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プロクラトル  作者: たくち
森の世界
78/205

違和感の正体

「シーナに会いたいんだが」


 世界樹の都市ユグンにあるユーギリア城の正門にシンは赴いていた。

 城への入城の許可を取る為、近くにいた警備兵にシーナへの謁見を申し出ていた。


「獣王様にですか?それならばあちらの受付に行って下さい」


 警備兵に案内された受付に向かい、獣王となったシーナへの謁見を申し出た。

 だが返ってきたのは許可ではなく、逆に城への入城を完全に禁止された。


「そういえばシーナの婆さんが仲間は会えないみたいな事を言ってたな」


 シンはシーナの仲間として獣王選定にも出場し、その顔を知られている。

 シーナとの約束ではユーギリア城にシンは行く事になっている。

 獣王自身が許しを出せば入城の許可は簡単に下りると考えていたシンはその話を深く考えていなかった。


「君は、久しぶりと言っていいのかな?」


 ユーギリア城の外に出されたシンに話しかける男がいた。

 聞き覚えのある声に反応すると、そこには獣王選定でシンに敗北したロイズが立っていた。


「何だ?今はちょっと立て込んでるんだ」


 どうやってシーナに会いに行くか考えたいシンは今話をする気はしない。


「城への入城を禁じられたのか?」


 そんなシンの状況を確認するようにロイズが話を続けた。

 森の世界の住人であるロイズなら何かわかるかもしれないとシンは考えた。


「ああ、シーナに会いに行きたいんだが、どうも俺は会う事が出来ないらしい」


 ロイズの問いかけに自分の置かれた状況を伝える。

 しばらくロイズが考え込むそぶりを見せたのでシンは答えを待つ事にした。


「僕も獣王になったシーナさん、今はレオル・フリードか。彼女に会いに来たんだ」


 ロイズは獣王選定の時にシンからシーナの目標を聞いている。

 そのシーナの目標に協力する為、まずは話をするとユーギリア城まで来ていたのだった。


「俺もシーナと話がしたい。何とか出来ないか?」


 ロイズがシーナに会うのならシンもどうにかしてその場に居合わせるようにしたい。

 ロイズと直接話をしたのもシンであるし、山の証の事やシーナ自身の事も心配だ。


「君は、シンと言ったね。君の顔はこの都市にいる人にはほとんど割れている。方法はあるにはあるが、僕を信頼出来るかい?」


 シンを警備兵達に気付かせずにシーナに会わせる方法があるならば断る理由はない。

 今は方法を選んでいる場合ではない。


「どうするんだ?」


「僕の吸引闇虫は知っているだろう?その吸引闇虫の中に君を取り込むんだ。吸引闇虫の中は黒で埋め尽くされるから外部から君の姿は見えなくなるよ」


 獣王選定でもロイズの吸引闇虫は人を飲み込みその力を奪っていた。

 あのモヤモヤした塊に入るのは抵抗があるが仕方ないだろう。


「頼む、俺をシーナの所まで連れて行ってくれ」


 ユーギリア城を離れシンとロイズは人目のない裏路地に進む。

 呼び出した吸引闇虫はシンを覆い完全にシンの姿は見えなくなる。


 だが吸引闇虫の中から外の景色を見る事も出来るし、力が吸収される感覚もない。


「吸引闇虫は音は消せないからね。シーナさんに会うまでは静かにしていてくれ」


 ロイズには吸引闇虫の中の状況はわかるようでシンが頷くとロイズは再度ユーギリア城に向かい歩き出す。

 シンが入城を断られた受付で獣王への謁見を許可され、そのままユーギリア城に入っていく。


 吸引闇虫は滑った感触をシンに与え、不快感を覚えているが、我慢出来ない程ではない。

 ロイズは城内を兵士に案内されながらシーナの居ると思われる場所へと向かう。


「獣王様とは個室でお会いして頂きます。時間は10分ほどです。時間になりましたらお呼びしますので」


 連れられた先は重厚な木製の扉の先の大きめの部屋であった。

 テーブルを挟み向かい合うように椅子が並べられており、ロイズは下座へと腰掛ける。


「まだ、君は出ないでくれ」


 獣王となったシーナ以外にも人が来る可能性があるのでまだシンは吸引闇虫から外には出ない、

 しばらく待つと扉が開かれ水色の髪の少女が部屋へと入って来た。


 獣王レオル・フリードとなったシーナは堂々とした態度で上座へと座り込む。

 ナナに言われていた事もあるのだろうが、シンはその姿に違和感を覚えた。


「あなたは、確かロイズさんですよね」


 シーナの話し方に違和感はない。

 以前と同じくあまり表情は動かないし、口調にも変わった所は見受けられない。


 先ほどの違和感はやはり気のせいだったかとシンは考える。

 先入観を持つと正確に見極める事は出来ない。

 冷静になれとシンは吸引闇虫の中で深呼吸をする。


「はい、獣王様。いきなりで失礼なのですが、獣王選定の時のお話をしに来たのです」


 時間に制限がある為、ロイズはすぐさま本題へと入る。


「それを話すにはあなたの吸引闇虫の中の方を出してからでどうですか?」


 シーナはシンの存在に気付いていた。

 ロイズは驚きながらもシンを吸引闇虫の外に出す。


「何しに来たのですか?獣王となった私には接触出来ないはずです」


 シーナの口調は以前と変わらない。

 だがその言葉は以前のシーナの言っていた事とは違う事を現ししている。


