エクリメイト!
「あー....ところで嬢ちゃん、あんた何で声が出ねえんだ?」
2人で街へ向かう途中、シェルツは少し言い辛そうにもしながら、突然そんな事を言って来た。町の雑多な人間はあたしに触れたがらないのか、そんなことを聞かれたのは初めてかもしれない。まあ、普通は気にならない方がおかしいわよね。
『呪われたのよ、他人との意思疎通を封じる呪い。もう面倒で仕方が無いわ!!』
「...」ムスー
「そりゃ難儀だな。解呪のアテはあるのか? それかあれだ、呪いは術者を倒せば解けるんだったっけか?」
『それが全然。この呪い、あたし単体じゃ無くてある地域一帯に掛けられた大規模な物なのよ。で、それに巻き込まれちゃったってわけ。ほんと不幸だわ』
「...」うーん
そう、あれは遡ること...何年前だったかしら? まあいいわ。
「物騒な事もあるもんだな。政府は何やってんだ?」
シェルツはあたしの歩幅に合わせてか、随分とゆっくりと歩いている。そんなに歩き辛そうなら、担いでくれたっていいのだけれど。...と言うか、政府って何かしら?
「...?」くびかしげ
「...あー、こりゃあれだな。相当俺は寝てたみてえだな」
シェルツは片手で頭を掻く。その動作、賭けにのめり込んだ奴らもしてたわね。シェルツも見た目相応のおっさんのようね。まあ、あいつらと違って物凄く清潔感はあるけれど。
『政府が何かは分からないけど、街の自治を行っているのは企業よ。あたしの住んでる街「ポールタウン」は「フェイス」って言う企業が頭張ってるわ』
「...」いしころみっけ
かなり手広くやってる大企業。格段悪い噂は聞かないけど、手放しで信用できる企業でも無い。何と言うか...何してるか分からない企業っ感じ。ただ製品の質は良い。
「企業が自治をねえ...世も末か?」
シェルツがため息をついて自嘲気味に笑う。うーん、そんなに変な事かしら? まあ、シェルツは随分と古い人間のようだし、今と昔で常識が変わってたら困惑もするわよね。
『まあその内...「ちょっとそこのお兄さん方ー!」
せっかくあたしがシェルツを励まそうとした時、あたし達の真左から女性の声が聞こえた。見れば、赤と白の宗教装束に身を包んだ、金色の髪の、狐の耳と尻尾を生やした女性がこっちに手を振って向かってきていた。
「待てやコラ!!」「逃げんじゃねえ!」「とっ捕まえて売り捌いてやる!!」「暴れると後が怖えぞオラアァ!」
その女性の背後から、4名の盗賊を引き連れて。
『手本の様な雑魚たちが来たわね!』
「...」ぶきかまえ
「こう言うのは変わんねえだな。...で? どっちに付く?」
『狐女!』
「...」ふんす
「おーけー! じゃあ、『エクリメイト』って唱えてみな! 心の中だっていい。そうすりゃ『エクリメイト!!』
シェルツの声を遮って、あたしは心でそう叫んだ。遅い遅い! 人命救助前に長話とか、救助対象を見捨てるつもり!? あたしがそう唱えると、シェルツの体が水色の光に変わっていく。
それほど眩しくは無いけど、直視はしたく無い眩しさの光。そしてすぐにシェルツの輪郭が曖昧になり、暖かい光があたしの体を包み込む。光の中であたしが着ていた服が溶けて、そしてすぐに光は重量のある武具に変わって行く。
頑丈で、しかし軽量な厚底ブーツ。短いが前面以外に5本の鋭利な棘が生えたスカート。ノースリーブのセーラー服に、ヘソ上まで伸びたネクタイ。そして手首までの長さの白手袋を身につけ、両手で青く光り輝く錆びた剣を持つ。最後に髪の先端に水色が加わり、青い大きなリボンが後頭部に結ばれた。
水色を基調とした、白と青の服。とても軽く、見た目に違わない軽量の防具のようだ。
「...ほほう?」
「な、何だこいつ!?」「急に姿が…!?」「狼狽えるんじゃねえ! あんな錆剣のガキに俺たちが負けるわけねえだろ!」「突っ込めオラアァ!」
狐女が素早くあたしの後ろに隠れ、4人の盗賊が各々の武器を出して突撃して来た。ふふん! やっぱり舐められるわよね? じゃあ遠慮なく....ぶっ飛ばしてあげる!
