訣:本当の君、全力の俺
ビィドと別れ、改めて浄善寺と対峙する。
依然として宙からこちらを見下ろす様子は偉そうで、俺からすれば『魔王』というより『横柄な女子高生』という感じだった。
「……あの魔法生物は、隠れたのね」
そう呟いた彼女の表情は不満げで、冷たさを帯びている。
「ああ、取り敢えず用は済んだからな。待ってくれてサンキューな」
「軽口で気持ちを切り替えたつもりかしら。息があがっているわよ」
「よく見てるな。まあ死にかけんのはいつものことだから気にすんな」
気がつけば首を擦っていた。
スーツの裏地がベタリと肌に張り付き、傷から吹き出した赤がぐしょりと纏わりつく。
「距離こそまだ遠いけれども、後数分であの隕石は地上に追突するわ。現代の地球防衛では回避不能の直線コースよ。満身創痍で私を倒し、あの隕石を迎撃する気?」
「なんとかなるだろ。根拠は無ェけど……見る前に跳べ、だろ?」
深く息を吐き、折れたマジカルロッドを構える。
「取り敢えず、仕切り直しだ」
「……触媒としての性質は弱まってるはずだけど」
「そこは主人公補正でなんとかするさ。いくぜ? ……魔装、転身」
ヒーロースーツに包まれた身体が、紅い光に包まれる。
いつもと違うのは、衣服が脱げるのではなく、装甲の上から装飾がつけ足されていく事……そして、危うげに周囲に稲妻が走っていること。
「変身中を狙うのは基本戦法よ」
「知ってるか、ヒーローの変身中は無敵時間だ」
身体をすり抜ける攻撃。
曰く、マジカルロッドは夢想を実体にするため、一度肉体を現実から切り離すらしい。
まあ難しい理屈はいいだろ。兎に角フレーム回避って事だ。
「……で、次はどんな手品を見せてくれるのかしら。まさかそのスーツにマフラーを巻いただけの姿が強化形態とでも?」
「ああ、そうなるな」
両拳を軽く握り、今の自分を再確認する。
ひび割れ、片目が露出した頭部のマスク。そこから除く変身後の女性的な顔立ち。
紅いスーツにエメラルドのマフラー、どうやら目論見通り魔法少女の身体でスーツを身につけることが出来たらしい。
……まあ、スーツは怪我した肉体の補助しかしてくれないし、魔法少女にいたっては体力使い切った状態で出来ることなんて限られてるだろうが……ようやく、やる気のある普段の俺一人分ぐらいって感じだ。
「なあ、浄善寺。お前世界を滅ぼすことが目的って言ってたよな。その為に俺を殺すって」
「そうね。前後関係がどうであろうと構わないけれども、最終的にはこの世界線を滅ぼす事が必要よ」
「でもおかしいよな。思い返せば、お前は俺に本気を出すことを期待してた」
「……?」
理解できないといった風に彼女は首を傾げた。
そうだよな、自覚できてりゃこんな自己矛盾は無い。
「つまりな、二人いるんだろ。お前の中に『俺の中の勇者とやらを敵視し、世界を滅ぼすことを目的とする悪意』と、『俺の同級生であり、勝負に対して正々堂々本気を求める本音』」
「……は。何をいうかと思えば、まだそんな幻想を見るのね」
「じゃ、本当に幻想なのか確かめてみようぜ」
「それは……?」
懐から取り出したのは、妖しく光る宝石。
俺が魔法少女として回収している悪意の塊、ジャマー・トークンだった。
*
ジャマー・トークン。
それは人々が背徳と感じている個々人の悪意を増幅・具現化させ、実体なき魂喰らいを生み出す災禍の種――
まあ、つまりは個人が抱える悪感情が具現化して凶暴になり暴れまわっちまうって厄介な代物だ。
少し時は遡って、ビィドとの作戦会議中。
「田中様。ジャマー・トークンをこの状況で要求されるとは、まさか……」
「ああ、浄善寺の『魔王』としての部分をジャマー・トークンで実体化させてぶっ飛ばす。元々は妖精界でも、抑えきれない悪感情を切り離す目的の為に生み出されたんだろ?」
「それは悪意ある者の手によって凶暴化する性質が付け加える前のお話です。それに、本人が背徳的や悪感情だと自覚していない場合、ジャマー・トークンは効果がありません」
「少なくとも、浄善寺の本心が別にあるのは確かだと思う。俺がナイフ程度で死なないと分かりつつ、初撃がそれだったのが何よりの証拠……いやまあ、狙ってきたのは思いっきり首だったけど」
「何を馬鹿なことを……今の浄善寺様にジャマー・トークンを与えた場合、一体どれほどの怪物になるのやら分からないのですよ?」
「クラスメイトと殺し合いするより、悪意の塊と戦う方がマシだ。今この瞬間はノリが良い方が勝つ世界観にしていこうぜ」
肩のビィドが黙り込む。
唖然としているのか、それとも辟易か。
「まあ、どの道このままでは数分で地球が滅ぶか否かの状況ですからね。田中様に全てお任せします」
ムニュッと不思議な効果音を立てながら、どこからともなくビィドの手に紫の宝石が握られる。
「サンキュ、じゃあ行ってくるわ」
*
というわけで現在。
魔力の球をばら撒いてる浄善寺に近づく。
障害物は殴って壊す。
「おらぁっ!」
え、魔力で出来た球って殴れるのかって?
