奇襲攻撃
「いやぁ助かりましたよぉ! 一端の情報屋に無理難題をふっかけて来る団体様でしてねぇ、ウチもどうするべきかと手を焼いていたんですわぁ!」
ポールタウンに帰ると、あたし達を待ち伏せていたかのように狐ヶ崎が居た。こちらとしては探す手間が省けて良いけれど...さては、何処かで監視でもしていたのかしら?
「物証も何もねえのに、証言だけで依頼達成で良いとはねえ。情報屋にしては、昨日あったばかりの人間を、信じすぎちゃいねえか?」
3人揃って、今日は別のお店のお茶を飲む。店外の、風通しの良い場所。けど今回は奢りはなし。それくらい奢ってくれていいじゃないと思う反面、こいつはキッパリとした奴なんだと少し感心する。守銭奴も度を越せば、ある程度の信用を持つ。人柄では無く、仕事の様に。
「...」ごくごく
美味しい! 今日は甘くて冷たい飲み物。さっきまで走ってた訳だし、少し汗も掻いて冷たいものが体に染みる!
「恩人を信用しているのですよ。では、約束の報酬金です」
狐ヶ崎は長い袖から、またお金の詰まった袋を取り出した。チャリンと、いい音がまた鳴った。
「これには、お二方の望む情報を買える額がありますよ。ですがもちろん、今その情報を買わなくてもいい。自力で調べるもよし、他の情報屋から買うもよし。それは自由です」
『ふーん...意外と物分かりがいいのね』
「...」ごくごく
「だな。俺もてっきり、速攻で呪いの情報を喋るのかと思ってたぜ」
「狐聞きが悪いですねぇ、ウチは最初から、金銭を渡して情報を買ってくださいと仰いましたよ?」
『お金を貰って情報を教える、って言う行為を大事にしてるのかしら? 面倒くさいわね』
「...」ぷはー
「そう言ってやんな。メンツってのは案外大事なんだぜ?」
「何やら言われもない事を浴びせられている気がしますが...」
「気のせいじゃねえか? なあ?」
「...」うんうん
そうよ。言われのない事なんて言ってないわ。
『じゃあ、早速呪いのついての情報を買いましょう。...さっきのドレス女も気になるけれど、あれとはもう会うこともないでしょう』
「...」じー
「おーけー。じゃあ、嬢ちゃんにかけられた呪いについて、教えてもらおうか」
シェルツはお金の入った袋を狐ヶ崎に近づけ、狐ヶ崎はニヤリと笑ってそれを受け取った。
「毎度ありがとうございます。では、早速お教えいたしますねぇ」
この顔あまりにも怪しすぎるわ。本当に正しい情報なんでしょうね? ま、そうじゃなかったらぶっ飛ばすだけよ。
「ベルグラノ様の呪い...それは失語の呪いと言う物です。今から5年前、ポールタウンの通称裏通りと呼ばれる地区一帯を対象とした、無差別な攻撃。現状も、ベルグラノ様以外にも失語を患っている人はかなりいますねぇ」
「そうなのか?」
「...」うんうん
そう言えば...その時くらいからフェイスから裏通りへ配給が行われる様になったっけ? 結局最初の1回しか貰えなかったけど。て言うか、組織化した一部のグループが、配給ポイントをナワバリにしちゃったから近づけもしないのよね。....今なら奪えるかも?