「どういう事だ?前と話が違うぞ」


 すぐさまシンはシーナに間違いを指摘する。

 獣王となる前と後でここまで話が違うともうシーナへの疑いは確実になっている。


「お兄さんは私に利用されていたとは気付かなかったのですか?」


「は?」


「私が獣王になるにはお兄さんを味方に付けるのは必須な事でした。あの程度の嘘を信じるとは思いませんでしたよ」


「嘘?」


「はい、あんな都合のいい占いなんてある訳ないじゃないですか」


 シンと出会った時の水晶の事だろう。

 だがあの時の話が嘘だとは思えない。

 その場にはリリアナもティナもいた。

 彼女達が嘘を見抜けないはずがない。


「そういう訳ですロイズさん。お兄さんと何を話していたか知りませんが、私には関係ありませんから」


「ふざけるな!」


 確かにロイズと話をしたのはシンだ。

 シーナはその話を聞いてはいない。


「おおよそ扱いを良くしろ、と言うのでしょう?それは出来ません。この森の世界が山の神によって作られた時からのルールです。今更変える事なんか出来ませんよ」


 有無を言わせないシーナの言葉にロイズも言葉を失う。

 シンも以前までのシーナとのギャップに戸惑いを隠せない。

 この森の世界に来てからシーナと過ごした日々が頭に蘇っていた。

 世界樹の試練や獣王選定など長い時を共にした。

 時折見せた笑顔が嘘だったとは思えない。


「話は終わりですね。ロイズさん、そしてお兄さんももう会う事はないでしょう。では、お元気で」


 最後までシーナの口調は以前と変わらない。

 だが内容が以前と全く違う。

 ここまで話している内容が変わるとは信じられない。


 だがそんなシンの頭にシーナの祖母の話が思い出される。


(3代目の獣王は、確か獣王になってから親友に殺されかけたんだよな?)


 シーナの祖母は確かにそう言った。

 その時は仲の良かった親友がなんで獣王となった後に殺そうとしたのか理解出来なかった。


(あのピンクの髪の女の子は獣王について言ってたな。確か何故襲名制か聞いてきたはずだ)


 歩いて退出しようとするシーナだったが、シンは徐々に自分の疑問が晴れていく気がした。


(あとはナナだ。確かシーナが俺を呼ぶ時になんて言ってたかだ)


 シーナが獣王になり、最後にシン達に会った際ナナが言っていた事が思い出される。


(シーナは俺の事を会った時からおにぃさんと呼んだ。ユナ達はそれぞれ名前で呼ばれるようになってからも俺の呼び方はずっと変わらなかった)


 シンは先ほどのシーナとの会話をすぐに頭の中で再生した。


「おい」


 扉へと手をかけようとしていた獣王レオル・フリードを呼び止めた。

 その水色の髪をした、かつてシーナと呼ばれた少女の動きが止まる。


「お前は、誰だ?」


「何の事?私はシーナ、今は獣王レオル・フリードだけどね。お兄さんはそんな事もわからないの?」


 最後の獣王の言葉がシンに決定的な証拠を叩きつけた。


「シーナの事はわかってる。だから聞いたんだ、お前は誰だとな」

 

 シンへの返答は獣王レオル・フリードの笑顔だった。

 少し間をあけ、獣王は言葉を話す。


「何故、わかったのか教えて頂こうか?参考にしたい」


 獣王レオル・フリードの口は完全にシーナと違う言い方をしていた。

 顎に手を当て、何故シンが気付いているのか考えているようだ。


「お前はシーナの記憶もわかるみたいだか、細かくはわからないのか?」


 目の前の水色の少女の中身がシーナでない事をもうシンは確信している。


「シーナはな、俺の事をおにぃさんと呼ぶ。お兄さんじゃないんだよ」


「なるほど、しかし今更変えた所で意味はないな」


 獣王レオル・フリードは扉を開ける。

 もう話す事はないと部屋を退出しようとする。


「まて!」


 獣王を引きとめようとするが遅かった。

 既に獣王は警備兵を従え退出していた。


「お時間です。お引き取り下さい」


 ロイズはとっさに吸引闇虫にシンを取り込んだ。

 ここに来たのはロイズ1人でないと他の者に知られる訳にはいかない。


「どういう事なんだ?」


 ユーギリア城から退出し、路地裏でロイズはシンに話しかける。

 彼もシーナの変わり様を目の当たりし、疑問だらけだ。


「おそらく、シーナは違う何かに体を奪われている。違う何かと言うより獣王レオル・フリードに乗っ取られている」


「獣王様はどういう存在になるんだ?」


「わからない。でもあれがシーナでない事はもう確定してる」


 シーナの身に何が起きたのか知らないが、あれは完全に別の存在がシーナの体を使っている。

 沸々と湧き上がる怒りを抑えながらシンは必死に頭を動かす。

 だがどうすれば良いのかわからない。


「ロイズ、お前の知識を借りたい」


「よくわからないが、良いよ」


 ロイズから許可を得てシンは歩き出す。


「どこに行くんだ?」


「俺の仲間の所だ。シーナを取り戻す為に協力してくれ」


 ロイズを連れ向かうのは他の仲間の所だ。

 先代獣王が記憶を取り戻して、このユグンに戻った事を知っているシンはシーナを取り戻す事が出来ると考えていた。


 シンは仲間の意見とこの世界に精通したロイズの知識を借り、シーナ奪還を果たすべく行動を開始する。

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