煌めきの出会い
良く晴れた、けれど暑くは無い快適な日。波打つように柔らかな草が揺れて、時折花びらが宙を舞う。そんなのどかで寝心地の良さそうな草原のど真ん中で、俺は目が覚めた。
「ふうぅっ....あぁぁ....今回は、結構眠ってたみてえだな」
俺は両手を上へ伸ばし、首を曲げて骨を鳴らす。いつになっても、この瞬間の開放感はたまんないね。
「さーて、今回は誰が俺を起こしてくれたのかなー....おっと、こりゃびっくり」
「…」
俺の足元、腰ほどまでの高さ。肩まで伸びた真っ白で傷んだ髪に、透き通った紫色の大きな瞳。質素な服はかなり破損しており、汚れも随分と目立っている。背丈に見合う幼い顔立ちをしており、しかし儚さは微塵も感じられなかった。
「よう嬢ちゃん、俺はシェルツ。嬢ちゃんの名前はなんて言うんだ?」
俺は屈んで、真っ白な女の子と同じ目線に立つ。ただでさえデカい図体だし、怯えられて逃げられたんじゃあ今後に響く。相手からすりゃ、突然現れたおっさんだしな。
「…」ふるふる
しかし、女の子は首を横に振った。そして、口を大きく開けると掠れた息の音が聞こえた。....こりゃ、びっくりだな。
「口がきけねえのか」
「…」うんうん
「あー…」
さーて、どうするかねえ。
~~~
事の発端は、あたしがおばあちゃんの遺品であった指輪を触ったところから。
あたしを育ててくれたおばあちゃんが死んじゃって、その遺品の引き取り手としてあたしが選ばれた。面倒な事は全て業者に頼み、あたしは遺言状に掛かれたごく一部の遺品を貰いに、町はずれの草原までやって来た。
するとどう? 帰り道に遺品の入った箱を開けて、その中にあった珍しそうな指輪を手に取ったら急に光り始めた!! 水色の眩い光。そして、その光の中からこいつが現れた。
「…」じーっ
「何から言った方がいいか....」
あたしは、光の中から出て来たおっさんを見る。
中年でザラザラとした短い髭を生やしたおっさん。髪は黒と茶色が混ざった短髪で、うす赤色のくたびれた目をしていた。服装は…なんか、炭鉱夫みたいながっしりとした青い服を着ている。厚着のように見えるけど、本人はこの日差しでも平気そう。
「....」ちょんちょん
あたしはおっさん....シェルツとか言う奴の袖を引っ張って、とりあえず怯えてないアピールをする。こういう善人っぽそうな奴は、あたしに妙な距離を作ってしまう。面倒でしかたがない!! だから、平気そうな奴にはこうしてこっちから触れに行く。そうしないと、話が全然進まないからね。
「あー、おーけー。とりあえず、俺の言葉は分かるか?」
「…」うん
言葉は聞けるし読める。ただ、声が出ない。あと文字も書けない。今のあたしは、死ぬ程ほど面倒な状態になってしまっている。
「字は書けるか?」
「…」ふるふる
無理なのよねー。字を書こうとすると、手が震えてヘタな絵になってしまう。
「じゃあ....まずは俺の事から話そうか」
意志疎通の手段が無いと察したのか、シェルツは近場の低木まで移動して、木を背もたれに腰を下ろす。あたしもシェルツについて行き、隣に胡坐をかいて座る。ふー、一休み。
「....はしたねえぞ嬢ちゃん。その服装で胡坐は色々と見えるぞ?」
「…」ふるふる
気にしないわよ。それかあれ? あたしに欲情する小児性愛者? やめた方が良いわよ、その性癖は。
「おーけー、意味が分かってるならいいさ」
「....」うんうん
物分かりが良くて助かるわ。さあ、シェルツの話を聞かせてもらおうかしら? 何故指輪から出て来たのか、そもそもシェルツは何者なのか、何であたしに関わるのか。....どうやって伝えようかしら?
「まずは....嬢ちゃんの触れた指輪から話して行こう」
お前の話じゃないの!? まあ、それも気になってたから良いかしら。
「....」うんうん
「あれは分体結晶ウェルっていう鉱物だ。大結晶サザナミから削れて落ちた、宝石に似た石ころだ」
大結晶サザナミ。誰もが知る、実際にあったとされる創造神からの返礼品。何か物凄い力を持った石だって聞いてるけど、今はその在処を誰も知らない。....だからなんだって話なんだけど....
「そんで、ウェルってのはサザナミと同じ力が入ってる。力の量は格段に落ちてるが、所持するだけで誰でも魔法が使えるくらいにはなれるぜ」
「....」ふーん
才能至上主義とか言われる魔法をねえ。じゃあ、シェルツも魔法使えるのかしら? とてもそのようには見えないけれど。
「それで、ごく一部の者がウェルに触れた時....多種多様な容姿、人格、種族を持った結晶生命体フレッチャーが現れる。それが俺」
「....」
つまりなに? おばあちゃんの遺品の指輪がウェルとか言う力を持った鉱物で、さっきそれにあたしが触れたからフレッチャーとか言うこいつが出て来たって訳? …まあ、原理がどうとかは分からないけど、納得は出来たわね。
「分かるか?」
「....」うんうん
「ホントか? 適当に流してるんじゃないだろうな?」
「....」うんうん
信じてよそこは。あたし、今まで嘘付いた事なんてないし! ホントホント、うそじゃない。
「…まあ、そこはもう嬢ちゃんを信じるしかねえな」
「....」うんうん
話が早くて助かる。それで....なんでシェルツはあたしに構うの? あたしがシェルツを出したから?
