行先はサーカス団!?
~♪
「…」おめざめ
何か、楽し気な音楽が聞こえて来る。とても賑やかで、他には複数人の声も聞こえて来る。....あれ? あたし何してたんだっけ? 確か変な特攻野郎と陰湿裏取り野郎に襲われて....ハッ!! シェルツ!!
「…!!」がばっ
薄暗い思考が一気に覚醒し、あたしはいつの間にか寝かされていた布団から起き上がった。
「おやおや、お目覚めですか?」
「…!」びっくり
急に声がして、思わず体が跳ねた。横を見れば、奇妙な人が読んでいた本を閉じていた。
黒い筒状の帽子をかぶり、黒いぴっしりとした正装を着こなしている。手は白いグローブを身に着け、顔には白黒の仮面をつけていた。
....不審者? いえ、あれから捕まってしまったって考えるのが妥当かしら? いやそんな事じゃ無くて!! シェルツはどこよ!
「…!」がしっ
「ククク、そう焦らなくてもよいですよ。貴方のフレッチャーは、我らの団員が手当てをしています。彼らと違って、丁重に扱っていますよ」
「…」じー
声からして男、だと思う。でも、こいつの言っていることが本当かは分からない。表情も見えないし、嘘を言ってるなら一番遠くへぶっ飛ばしてやる! ....こいつも、フレッチャーについては知っているのね。あたしが知らないだけで、意外とメジャーな存在なのかしら?
「おやおや、信用できませんか? ククク、良いでしょう。では、貴方のフレッチャーに会いに行きましょう。その道中、自己紹介と貴方の置かれている状況を説明しましょう。立てますか?」
仮面の音があたしに手を伸ばして来る。あたしはそれを受け取らずに、自分でベットから降りた。....あ、あたしの剣がある。鞘もあるし、ちゃんと身に着けておこう。
「おやおや....では、移動しましょうか」
あたしが目覚めた場所は、『クラウンサーカス団』というカラフルな大型テントの控室だった。今まさに芸が行われており、その音楽が控室まで届いていたようね。
「私は『ミラー』と言います。貴方のお仲間と同じフレッチャーですよ」
「…」じー
通りでへんてこな格好をしている訳ね。シェルツも割と浮いてる服装だったけど、こいつのは怪しさ満点ね。背後から見上げたミラーの顔は、どこか木で出来たかのような、人じゃない肌のように見えた。
「貴方の戦闘は遠巻きから拝見させていただきました。そして貴方のお仲間が負傷した後、私の力でお二方を安全圏まで移動させました。....このようにね」
ミラーが歩みを止めて振り返ると、その手の中にはあたしの剣があった。それと同時に、あたしの背かから何かが落ちた。反射的に振り返ると、床には茶色いただの棒が落ちていた。....入れ替え? というか、何人の物取ってるのよ! 返しなさいよ! それ気に入ってるんだから!
「…!」ぴょんぴょん
こいつ無駄に背が高いわね!!
「おや、これは失礼。楽しんで貰えると思ったのですが、どうやら違ったようですね」
ミラーが渡してきた剣を、あたしはひったくるように取る。そっちはあたしを助けたつもりかもしれないけど、こっちはまだ助けられたって言う確証は無いんだからね!
