新たな獣王
獣王選定が終わり遂にシーナの獣王任命式が開催される。
これを機に現獣王は隠居となり、シーナは獣王となると共にレオル・フリードと名を変える事となる。
世界樹の都市ユグンの中央にそびえるユーギリアはシーナの居城となり、新たな森の世界の王として君臨する事となる。
「近くで見るとやっぱ城はデカイな」
ユーギリア城にシン達は到着していた。
シン達はこの世界の者ではない為、任命式に参加する事は出来ないが獣王となったシーナはユグンの都市を回り顔見せを行う。
そのシーナをいち早く見ようと全員でユーギリアに集まったのだ。
「とうとうこの日が来ちゃったか」
「お前、よくここに顔を出せるな」
シン達の下に訪れたのは獣王選定の決勝でシン達に敗れたメリィだ。
赤茶色の髪を風になびかせ歩いてくる。
シーナに対して選定の予選から不正を働き、難易度を高くしたり、対戦順を操作しシーナに強敵となる候補者を差し向けていた。
そんなメリィがシン達の前に姿を見せた事にシン達の視線も厳しいものとなる。
「こうなったのもあなた達のせいだからね、シーナちゃんは絶対に獣王にならせたくなかったのに」
「どういう意味だ?」
メリィが混じり者のシーナを獣王にしない為に仕組んでいた事を知るシン達はメリィの言葉に違和感を覚える。
そんな事をわざわざ言わなくてもわかりきった言葉だからだ。
「そのうち答えはわかるよ、シーナちゃんを殺すのはあなた達だから」
シン達が引き止め続きを聞こうとしているのを無視してメリィは人混みの中に消えていく。
シン達が知らない何かが獣王と言う存在にはあるのかもしれない。
「殺すってどういう事よ」
メリィは確かにシン達がシーナを殺すと言っていた。
なぜ獣王になる事が死ぬ事になるのかわからない。
静かになるシン達を他所に獣王任命式は着々と進んでいた。
ユーギリア城での任命式は終わり先代獣王だった男がユーギリアから姿を現わす。
獣王になっていた時間の記憶がなくなった男は変わらない世界樹の都市ユグンを見て涙を流していた。
自分の体が老いている事から獣王の責務を果たした事を実感し感極まっているのだろう。
続いて新たな獣王レオル・フリードとなった水色の髪の少女が姿を現わす。
未だ混じりあった氷狼の耳をピンと立たせ緊張したように背筋を伸ばしている。
「なんだ、全然大丈夫じゃないか」
「負け惜しみでも言ってたのよ」
シーナの姿には凛々しさも感じ取れる。
メリィの言葉と違いシーナの視線は力強く、護衛達に守られ危険があるように思えない。
シーナがユグンに姿を現わすと集まった住人達は一斉に歓声を上げ新たな獣王の姿をその目に焼き付けていた。
使命を果たしている者達はシーナの事を虐げていたのだが、獣王レオル・フリードとなったシーナには讃えるように歓声を上げている。
今までのシーナの扱いから一変した森の世界の住人達にシン達は不満を抱くが、これからこの世界のルールはシーナによって変えられていく。
すぐには厳しいが少しずつでも変わってくれる事をシン達は願っていた。
「シーナにはいつ会いに行くの?」
まだ山の神サリスに接触はしていないが、すぐにシーナは取り掛かる事だろう。
だが少しは時間を置いてシーナに会いに行くつもりだ。
「3日ぐらい後にしよう」
少しずつ遠ざかるシーナを見送りながらシン達は宿屋へと戻る。
まだユグンでは祭りが続いており広い都市に静かな場所は1つもなかった。
この都市に来てからずっと泊まり続けている宿屋に戻るとシーナを乗せた神輿が丁度宿屋の前を通りかかる所だった。
シン達の姿に気付いたのか、シーナは神輿から体を乗り出しシン達の方向を見つめていた。
それに気付いたシン達はシーナに向け手を振る。
「お兄さん、来てたんだ」
シン達へと近付いたシーナは声をかけた。
その声からもメリィが言っていたような事が起こるとは思えないほどいつも通りのシーナの声だった。
「シーナ、頑張りなさい」
ユナが瞳に涙を浮かべながらシーナに応援の言葉をかける。
リリアナとエルリックも同様にシーナへと激励を言っている。
「・・・?」
そんな中ナナは1人で首を傾げながらシーナの事を見つめていた。
この世界に来てからシーナとずっと共にいたナナがシーナに何も言わない事をシンは不思議に思った。
「どうした?」
問いかけるシンの言葉にもナナは何も反応を見せない。
ナナの視線はシーナを見つめ動く事はない。
「お兄さん、それじゃ私は行かなきゃいけないから」
シーナが離れていってもナナは視線を離さずシーナを追いかけていた。
シーナの姿が完全に見えなくなるまでナナは見つめ続け、シン達に連れられが宿屋に戻ってからもナナは無言を貫いていた。
「ナナ、どうしたんだ?」
宿屋に戻りシンはナナの下へと向かった。
ナナが無言なのはいつもの事だが、何か引っかかる物を感じていた。
「シン君は、変じゃない?」
「それは俺の事か?」
ナナは無言で首を横にする。
口数の少ないナナの言葉でまずシンが考えたのは自分が変と言われた可能性だった。
だがナナの行動はそれを否定した。
「シーナか?」
そうとなれば残りはシーナの事だ。
シンの言葉にナナは首を縦に振る。
「何がおかしいんだ?」
「シン君は、シーナに、今日はなんて呼ばれた?」
「おにぃさんだろ?いつも通りだったぞ」
人混みの中でシーナの声は小さくなっていたが、シンの事はいつもと同じく呼んでいたはずだ。
「なら、大丈夫」
シンから質問の答えを聞いたナナはそれ以上話をする事はなかった。
何が大丈夫なのかシンにはしっかりとした答えが無く、モヤモヤした気持ちになる。
(そういえばあのピンクの髪の女の子が何か言ってたな)
まだ世界樹の試練を受けている時に宿屋の中で会話した事をシンは思い出した。
あの女性なら何かわかるかもしれないとシンは探す事にした。
宿屋の受付に行き、女性の特徴を伝える。
だが宿屋の受付からは客の個人情報は伝えられないと断られてしまう。
それでもせめて居場所だけでも教えてくれとシンは頼み込む。
「残念ですが既にこの宿には宿泊していません」
粘ったシンに宿屋の受付からその女性が既に宿泊していないと告げられる。
(仕方ないか、こうなったらもう一度シーナに直接会うしかなさそうだ)
他からの情報収集が不可能と決断したシンはシーナに会う予定を早める事にした。
ナナの行動とメリィの言葉。
2つの違和感に少しずつ焦りを感じていた。
(無事でいてくれよ)
実感のない不安にシンは包まれていた。




