ、わかった。でもその理屈だと、僕だけが付き合うのは納得いかないな」


「は? 何言ってるの? そこの2人も強制に決まってるじゃない」


 指を指してきたアヤメ曰く最も厄介な存在、剣バカ女(システィア)によって。


「ハァァァァァァァッッ!!!?」


 アヤメの声が周囲に響き渡る。こうして、1年生4人は明日の予定が決まってしまう。


(ーーーえ、俺も? 闘技大会あるんだけど!?)


 その中で1人、絶対に外せない予定が既に入っている黒髪少年を巻き添えにして。


 ◆◇◆◇


 アイトたち5人から少し離れた、カウンター席。


「‥‥‥」


 2人の男が酒を酌み交わし、気分が昂揚しながら宴を楽しんでいる。だがその内の1人、傷の入った大男が視線を別の方に向け、睨みながら酒を煽っていた。


「あ、兄貴? どうしやした?」


 舎弟らしき男が話しかけると、大男は不機嫌そうに酒の入ったジョッキを叩き付ける。


「ったく、ガキが急に大声出しやがって‥‥‥お? なかなか粒揃いの女が揃ってるじゃねえの。ちょっと若いがな。反省を促しつつ、大人にしてやるか」


「さ、さすが兄貴っ!」


 舎弟に合いの手を入れられた大男はご機嫌そうに椅子から立ち上がり、男2人と女3人が座るテーブルに近づいていく。


「ったく、ここはお前らみたいなガキがーーー」


 次の瞬間、男は唐突に言葉が途切れる。周囲の客は目を見開いて驚いた。男が膝がガクリと抜け、音を立てながら床に倒れ込んだのだ。


「ん? ってこのオッサン酔っ払ってるな。おーい、こいつの連れはいるか〜?」


 すると近くのカウンター席に座っていた青年が、辺りに助けを呼びかける。


「あ、兄貴っ!?」


 青年の声に気づいた舎弟の男が、兄貴分の大男に肩を貸して立ち上がらせる。舎弟の男は目の前に座っている青年を睨むように見る。


「このおっさんの連れか?」


 青年の身長はかなり高く、細身で足も長い。腹が立つくらいのスタイルの良さ。上は白のニット、下は黒のデニム、そして黒のブーツ。至ってシンプルな分、着こなす本人の外見の良さが充分に伝わる。

 そして少し癖のついたフワッとした黒髪で、切れ長の目に真っ直ぐな鼻筋、そして薄い唇。

 人が見れば誰もが『整っている』と好印象として評価される、そんな外見をしていた。


「ん? 俺の顔に何か付いてる?」


 だが、なんとなく気軽に話しかけにくいような愛想の悪さが黒い瞳の奥に眠っている。青年から漂う雰囲気は、どこか一匹狼を連想させるものがある。

 そして、彼の左手は指から手首にかけて痛々しく包帯が巻かれている。明らかに普通ではない。


「な、なんだお前は‥‥‥」


 そのため、舎弟の男は少し面食らいながら睨みつけていた。


「もう一度聞くけど、こいつの連れか?」


 だが、黒髪の青年は気にした様子もなく話しかける。


「あ、ああ。‥‥‥ってこれっ!?」


 舎弟が肩を貸した大男を見て目を見開くと、青年は苦笑いを浮かべながら話す。


「こいつ、なんか急にここで倒れてな。どうせ大方飲み過ぎて前後不覚になったんだろ」


「ふざけんな! 兄貴はこの程度で酔わねえ! それに、明らかに()()()()()()()()()()ーーー」


 男が続きを言うよりも早く、青年は立ち上がって相手の肩に右手を乗せ、耳元に口を寄せる。


「大人しく引き下がった方がいいぞ? こいつの発言、周囲の奴に聞かれてるから」


 そう忠告された青年は辺りを見渡す。すると青年の言うとおり、周囲の客たちの視線が集中していた。


「今揉め事を起こせば、誰が悪者になれば分かるよな悪人面?」


「うっ‥‥‥」


 舎弟が納得いかない様子で呻くと、青年は顔を離して椅子に座る。


「酒は量飲めばいいってものじゃない。美味さを噛み締めて飲めよ〜。大人が酒に呑まれた挙げ句に怒られるなんて、なかなか恥ずかしいぜ」


 青年は軽口を叩きながら、冷え切った視線を至近距離で放った。


「俺の気が良いうちに、去れ」


「っ‥‥‥覚えてやがれ」


 その凄みに引き下がるしかなかった舎弟の男は、せめてもの反抗なのか憎まれ口を叩く。そして兄貴分に肩を貸して奥のカウンターに戻っていった。

 一悶着を終えた様子は酒場内の全員が注目している。注目を浴びたことで、青年はどこかバツの悪そうに視線を逸らした。


「ありゃ。こりゃあ、お暇するしかないか。お姉さん、美味かったよ」


 青年はそう言って立ち上がると、近くに置いていた黒のステンカラーコートを羽織り、扉へと向かう。


「あ、あのっ!」


 すると酒場で働く女性が青年を呼び止める。すると青年はフッと笑って右手を振る。その態度、仕草‥‥‥まるで紳士のような立ち振る舞い。


「ああ、お礼なんかいいって。ごちそうさん」


「い、いえ‥‥‥お勘定を」


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


 なんともいえない空気が漂い始めるーーー前に、青年は店内を指差した。


「さっきの兄さんが『迷惑かけた』って俺の分も払ってくれるらしい。ほら、紙」


「はあっ!? っていつの間にっ!?」


 男が大声を出して立ち上がると、ポケットから請求が書かれた紙がパラリと落ちる。


「迷惑代ってことで、ごちそうさん〜♪」


 青年は右手をヒラヒラさせて外に出ていった。この嵐のような一連の騒ぎで、包帯の巻かれた左手はいっさい動かさずに。


 ◆◇◆◇


(なんだ今の‥‥‥キザな人だった)


 その一部始終を見て、アイトは呆然とするしかなかった。


「騒ぎになる前に、対処してくれた、のか‥‥‥?」


「それを口実に支払い押し付けただけでしょ。あの男、軽薄な感じが滲み出てたわね」


 ジェイクの困惑した声に、アヤメの鋭い指摘が割り込む。どうやら苦手なタイプだったのか、アヤメは扉を見ながら目を細めている。


「へえ‥‥‥面白そうな男じゃない。骨のある奴が、この都市にいたとはね」


 そう呟いたのは、システィア。あまりにも意外な発言に、スカーレットを除いた全員(1年生3人)が驚く。


「え、あなたってああいう男がいいの‥‥‥?」


 アヤメに至っては自身と真逆の評価なため、信じられないと言った様子で声を漏らしていた。 


「従順でつまらない奴よりはマシね。ほとんどの同級生たちは頼りなくて冗談が通じず、全く面白くない。でも、あんなに底が読めない男は久々に見たわ」


 システィアはそう言いながら片目でチラリと視線を向ける。


(‥‥‥なんで視線がこっちに)


 アイトは頑なに視線を逸らす。するとシスティアに舌打ちされたような気がした。


「‥‥‥あなたって、変わってるわね」


 気づいていないアヤメは呟きながら首を傾げ、ジェイクは何も言わずに飲み物を煽る。


「‥‥‥」


 そして話題性のあった会話に珍しく混ざらなかったスカーレットは、今も扉を眺め続けていた。


「た、高え!? あの野郎、覚えてろよッ!!」


 一方その裏では、勘定を払った男が目を覚ました兄貴分を担いで瞬時に出て行ったという。

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