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戦の乙女と戦車の王  作者: るーぶる
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2

武装警備隊の本部に到着した時、俺は見知った人物と会った。

ポニーテールを元気に揺らしながらこちらに走りよってくる。


「草薙軍曹! お疲れさまッス!」

「お疲れ。今急いでる。本部に向かうまで歩きながらでいいか?」

「了解ッス」


と、ポニーテールの女――サーシャは元気に頷く。

彼女は武装警備隊の後輩であり同じ棺桶に入る仲間だ。

サーシャは俺付きの秘書の役割も引き受けているので単純に誰よりも過ごす時間は長い。


「郊外にある砲兵工場が爆破されたッス。更にサリウス大尉が今日の午後革命広場付近の路地で死体となって発見されたッス」

「確かにサリウスか?」

「簡易ではありますが検死班がそう判断したッスよ」


思わず呻く。

サリウス大尉は戦車乗りとして非常に有名だった。ロマノフカの英雄と言っても過言ではない。


「死因は?」

「これでズドン! ッスよ」


サーシャは手で銃の形を作り頭を撃つ真似をした。


「上は爆破と殺人を同一犯人とみてるらすいッス」


百歩譲って砲兵工場は破壊できてもあのサリウスを殺せる奴なんているのか?

俺は筋骨隆々だったサリウスを思い出す。ロマノフカ人としては珍しく和ノ辻人に対しても差別はしない奴だった。乗ってた戦車が動かなくなったとき仲間を背負いながら敵地のど真ん中から生還するような男だった。

そのサリウスが昼間に気づかれずに殺されるなんてありえない。

俺の疑問を感じたのかサーシャは言葉を続ける。


「……もしかしたら戦車殺しの仕業じゃないかって上に考えている人もいるらしいッスね」


戦車殺し、一年前位からその名前はよく聞くようになった。

ロマノフカ共和国の主力兵器は戦車だ。その生産割合は兵器の四割を占める。和ノ辻も戦車の生産を行ってはいるがロマノフカ産の戦車に対して質も量も劣っている。

和ノ辻はロマノフカの戦車に対応するため人を特攻させることによって戦車を破壊する戦法にでた。その特攻する兵士を猟兵と呼びその特別な育成機関があるという。

戦車殺しはその猟兵の1人につけられた渾名だ。

そいつは1人で戦車を次々と破壊し、ロマノフカの名だたるエースを殺してきた。


「草薙軍曹も危ないんじゃないッスか?」

「そいつはねえ。俺下手だし。サリウスに勝ったことないんだぜ」


サーシャのお世辞を受け流す。

どうやら話している間に俺たちは武装警備隊の参謀本部の扉の前に着いたようだ。


「……どんな命令がくるか今からわくわくッスね」

「十中八九つまらん命令だぞ。なんなら賭けるか?」




30分後、俺は武装警備隊本部地下にある戦車ドックにいた。サーシャも副官として俺に随行してきている。

ドックには300人を超える人数の戦車兵や整備兵達がいた。綺麗に整列しているところを見て武装警備隊の練度の高さを改めて確認する。その兵士達が俺の一挙一動を注視してくる。

サリウス亡き今、俺が武装警備隊の戦車隊を纏めなければならない。

地下ドックはひんやりと冷たかったが俺の背中は汗だくだった。

先程、参謀本部から告げられた命令は1つのみ。


『戦車殺しを処理しろ。やり方は草薙軍曹に一任する』


その後、和ノ辻人はロマノフカ共和国軍内で尉官になるのは本来不可能であるはずだったが俺は特例で名誉中尉に昇進した。今、稼働できる戦車36台――大隊規模の警備隊を運用するにあたって軍曹という肩書きはなにかと不利なのだろう。サリウスが政府有力者の息子だったこともあって上層部もなりふり構ってられないとみえる。

凄く面倒なことなってきた。

俺は大きく息を吸って吐いた。


「皆――聞いてくれ。……サリウス大尉が死んだ」



サリウスが死んだことは事前にここに集まった者は皆知らされていたはずなのにそれでもざわめきが起きる。

いかにサリウスが彼らの中で偉大だったかわかるな……。

現にこれまでの武装警備隊は表の顔としてサリウスが指揮を取り、裏の汚れた仕事を俺が担当することで成り立ってきた。

……お互いに尊敬し合ってたとは思う。俺は出身ではなく実力を評価するサリウスするを上司の鑑だと思っていたし、サリウスも俺に組織の暗部を一身に引き受けさしていることをどこか気にかけていた。ついにまともな話もせずサリウスは死んでしまったが。


「俺は大尉を殺した人物を殺さないといけない」


俺は言葉を続ける。

落ち込む者、泣く者、奮起する者、兵士の反応は様々だがここに来てまで俺の事が気に入らないのか睨んでくる奴も少なからずいる事に気づいていた。

ロマノフカの人種差別は筋金入りだな。苦々しい。


「相手は恐らく和ノ辻人だろう。なに、遠慮はいらない。俺の前だろうがそいつをぶち殺してやれ。こういってはなんだがな……俺は和ノ辻人が大嫌いだ。絶滅させてやらないと気がすまない。ところで、なんだが俺の家には鏡がない。――何故だかわかるか? 毎朝鏡見て自殺しそうになってな、捨てたんだ」


俺は口角を吊り上げた。

幾人かの兵士がぎょっとした顔で俺を見る。

ブラックユーモアのつもりだったんだがどうやらまた、笑えないユーモアに分類されたらしい。隣で立つサーシャも頬が固まっている。反省だなぁ。


「各員、自分の持ち場に就け。サリウス大尉の仇を、和ノ辻人を虐殺しに行こうじゃないか……!」





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