そこはホラ、魔法少女パワーと気合いでなんとかするんだよ。押し通るとも言う。
「だらっしゃあっ!」
「なんて、滅茶苦茶な……!」
「滅茶苦茶でも無茶苦茶でもなあ、日常を守る為ならやれる事をやるのが俺だ」
マジパナイザーのストリングを一度引き、天板を叩く。
『チャージ、オォン』
助走の末の踏み込み。
足の装甲が光り、今日初めての本気の爆発力がある跳躍。
お陰様で足装甲も恐らくぶっ壊れたが、もとより初見殺しで一発限りの瞬間強化だ。割り切りが大事。
「浄善寺ぃ!」
「っ!」
今まではお前の攻撃を体を逸らすか迎撃するかで回避してたから、いきなりこの速さには目がついていかないだろ?
防御の構えを取ろうとする浄善寺。
俺は彼女の胸目掛けて防御不能技を叩き込んだ。
「あぁあああっ!」
そうして、視界は極彩色の光に包まれた。
「ようやっと、肉体の自由を得たか」
自分の身体が地面にぶつかった頃、声が聞こえた。
それは確かに浄善寺のものであったが、いつもの彼女よりも低く、重い声色だった。
瞬きをし、眩む視界を戻してゆく。
目の前にいるのは、先ほどまでのレザージャケットを羽織った彼女ではない。
髪は膝丈ほどに伸び、黒い和装をした、やけに鋭い目つきをした女がそこに居た。
「よう、さっきの方が好みだったぜ」
震える膝を抑えながら立ち上がり、上を見上げながら太々しく言い捨てる。
「それは僥倖。これから滅ぼす者に好感を抱かれても困る故」
「そうかよ、安心したぜ」
「?」
「ジャマー・トークンで出てきた『背徳』がテメェってんなら、やっぱり浄善寺は世界を滅ぼす事を心の奥底では嫌がってたって事だからな」
「それを確かめるがだけに、彼の貴石を? その為に我に膨大な力を与えてまで?」
「ああ。『倒すべき敵』って奴が見つかんねぇと、やる気が出ないタチでな」
そうしてファイティングポーズを取りつつ、自分の手札を確認する。
うーん、笑えてくるぐらい何にも思いつかん。
「何を気味の悪い顔を……最早この星に残された時間もない。幕を引くとしよう」
「……ッ!」
和装の女の前に、魔法陣が幾重にも重なる。
今までにない力の収束、膨大なエネルギーの放出を予感させた。
「そうね、カタをつけるとしましょう」
その声は、背後から聞こえた。
「……浄善寺?」
「おはよう田中君。調子は……良くはなさそうね」
そこに立っていたのは、ダークブラウンの革ジャンにド派手なペンキ柄Tシャツ。
紛れもなく、俺のクラスメイトであり風紀委員長の浄善寺情華その人だった。
「お前、大丈夫なのか?」
「何、まさか私がまた田中君の頸動脈を正確に狙わないか心配しているの?」
「いや、それは考えてなかったわ……やんないよな?」
「今何故首を守ったの。もしかして私って結構信用ないのかしら」
「おう、数分前の自分の行動を思い出せ」
「デート、楽しかったわね」
「そっちじゃねえよ。え、アレマジでデートだったの?」
その時、俺と浄善寺の間を割るかのように黒い稲妻が落とされた。
「夫婦漫才は他所でやってもらおうか」
「あら、夫婦ですって田中君。心外だからちょっと離れてもらえるかしら」
「お前止まらねぇなマジで!? 状況理解ってる!?」
「ええ、まさに最終回って感じね。こういうドラマチックな展開って、私とは無縁と思ってたわ」
「どこがだよ、コッテコテの毒舌委員長キャラみたいな性格しておいて」
お前さてはアレだろ、一丁前に少年漫画ファンとしてこういう非日常的な展開にアガっちゃってんだろ。
「いい加減に、」
瞬きをすれば、和装の女が目の前にいた。
「しろ」
迫る拳。
俺の顔面がグチャグチャに破壊される前に、いつの間にか横に立っていた浄善寺がそれを片手で受け止めた。
「田中君。まずは一つ、貴方に言わなければいけないわ」
「ええ……強すぎだろ」
「ごめんなさい。許されることではないとは理解っているけれど、それでも謝らせてほしい」
迫る黒球攻撃を腕の一振りで打ち消し、浄善寺は言葉を続けた。
