4-18 法務官エドガー・レイブンズ
霧の街、王都オルドン。
セイブルの鐘の音が低く響く。
薄く積もった雪は石畳を白く染めていた。
通り過ぎる馬車の轍が雪の道に残り、パン屋のベルが鳴る。
新聞売りの少年の声。
屋台に並んだ果実はかすかに凍っていた。
街が、今日も目を覚ます。
馴染みの靴磨きの少年が声を上げる。
「法務官様! おはようございます!」
エドガーは帽子を少しだけ持ち上げ、柔らかく微笑んで返した。
黒の革紐で結んだ青みを帯びた黒髪が彼の背に沿う。
ウールの黒い外套の裾がゆったりと揺れ、よく磨かれた黒革のブーツの先が溶けた雪に少しだけ濡れた。
彼が、視線をあげる。
整えられた行政街、セント・ブリッジ区。
そこに建つ白亜の尖塔――
王立裁定院。
エドガーは、口元にかすかに笑みを浮かべた。
建物三階の東奥の部屋。
“E.レイブンズ”と記されたプレートの下がる扉を開けると、暖気と紅茶の芳香がふわりと舞う。
扉脇で帽子と杖を置き、外套を脱いだ。
「おはようございます! エドガーさん」 「おはよう。ピップ」
窓際の机へと向かいながら、机に向かって書類整理をしていたピップの柔らかい髪に、軽く手を置く。
そしてそのまま、自席に腰を下ろす。
ノックもなく扉が開き、エドガーとピップが顔を上げた。
黒革の書類フォルダを抱えたルシアンは、まっすぐにストーブに向かうと、腰を屈める。
「寒いな!」
「おはよう、ルシアン」
「兄貴、おはようございます」
ルシアンはストーブの前でかじかんだ指をこすり合わせてから、フォルダから調査書を取り出してエドガーに差し出した。
「おはよう、相棒。調べてきたぞ」
エドガーは淡く笑みながら、それを受け取る。
ストーブが小さく、コン――と鳴った。
彼の背後の窓からは、少しだけ雪をかぶった王都の街が見える。
柔らかな光が、机上の書類と彼の手元を照らしていた。
エドガーはゆっくりと振り返り、窓の外を見た。
白い雪が、また降り始めたようだ。
こうして、
ひとつの恋が終わり、
大きな敵との戦いを終えても、
今日も、法務官エドガー・レイブンズの一日が始まる。