「それで、ここから本題だ。フレッチャーはフレッチャーの召喚者と、ウェアリンクと呼ばれる契約を結ぶことができる。そうすりゃ、俺達はお互いを武具として装備する事ができるようになる」
「....」ふーん
へー、そんな話聞いたことがないけど。まさか詐欺じゃないでしょうね? …まあ、実際光りの中から出てきたわけだから、もう信じるしかないのだけれど。
「契約をして、寿命が削れたり痛覚を共有するって事は無い。契約自体はやるだけ得だが....あー....」
シェルツは渋い顔をして、目を閉じて首を傾げる。....。ああ、さてはウェルを巡って悪党に付け狙われるとか、そういう話ね? 確かに、誰でも魔法使いになれる鉱石なんて、誰だって欲しがる戦争の元。契約者になるなら、そういうリスクを背負う事になるって訳ね。
「....」ちょんちょん
「ん? どうした?」
「....」指差し
あたしはシェルツの服を引っ張り、目が合ったところで自分を指差した。
「....その意味、分かってるのか嬢ちゃん?」
「....」うんうん
力が手に入るならけっこう、仕事もしやすくなる。それに、じゃあ嫌ですって言ってシェルツを見捨てたくはない。あたしは善人じゃ無い。でも、寝起きの奴を草原に置き去りにするほど外道でも無い。どんとこい、遠慮しないで。
「....」
シェルツは目を閉じて、一頻り唸り声を上げる。....さてはこいつ、迷ってるわね? 図体の割には心配性な奴。仕方ないわね、ここはあたしができる奴だって事をアピールしようかしら!
「....」ちょんちょん
「ん? どうした?」
「…」どやっ
ほれ見なさい! この背中に背負った錆び付いた剣を!! この体と武器で相手から舐められまくって、不意打ちでぶっ飛ばすには十分な耐久をした我が愛剣を!! まあ、その辺で拾っただけだけどね!
「…ぷふっ! あはははは! いやー、こりゃびっくりだ! 嬢ちゃん、意外と逞しいんだな」
「…」ふんす!
そうよ! カスみたいな両親が蒸発して、倒れたおばあちゃんを死ぬまで支えた戦士なのだから! そこらの魔物やチンピラには負けないわよ!!
「あははは! あーあ....よし、じゃあやるか」
「…」うんうん
シェルツは一頻り笑い、涙を拭って真っすぐあたしに体を向けた。あたしも剣を背中に戻し、お互い胡坐をかいて向き合った。....腕も組んじゃお。
「手順は簡単だ。今から俺が渡す光を、体のどこでもいいから受け止めてくれ。そこに、契約の印が浮かぶ」
「…」うんうん
刺青ってこと? うーん、じゃあ後悔の無い場所に入れたいわね。....いや、変なのだったら嫌だし、あんまり人から見えない位置にしよう。
「…フレッチャーのシェルツの名の元に、ウェアリンクの申請を行う。…受け取ってくれ嬢ちゃん、これが…俺達の運命だ」
「…」うん
決められたかのような前口上をシェルツは唱え、同時に差し出された右手から水色の光りが飛び出した。とても綺麗で、暖かな光。おっさんから出て来たとは思えないわね。
「…」
あたしはその光を、両足で挟んで受け止めた。どうよ! これなら誰にも印がバレないわ!!
「…」どやっ
「....あー....おーけー。こりゃ、教育が必要そうだな」
シェルツは、とんでもなく呆れた顔をしていた。なによ、別にいいでしょ?
水色の光りは徐々に消えて行き、そして右足の裏には黒い印が浮かび上がった。立体的にも見える、四角の模様。…おばあちゃんの指輪の宝石を、紙に描いたらこんな形になるのかしら?
『聞こえるか嬢ちゃん?』
「…!」びっくり!
頭の中で声がした。シェルツの声。けれど目の前のシェルツは口を開いておらず、真っすぐにあたしを見つめていた。
「まあ、あり大抵に言えば通信魔法だ。これなら、言葉も字も使わなくても、心の声で会話ができるはずだ」
「…」
シェルツの魔法かしら? 便利なものがあるのね。じゃあ....自己紹介と行きましょうか。
『あたしはベルグラノ。よろしくね、シェルツのおじさん』
「…」どやっ
声が話せるなら、舐められないようにしなくちゃね!! 胸を張って、飛び切りの笑顔を見せてあげる!
「....おーけー。その態度に似合う、いい性格してんな、お前」
『ふふん! それはどうも!』
「…」ふんす
それが、あたしとシェルツの初めての出会いと会話だった。