「貴方に触れた瞬間、私のものではない記憶が頭に流れ込んできた。世界を滅ぼす事、その為に貴方を始末しなければならない事。それが私のすべき行いだと」
「すまん、目の前の絵面が凄すぎてお前の懺悔が微塵も頭に入ってこない」
「……今結構大事な話してるのだけれど、ちゃんと聞いてくれないかしら」
「いや、聞いてる。聞いてるけど、なんかもうお前の存在が面白すぎてどうでもよくなってきた」
「ヒトをビックリ人間みたいに言うのを止めてくれるかしら。というか腕に巻いた安っぽい玩具で声高らかに変身したり、女児向けアニメみたいなデザインの魔法の杖を振り回しておいてどの口がほざいてるの?」
「正論」
「というか、勝手に人の心二分割にするとか倫理観とかないわよね。その先もノープランなあたり……空よね、脳味噌」
「罵倒に倒置法使うのエキセントリック過ぎるだろ。まあ、無理やりな作戦だったとは反省してるが……スマン」
「謝罪は不要よ、私の方が現在進行系で迷惑を掛けているのは確かだから。だからこそ、私に収拾をつけさせて頂戴」
「出来れば頼みたいところだが、ジャマー・トークンは欲望を具現化して強化する。お前じゃ勝てっこない……筈なんだが、何で攻撃防いでんの?」
浄善寺はジャマー・トークンによって現れた和装の女の攻撃を片手間にあしらい、俺と会話を続けていた。
マジでなんでだよ。
「私が貴方を連れ回したのは確かに貴方が力を持つ存在であることを確かめたかったのはあるけれど、それ以前に貴方という人物をもっと知りたかったからよ。いつも私にされるがままな癖して、どこか本気を出していないような……貴方の、本当の姿を知りたかった」
「……それは」
そうして少女は振り返り、こちらに笑みを見せた。
「貴方の事が気になっているわ。まだこの気持ちの名前はわからないけれど、これがそうだというのであれば女子高生は無敵になれる。そうは思わない?」
……ああ、いやしかし。
漫画でしか聞かないセリフだが、どうやら。
『恋する乙女は無敵』で、あるらしい。
「魔術回路を起動、座標指定、幻想の構築を開始」
浄善寺は両腕を突き出し、手首の位置でクロスした。
左手が光り、その光はやがて実態を持っていく。
「何を、するつもりだ。いや……何をした所で」
動揺で、和装の女の瞳が揺れる。
「勝つわよ、だって」
そうして彼女は、ストリングを引いた。
「メインキャラの初変身なのよ? 販促があるんだから負ける訳が無いじゃない」
『TEN−SHIN』
俺の紅いゴテゴテした機械的スーツとは違う、コート付きのスマートなパワードスーツ。
自前のマジパナイザーによって変身した、黒い追加戦士がそこに居た。
「じゃあ、私は私を倒しておくから。手を煩わせて申し訳ないのだけれど、田中君は隕石の方をお願いできるかしら?」
最早何でもあり過ぎて乾いた笑いしか出ない。
どういう理屈で何がどうなっているのか状況が掴めない。
「無茶言ってくれるな、まったく……俺にそんな余裕があると思ってんのか?」
――だが、そんなものを外野が知る必要はないというのが俺のいつもの考えだ。
「あら、あのよく分からない呪物を私に叩き込んだ後に倒すつもりじゃなかったの? 息切れには早いわよ」
「ま、確かに?」
息を大きく吐き出す。
他ならない風紀委員長様のご命令だ。無下にするわけにもいかない。
「一つ言っておくわ、田中君。私の持つ『要素』を肯定したくないからという理由で、隠し球を使わないのは止めておきなさい」
「……別に、気を使ってるとかそんなんじゃねぇよ」
「なら尚更止めて頂戴。格闘ゲームでもボウリングでも、勝った経験も無いのに舐めプされるのが一番腹が立つわ」
そう言われて、言葉が出ない。
思えば、今日の浄善寺は最初からずっと『遠慮の無くなった俺』を求めていたのかもしれない。
目の前を見れば、今日何度目かの青い画面が表示されていた。
《sss聖剣の解放ををををを》
あヤバい、バグったままだわ。
え、大丈夫かコレ。叩けば直ったりとかする?