「…」じとー
「おやおや、これは手厳しい」
仮面で表情は見えないけれど、こいつきっと笑ってるわね。
ミラはーその後も何か色々言ってたけど、もうあたしの頭の中には入っていなかった。現実に意識が戻るにつれ、あの出来事が夢じゃないって理解し始めたから....心が、自分でも不思議な程に震えている。
「ここです。貴方のフレッチャーが「....!」ばんっ
あたしはミラーの指さした扉と強く開き、駆け足で中に入る。
「ひあああ!? な、ななな、なんですか!?」
「こりゃあ小さなお客さんの登場ダ! こいつの娘カ? 孫カ? それともガールフレンドカー? ギシシシッ!」
扉の中には、またしても変な格好をしている女が居た。いや、それよりも....その女の側には、ベットで横になっているシェルツの姿があった。
『シェルツ!』
「....!」だっしゅ
「わわっ!」
「ギシシシッ! こりゃ一途なお客さんダ!」
考える前に足が動いて、あたしは側の女を退かしてシェルツの側に駆け寄った。....自分でも不思議なくらい、あたしはシェルツの事を思っているみたい。
『シェルツ! 起きなさいよシェルツ! あんたが起きないと、一体誰があいつらをぶっ飛ばすのよ!』
「…!」ぺしぺし
「いや、起きてるぞ....。そんなに叫ぶな、流石に寝起きにこの音量は目覚めがわりぞ」
『なによ、平気そうね』
「....」すん
ああ、何か思ってたより大丈夫そうね。見ればシェルツはとっても楽な服に着替えており、肩から服の中へ包帯も巻かれていた。....じゃあちゃんと、こいつらはあたし達を助けてくれたって事ね。なによ、そうならそう言いなさいよ。揃いも揃って怪しい格好して。
「うわー、辛辣ー。これでも刺されてるよ? 俺」
シェルツの顔は、万全ではなけど死に関わるような悲壮な顔では無かった。
「....」だきっ
「あーだだだっ! ま、待て! 抱き着くな....! 嬢ちゃんの顔がちょうど傷口に刺さってる!」
なによなによ....心配かけさせやがって....。
「ギシシシッ! こりゃガールフレンドの方だナ!」
「ちょ、ちょっと....そんな事言わないの」
........
........…
「どうだ、落ち着いたか?」
『....最初から、落ち着いてるわよ』
「....」なでられ
「はいはい....そうだな」
凄く久しぶりに、誰かに頭を撫でられた。おばあちゃんの細くて優しい手とは違う、大きくて少し遠慮がちな手。でもおばあちゃんと同じくらい暖かくて、優しい手。
「お前さん達には随分世話になったな。医療費はどのくらいになる?」
「おやおや、随分と律儀な方ですね。ならお代は結構ですよ。代わりに....我々と手を組みませんか?」
「み、ミラーさん、言い方....言い方....!」
シェルツが寝かされている部屋、そこにあたしとミラーと、多分シェルツを看病していた女が居る。そして何やら…リベンジチャンスが訪れそうね! ....あ、ちゃんと2人にお礼はしたから! あたしそこまで礼儀が無い訳じゃ無いからね!!
「えらく話が急だな。こっちとしては、まだおたくらの名前も知らないんだぜ? ああ....因みに俺はシェルツ。こっちはベルグラノだ」
『....この通信魔法って、他の人には聞こえないの?』
「....」おじぎ
「それが出来たら苦労しねえよ」
「....。これは失礼。私はこのクラウンサーカス団の副団長、ミラーと申すものです。以後、お見知りおきを」
ミラーは座っていた椅子から立ち上がり、綺麗で大げさなお辞儀をした。
『ねえこいつ、狐ヶ崎と同じ臭いがしない?』
「…」じー
『俺もそう思う』
じゃあ今度はこっちが先手で裏切る番かしら? あいつ、流石に生きてると思うけど....。
「あ、わ、私は『バレー』です! クラウンサーカス団の、団員です」
シェルツを看病していた女は、バレーと言うらしい。
緑色の2本のおさげをたらした、薄紫の垂れ目の女性。つま先がつり上がった黒い靴に、左右で長さの違う白黒のストライプの靴下を履いている。スカートの淵が丸まったかぼちゃの様なズボンを来て、面はギザギザの歯の様な絵柄の巻物をしていた。肩と手首には白黒の丸いふくらみが付いており、その間は白黒の螺旋のカバーを装備している。首には小さな黒いリボンと、その背後へマントの様な2つに割れた白と黒の布が腰まで垂れ下がっている。
ミラー以上に奇妙過ぎる格好の上、さらに奇妙な物がバレーに乗っかっていた。
「俺様の名は『ハット』様ダ! 安直で子供でも覚えやすい名前だロ? ギシシシッ!」
喋る帽子。広くて太いツバに、縦長の白黒の縞模様の帽子。そこに乱雑に付けたようなギザギザの口と白い三角目が付いている。ぐねぐねと動いてて、帽子単体で生き物のよう。
「こりゃあ、随分と愉快な連中に助けられたな」
「....」うんうん
「我が団長は、更に愉快な姿をしていますよ。…今は舞台で踊っていますが、すぐにこちらに来るかと」
まだ大物が控えてそうね。あたしもうこの2人と1つでお腹いっぱいなんだけど。
「ゆっくりでいいって伝えてくれ。こっちは街に帰って来てから情報過多なんだ」
『狐ヶ崎の情報の整理も付いてないのにね』
「....」うんうん
「聞いてるゼ? フェイスの幹部連中にやられたんだロ! ギシシシッ! それで良く生きて居られたナ!」
『フェイスの、幹部連中? じゃあもう敵は決まったような物ね』
「…」ふんす
狐ヶ崎の情報は、フェイスの社長と婦人が呪いの元凶だと言っていた。それに加えてその幹部に襲われたとなれば、もうあの本社事ぶっ飛ばせば全て解決ね!!