『これがフレッチャーとその召喚者が、ウェアリンクをしてエクリメイトと唱えたらできる、互いを武具として装備できる力だ。どうだ? 良いもんだろ?』
『専門用語が多い! もう取り敢えずぶん殴るわよ!!』
「...!」こうげきかいしー
シェルツの長ったらしい説明を聞き流して、あたしは地面を蹴って跳ぶように前進し、突撃して来る盗賊に近づいた。嘘...めちゃくちゃ速いわあたし!!
「うおおお!! おぼあっ!??」
盗賊1人の腹部に剣をぶち当て、地面を踏み込んで剣を振り抜いた。盗賊は情けない叫び声を上げながら、草原の何十mも奥まで飛んで行く。
『おー、生きてるかあれ?』
『草原柔らかいから平気よ。それに、あたし返せない物を奪う主義は無いから!』
「...」どやっ
『...それさ、遠回しに返せるものは盗むって言ってねえか?』
『不満?』
「...!」ぶっとばしー
「ぎゃあああ!」
これ、本当にすごいわね! あたしの体でも、盗賊をこんな飛距離で飛ばせるなんて思ってもなかったわ! 気分爽快ね! これで必要以上にボコボコにすることも無いわね! あれはあれでスカッとするけど。
『なるほど...こりゃ善人じゃねえな、嬢ちゃん』
『分かってくれて嬉しいわ』
「...」かっとばしー
「ぎょえええ!」
さあ、あと1人ね! 回避も行わずにここまで来れたけど、あんたは少しくらいは粘れるのかしら!?
「ま、待ってくれ! おおお俺たちが悪かった! だから...! 見逃してくれ!! 頼む!」
しかし、残った盗賊は草原の上に頭を下す。ガタイに見合わぬ震え声で、何度も何度も頭を下げ始めた。なによ、面白くないわね。
『だ、そうだ。どうする?』
『そんなの、決まってるじゃない!』
「...」ふんす
あたしは剣を力強く握り直し、地面を踏み込んで思いっきり盗賊を吹き飛ばした。
『知るかああああ!!』
「...」ぶっとばせー
「ぎゃあああああ!!?」
盗賊は空の彼方へ、キラリンと輝いて消えていった。ふぅ! 今までで一番飛んでったわね! あ、何か落ちてる。拾っとこ。こういうので生計を立てて行かないとね。
『ま、嬢ちゃんならそうするか』
シェルツの言葉が聞こえ、その瞬間にあたしの体から光が飛び散った。変身が解けて、元のボロ布姿に戻る。そして散った光は直ぐに集まって、シェルツの体として戻って行った。....不思議ねえ。
「おーし、いい感じだな。これが、フレッチャーの力...エクリメイトだ。良いもんだろ?」
『最高ね!』
「...!」ビシッ
「...ははは! そりゃよかった。理解のあるパートナーでな」
あたしはシェルツに拳を突き出した。シェルツはそれを見て笑い、腰を下ろしてから軽くあたしの拳に拳をぶつけた。
「いやー、助かりましたよぉ! おかげでウチはまた、今日を生き残れそうですわ」
....あ、忘れてた。そう言えば、この狐女助けるために盗賊ぶっ飛ばしたんだったわ。それにしても、凄い大きさの尻尾ね。1,2,3....9本も生えてる。
「…」どやっ
胸を張って、鼻を高くして目を閉じる。もーっと褒めてもいいのよ!
「あんた何者だ? 何すりゃあんなに盗賊が追っかけて来るんだよ」
『盗賊なんて、何も無くても追っかけて来るわよ』
「…」じー
とりあえず殴ってから略奪する奴らよ。先に殴ったって問題ないわ。
「いやぁ、少々トラブルがありまして....あ、ウチはこういう者ですわ。以後お見知りおきを」
そう言いながら、狐女は1枚のカードを取り出した。それをシェルツに渡し、次にあたしに渡してきた。
「....情報屋の、狐ヶ崎? 偉く凝った自己紹介の仕方だな」
「…」うんうん
赤と白の、袖も丈も長い宗教装束に身を包んだ女。金色の長い髪と、頭頂部からはモフモフの耳。後ろがどうなっているかは分からないけど、正面から見ても9本の尻尾が生えている事は分かる。丸メガネの奥は細い目をして、瞳の色は分からない。
「....」ちょんちょん
「ん? どうした?」
『めちゃくちゃ怪しくない?』
「....」いぶかし
「そりゃあ....まあな」
2人して狐ヶ崎を見つめた。それはもうじっと。
「....?」
狐ヶ崎は、ニヤニヤと笑いながら首を傾げた。