「そこで問題なのは、誰が呪いを掛けたか。誰しもが知りたがる所でしょう」
『語りが長いわ。もっと急かして』
「...」ふあぁ
「まあまあ、そう焦んな。こう言うのは、聞けるだけ聞いとくと徳ってもんだ」
「...」ふーん
「おや? では結論から言いましょう」
狐ヶ崎はあたしを見て、何かを察してくれたのか一番知りたい事を教えてくれる様だ。最初からそうしなさいよ。シェルツはああ言ってるけど、情報伝達も早い方が良いわ。
「今回の失語の呪いの使用者、それはフェイス社社長『ヤマト』その婦人『サラトナ』のお二方で...」
パンッ!! 狐ヶ崎の声を遮る様に、町中に銃声が響いた。
「...おや...これは...」
あたしの視界には...右肩から血を流し、椅子から転げ落ちる狐ヶ崎の姿があった。
「狐ヶ崎!」
シェルツの声と共に、周囲から悲鳴が湧き上がる。平穏な日常は一瞬で抉れ、そしてまた1発の銃声が街に響く。
「...!」かまえ
あたしは弾丸を剣で逸らし、机を倒してバリケードを作る。机の上のコップやお皿が派手に割れて、湿ったクロスを引っ張ってシェルツに渡した。
「おいしっかりしろ! 致命傷じゃねえ!」
シェルツはクロスで狐ヶ崎の傷口を硬く結び、止血を試みている。けれど、撃たれた肩から右手の指先まで血で真っ赤に染まっており、狐ヶ崎は辛そうにしながら額から汗を流していた。
「ポールタウン警備隊だ。ベルグラノとシェルツだな? フェイス社からお前ら2人に逮捕状が出ている。大人しく投降しろ、丁重に扱ってやる」
机の角から少しだけ顔を出す。黒い服を着た複数の警官が、あたし達のいる店を取り囲っていた。幸い射線は通ってはおらず、今はまだ攻撃されることはなさそうね。
「犯人逮捕なら市民の犠牲も厭わないってか? おたくら随分仕事熱心だな! 感心するぜ!」
弾丸が机の端を粉砕した。...あの警官、シェルツの名前を知っている? それに真っ先に目当てのあたしやシェルツを狙わず、狐ヶ崎を撃ち抜いた...じゃあ、もう答えは1つね!
『シェルツ! エクリメイト!』
「...!」ふんす
「おーけー!」
水色の光を纏い、あたしの服装が変わる。そして視覚的には強くなってそうなこの剣で、あたしは思いっきり狐ヶ崎をぶっ飛ばした。
「っ!!??」
『そっち!? おいおい嬢ちゃん! 警備隊に付く訳じゃねえだろ!?』
狐ヶ崎はキラリンと空の彼方へ消えていった。まあ、止血も一応したし、情報屋なら頑張って生き残るでしょう。少なくとも、もうここにはいられないでしょうしね。それと私怨。
『あの狐女、あたし達を警備隊に売ってるわ。大体、シェルツの名前を知ってるのこの街であたしと狐ヶ崎だけよ?』
「...」かまえ
『なるほど、確かにそうだ。宿に泊まる時でさえ、俺は名前なんて書いてねえしな。だからと言って、重症人ぶっ飛ばす奴があるかよ』
『ご愛嬌!』
「...!」とびだし
あたしは机の裏から飛び出して、敢えて警備隊の包囲網の中に移動した。取り囲っていた警備隊全員から、拳銃の銃口を向けられる。....今まで誰もあたしに見向きもしなかったのに、こんな時だけ寄って集って来てイラつくわね....。
『罪状は何だろうな? 嬢ちゃん、フェイスに何かちょっかい掛けたか?』
『どれの事だか分からないわね!』
「....!」ふんす
『おー、やんちゃだな。....だが俺まで犯罪者扱いなら、盗みじゃあなさそうだな』
フェイスに対して直接何かをした覚えはない。ただの捨て子が、街を収める企業に喧嘩を売れるはずも無い。あたしは鉄砲玉でも無いしね。
「大人しくするつもりは無いようだな? 罪が1つ増えるぞ?」
『じゃあ後3つくらい増えても問題ないわね!!』
「…」ぶっとばしー
あたしは1度の歩行で偉そうな警備隊の前まで飛び、剣をどてっぱらにブチ当てて空の彼方まで吹っ飛ばした。休暇の時間にしてあげるわ!! これで旅費いらずね!
