表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

動物好きは好きですか?

バーン!!


大きな音を立てて魔王の執務室の扉が開いた。


「ネモ陛下~! うちの息子と結婚するにゃー!」


香草茶で休憩中の魔王を襲撃したのは一匹のぶち猫。もとい、ケットシー(白黒)だった。

書類を届けに来た帯剣文官と同じ部屋で執務をしていた幼馴染兼側近、魔王は何事かとケットシーを見る。


「黙るにゃっ!! カルヴァン叔父!!」


そのあとを別のケットシー(黒)が追いかけてきて、取り押さえる。


「うるさいにゃー、パルファン! 恋人の一人もいにゃいネモ陛下にはこうして婿の紹介が必要にゃ!!」


「誰をネモ陛下の婿にする気にゃ!! 相手も承知しているにょか?!」


「誰でも良いにゃ! ネモ陛下に選んでもらえばそれで良いにゃ! 陛下の意志こそが最優先にゃ!!」


「カッコイイこと言ってても、カルヴァン叔父だってネモ陛下と結婚しにゃかったにゃ! 今回の話もネモ陛下を煩わすだけにゃ!」


この二匹は親戚だった。正確にはこの二匹は魔王の幼馴染であるケットシーの息子と孫に当たる。

ケットシーは他の魔族に比べて寿命が短い短命種な為、魔王の幼馴染だったケットシーは既に鬼籍に入っていた。

カルヴァンがまだ若い頃、その幼馴染が魔王を自分の息子の妻にと望んだ話はケットシー一族の中では有名な話である。


「その時は仕方にゃかったにゃ! ぼくにはイモジェーンがいたから無理だったにゃ! でも、息子たちは違うにゃ!!」


「みんにゃだって恋人いるかもしれにゃいにゃ! カルヴァン叔父は先走りすぎにゃ! みんにゃに恋人の有無を訊いてから来いにゃ!」


「うるさい、パルファン! ネモ陛下が結婚できにゃいのはそこのインキュバスのせいにゃ! 陛下の結婚問題を本当に心配しているから息子を紹介しているにゃ!!」


突然、話の矛先を向けられた優男な側近は、そのあまりにも酷い言い草に額に青筋を立て、猫撫で声になった。


「それはどういうことかな、カルヴァンく~ん? ノーチラス小父さん、気になるな~」


「すべてはお前が悪いにゃ、インキュバス!!」


「甥には優しいと評判のノーチラス小父さんも怒るよ、カルヴァンくん」


「そこは動物と子供にゃ!!」


「え~? 俺、動物と子供ガキの世話、嫌いだし~」


「甥には優しいんじゃにゃかったにょか?!」


「ノーチラス、お前が優しくしている甥なんてイレースくらいだろう?」


蛇玉な甥以外と面識もなければ、その話も聞いたことのない魔王からの率直な意見に、幼馴染は憤慨してみせる。


「失敬な!! イレース以外にもいるし、優しくしているよ、ネモ」


「ネモ陛下、婚活にゃんてやめて女子会ライフに生きるにゃー! このパルファン、ノーチラスおじさんの代わりに側近にしてくれるにゃら喜んでお伴するにゃー!」


言いながら黒猫のケットシーは魔王に抱き付く。


「パルファン!!」

「このケットシー(雌)!!」


「ネモ陛下~♪」


ケットシー(黒)は柔らかいもののない魔王の断崖絶壁の胸に顔を擦り付ける。


「そう怖い顔で睨むな、ノーチラス。子供相手に大人げないぞ」


魔王は窘めるが、幼馴染は笑い飛ばした。


「そのケットシーは充分、大人だよ、ネモ。動物の躾は悪さをしたらすぐにしないといけないから、渡してくれるよね」


「そうにゃ! 陛下、身内として、叱らないといけないにゃー!」


それまで静観していた美女文官が音もなく魔王に近付く。

次の瞬間にはケットシー(黒)の身体が宙に浮き、そのまま文官の手に首の後ろが掴まれた格好になる。

深緑と黄色の派手なニ色の髪をした文官は、魔王に風圧を微風ほども感じさせず、衝撃も与えず、魔王に抱き付くケットシー(黒)だけを鞘付きの剣でかち上げて浮かせて首根っこを掴んだのだ。


「っ!!」


気を失っているケットシー(黒)をぶら下げ、美女顔の文官は行き掛けの駄賃とばかりにケットシー(白黒)の首根っこも空いている手で掴む。


「陛下、一旦、失礼して職場放棄しているこの駄猫をカレンに預けてきます」


そう言って、文官は返答も聞かずに扉を足蹴にして押し開いて出て行った。顔に似ず、非常に粗暴な行動である。


「・・・」


部屋に残された魔王と幼馴染は文官の剣の技量とその表に出ていない本性に何も言えなかった。

慇懃無礼なところもあるが冷静な女顔の文官の、普段の姿とは異なるそれにギャップ萌えの要素があるにも関わらず、怖すぎて萌えられるところは欠片もない。




□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□




騒がしいケットシーたちがいなくなり、室内は一気に静かになった。

ゴールドの出て行った扉を閉めた幼馴染は魔王に言う。


「ネモがお一人様で終わったら先代の魔王夫妻と母に合わせる顔がないから、今後は婚活にもっと協力するよ」


その言葉に魔王は疑問を持った。


確かに甥のイレースを連れて来て子供好きアピールはさせてくれたが、それ以外の協力はまったく身に覚えがない。

逆に面白そうだからと事態を引っ掻き回したり、一人劇場などで他の者に絡んで反応を楽しんだりそういうことしかしていないように見える。


「今までのあれで協力してくれてたのか?」


不機嫌な顔で魔王の幼馴染は言った。


「何か言った? ネモの胸がないのも、求婚者がいないのも俺のせいじゃないんだけど?」


そして、心中で溜め息を吐くのだった。


(求婚者共が抜け駆けしてでもネモを手に入れたいという気概のないヘタレどもなのは、俺のせいじゃない。)




その日、練兵場で二匹のケットシーが精神的に憔悴した姿で発見されたのは、また別の話である。

・ネモ

幼くして父親を倒し、引退させた魔王。

冴えない茶(ミルクティー)色の髪にカカオのような焦げ茶色の目。

男の平均身長並の長身(人間の基準で180強)で断崖絶壁の寄せるものすら無い胸。

現在、嫁き遅れ予備軍の年齢。


・ノーチラス

ネモの幼馴染で側近(秘書か近侍)のインキュバス。下級魔族。

蜂蜜色の金髪にサファイア色の目の優男。

母親同士が仲が良く、他の幼馴染よりもネモと親しい。

魔王への忠誠を誓っている為、魔王に対してインキュバスの特殊能力は使えない。

ネモを心配するあまり、狂犬と呼ばれる状態にもなる。


・エレク

ぬばたまの黒髪に金の瞳の宰相。

上級魔族。

大魔法も楽々こなせる魔力を持つ魔法剣士。


・クレス

黒髪の中年将軍。

爽やかなイケメンで気のいい性格。

魔王ネモの就任時には将軍だった。


・ヘブンリー

赤毛の青年将軍。

精悍なイケメンで口数が少ない。

魔王ネモの就任時からしばらく護衛を務めた。


・ゴールド

深緑と黄色の髪の文官。カレン=デュラの

スラリとしたネモくらいの長身の美女にしか見えない。

常に帯剣しており、剣豪で武闘派文官。切り込み隊長という別名がある。


・カレン=デュラ

深緑と橙の髪の武官。アクセルゼータの副官。ゴールドの兄。

顔は美女だが将軍に値する実力の人物。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