「……何を突っ立っているのかしら。流石に貴方を守りながらの戦闘は結構厳しいわよ」
爆音の中、視界の外からの冷ややかな目線を感じる。
「ああもう、分かってるってェ、のッ!」
偶然か、はたまた必然か。
ヤケクソ気味に、手に持っていたソレを俺はメッセージウインドウに叩きつけた。
《起動コーどヲ 入リョクして下サい》
知らねえよんなもん。
俺の新しい力だってんなら、さっさと目覚めやがれ……!
「聖剣、起動!」
突き刺した、『片割れのマジカルロッド』のヒビの隙間から光が溢れ出す。
漏れ出る熱は、無理やり超能力で抑え込み、何とか形ばかりの俺の思い描く形状に押し込める。
本能的にやれるという確信が俺の中に湧いた。
マジパナイザーのストリングを引く。
最早脚部装甲もボロボロで、それを振るう腕を補助する程度にしかならないだろうが、それでもいい。
「チャージ、オン……!」
自前で口に出した言葉は、只のおまじない程度の鼓舞であったが存外力が入った。
最早手元も見ないままマジカルロッドを引き抜き、助走をつける。
和装の女の横を通り過ぎ、宙へ。
「させない……!」
「あら、そんな余裕のある立場かしら?」
背後から、彼女らのぶつかり合う声が聴こえた気がした。
だが、それももう目の前の討つべき星に比べれば些細な事だった。
「EX——
脳裏に浮かんだ単語は、以前彼女との些細な雑談で出たもの。
『……要するに【カリブルヌスにexやesが付いた結果その名前になったとされているのではないか】と言われているのだけれど、これって原点の使い手をより凄く見せたかったからってことよね。つまり、これってボクの考えたサイキョーの』
『そう言っちゃうと神秘性薄れねぇ!?』
そんな下らない会話が切っ掛けでありながら、俺の中では既に持つべき勝利の剣の名前は決まっていた。
——カリバァァァア!!!!!」
振るった腕の先に見えたのはマジカルロッドでは無く、光の収束。
汎ゆる物体を消し飛ばせるであろう熱量を持つその剣は、跡形もなく隕石を吹き飛ばし……
反動で身体は地に打ち付けられ、吹き抜けとなったショッピングモールの天井の穴から見事な日本晴れを視たのを最後に、俺の意識はそこで途切れてしまった。
お疲れ様です、残機1LIFE0です!
起承転結の結やのに完結しとらんやないかい!!!!
で、でもぉ……ここで切ってエピローグに行く方が区切りが良くってぇ……
はい、ごめんなさい。続きは明日更新になります。許してください。
代わりといってはなんですが、ちょっとしたオマケを書き足そうと思っています。些細なものにはなりますが、宜しければ読んでいただけると……かなり嬉しいです。
ブクマとかポイントとかも勿論嬉しいですが、貴方の感想、何を感じて頂けたかを教えていただけると励みになります。
あと、ヒロインにやべーもんブチ込む主人公に不快感や違和感を抱かれた方!多分正しいです!!!!(おかしいよこの人!!!!!)
ではでは、またまたお時間が許すならばエピローグでお会いしましょう。