「まあ待て。その話、もう少し詳しく聞いても良いか?」
「ええ、構いませんが....その前に私から1つ。ベルグラノは、喋れない子なのですか?」
「…」うんうん
別に隠す事も無いわ。むしろ、そう理解してくれるんだったら、もっと意思疎通のやり方も楽になるわ。
「なんだ、おたくら心辺りがあったのか」
「我々クラウンサーカス団は、子供達に笑顔を、をモットーに活動しています。この街に居るのも、言葉を失った子供達への慈善活動の為です」
『え、そんなの聞いた事ないんだけど....』
「....」じー
「それっていつ頃からの話だ?」
「我々が本格的にこの街で活動始めたのは昨日からです。お二人が知らないのも当然かと」
「因み二....今日の来客数は3人ダ! ぜーんぜん俺様達の活動は信用されてねえナ! ギシシシッ!」
「こ、これから、これからだから....!」
「おたくらも難儀してんだな」
サーカスってそもそも何? 聞いた事ないんだけど…この妙な格好にも説明が付くのかしら?
「お心使い、感謝いたしますよ。それで本題ですが....我々は、この街に掛けられた呪いについて調査を行いに来ました。一端の慈善活動家ではありますが、団長は極度の子供好きでして....この事件は、必ず解決したいと仰っているのです」
「それで、呪われた子供かつフェイスに襲われていた俺達を助けたと?」
「呪われた子については結果論でした。ですが、フェイスは前々から怪しいと睨んでいまして、その幹部に襲われている貴方達なら、協力を求めれるのではないかと」
うわー、打算。これあれね、慈善の心があるのは団長だけで、ミラーやバレーは団長にくっ付いて来ているだけね。まあ、その打算のおかげで助かったのだけれど。
「ポールタウンの呪い、結構有名な話なんだな」
『5年前からあるらしいしね。そんなに時間があれば、有名にもなるはずよ』
「…」うんうん
「それでどうでしょう? 何故フェイスに追われていたかなど、野暮な事は聞きません。我々と手を組み、街に掛けられた呪いを一緒に解く....お二人としても、悪い話では無いと思いますが?」
『うわー、このフレーズつい最近聞いたわー』
「....」じとー
『それも裏切られて....と言うより、フェイスに情報を売られたな。....で、どうする? 付くか?』
『そんなの当たり前よ! このままやられっぱなしじゃ、あたしの気が収まらないわよ!! フェイスの幹部から社長から何から何までぶっ飛ばして! ついでに金庫から金も取って一生遊んで暮らしてやるわ!!』
「....」ふんす
「おーけー。じゃあミラーさん、俺達はおたくの話に乗る。できるだけ協力するから、そっちも頼むぜ?」
シェルツは上半身だけ起き上がった状態で、ミラーに向けて手を伸ばした。
「ククク、交渉成立です。こちらとしても協力の出し惜しみはしません。お互いに、最善を尽くしましょう」
ミラーはシェルツの手を掴む。…こいつ、本当に大丈夫なんでしょうね? ま、大丈夫じゃない時は…あの狐女と同じようにしてやるわ!