「なっ! う、撃て!!」
周囲に市民の姿は無く、警備隊は容赦なく発砲を開始した。あたしはその場から飛び上がって、建物の屋根に乗る。銃弾はあたしを追うかのように、建物の壁を破壊しながら上へ上へと迫って来た。
『どこに逃げる? いっそ街を出るか?』
『そうしたら、次は警備隊なんてお行儀の良い組織じゃない奴らから攻撃を受けるわ』
「…」とうそう
あたしは屋根から屋根へ飛び移り、裏通りを目指す。こんな騒ぎになれば、もう表にはいられない。裏こそ何をされるか分からない無法地帯だけど、まだ街の外よりかは治安と言う概念はある。
『どこか行く当てがあるのか?』
『最近まで、あたしが居た住処があるの。一度そこへ行って、身を隠しましょう』
「…」じゃーんぷ
『おーけー。そういうのは、詳しい奴に任せるのが一番だな。....ちょっと待て嬢ちゃん、後ろから何か来てるぜ!』
「…?」ふりむき
屋根を飛んで移動しているあたしに、誰が追い付て来る? そう思い振り返れば....空を飛んで、銀色の鎧があたし目掛けて突っ込んできていた。
「と、止まってくださーい!!」
威圧感の無い高い声と、それをかき消すに余りある背部の機械音。そして右腕に装備された2枚刃のチェーンソーが、火花を散らしながらあたし目掛けて突っ込んできた。
『あの嬢ちゃん息の根を止めに来てるぞ!』
『見りゃわかるわよ!』
「…!!」かいひー
右へ飛ぶように曲がり、また屋根から屋根へ移動する。
ドカンッ!! 地響きに見た轟音と共に、銀色の鎧はさっきまであたしが居た建物に直撃した。その一撃で建物は倒壊を始め、すさまじい土煙にあたしは目を閉じる。口を開くと、じゃりじゃりとした空気が入って気分が悪い。
『後ろだ! 嬢ちゃん!』
シェルツの声には反応できた。でも、風圧と土煙があたしの体の動きを止めた。
「....っ!」
あたしのお腹から、血に濡れた刃が付き出した。長く、波打ったような刀身の刃が。…違う....これ、あたしの体じゃ....!
「がはっ! ....いっ、てえな!」
『シェルツ!!』
シェルツの口から血が出た。いや、もう吐いたって言っていい量。それでもシェルツは足に力を入れ、振り向きもせずに後方へ銃を撃つ。
「…!」
背後には紫色のローブを着た人が立っており、ふわりと飛ぶように弾丸を回避した。
水色の光りがシェルツを包み、あたしは人の姿に戻る。それと同時に、シェルツが屋根の上に倒れた。刃の貫通した部位から、前からも後ろからも血を流して。
『シェルツ! シェルツ!!』
「…!!」ゆさゆさ
「ごぶっ....わ、わり…かっこ、つけた....」
頭が真っ白になった。何を先にすべきか、どう敵に対処するか。そんな事は微塵も考えられなくて....ただ、ただただ、シェルツに声を掛けていた。....言葉も出ないから、思いを投げかけていた。
『何で....あたしがどうやってあんたを運べると思ってるのよ! ここ屋根よ!?』
「…!」ふくやぶり
と、とにかく止血! 新調したから、このワンピースが一番きれいな布だ! これを破って、傷口を塞がないと!
「....! べ、ベル....後ろ....!」
弱々しいシェルツの手が、あたしの背後を差した。
「…」
「....!」ふりかえり
紫ローブが、へんてこな剣を持ってあたしに迫っていた。舐めているのか、いたぶっているのか、ゆっくりと....剣先を屋根に擦らせながらゆっくりと歩いて来る。このクソ忙しい時に....! そもそもお前ら何なのよ!! 急に人の事襲い始めて!!
あたしは血を吹き出すシェルツの胸を、必死に破ったワンピースで押さえる。でも血は止まらない。ワンピースも、あたし自身も真っ赤に染まって行く。
「…」
カリカリ....軽い金属の擦れる音が、直ぐ側まで迫って来る。
『人が動けないからっていい気になりやがって....! お前その内にぶっ飛ばしてやるんだから!!』
「…!!」にらみつけ
そんな心の威勢とは正反対に、あたしの手は震えていた。....怖い....。....シェルツを捨てれば、あたしだけでも逃げ切れるかもしれない。でも....そんな事の未来に、きっと幸せなんて無い。
「…」
紫ローブが、これ見よがしにと、剣を大きく振り上げた。そして....僅かな時間の後に、県が振り下ろされる。あたしは....反射的にシェルツに覆いかぶさった。
....パチン....




