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浄善寺情華の恋情 〜変身ヒーローで鬼で超能力者な魔法少女の俺ですが、前世からの魔王との因縁が切れてない〜  作者: 残機1LIFE0/全自動駄文生産ライン


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転:魔王の想起、勇者の断案

 ゲームセンター、略してゲーセン。

 読者の皆は行ったことがあるだろうか。俺は今まで行った事がなかった。


 いや、なんとなくは知ってはいるんだ。

 見かけたこともあった。


 だがなんというか、オタクと分類される人とキャピキャピした人々が入り混じる不思議空間に足を踏み入れ気が起きなかったというのが本音である。

 まあ、そもそも遊んでいる暇がある身分では無いし、ゲームセンターはそんな難しい事を考えて入場するような仰々しい場ではないという事も分かっているのだが。


 無限に浮かぶ『行かない理由』に対して、金輪際発生しないかもしれない『訪れる機会』を与えられた今日の俺は……


「くっそお前どんだけやり込んでんだよっ」


「まさか小(こ)パンだけでハメれる位のド素人とは思わなかったわ」


 絶賛、浄善寺に格ゲーの実機でボコボコにされていた。


「流石にここまで実力差があるとつまらないわね」


「そう言いながらタイミング良くボタン押すの止めてくれませんかねぇ!?」


 画面端で自分の操作キャラクターがお手玉されているのを、俺はただレバガチャしながら見ている事しか出来ない。


 ハロー公式、ガード入力って本当に効果あるんですか?


「お前、結構通ってるだろ」


「いいえ? 以前学内でゲームを弄っていた自称ゲーマーさんを、正面から叩き潰す為に腕を磨いた経験があるだけよ」


「うわぁ……」


「『趣味でやるなら兎も角、学生の本分も忘れ遊びに現(うつつ)を抜かしている癖に、この程度の腕前で馴れ合いをしているなど笑止千万ね』と、言ったら逆上されたわ」


「逆にプロ級の腕前なら納得するのかよ」


「それが今やるべきであると、私が納得するだけの腕前を示す事が出来ればね」


「……俺、将来漫画家になる予定だから教室で漫画読むの見逃してくんねぇ?」


「ネームでいいから、私を唸らせる作品を提示してから言ってちょうだい」


 何がなんだか分からぬまま、画面にはKO(くにへかえるんだな)の二文字が表示される。


「あ」


「あら残念。下らない提案は没ね」


 緩く筐体に肘を付き横に目を向けると、何故か不満げな浄善寺が立っていた。


「勝者ってのは誇らしげに笑うもんだぜ」


「打ち負かした事が誇りになるような強者になってから言ってもらえるかしら?」


「やる前に経験ないっ言(つ)ったじゃん!」


「そうね、無茶振りしたのは私。でも貴方もそれなりの自信があったように見えたけれど?」


「ぐっ……」


 まあ確かに? やる前は持ち前の反射神経でどうにでもなるだろとか思ってたけど?

 いや全然無理だわ。フィジ強だけでやってけるのは化け物退治だけだわ。

 負けそうになったらいつもの御都合主義でパワーアップ出来るかと思ったけど、抑止力(シナリオ)君って世界の危機以外ホント興味ないよね。世界の危機の前に青少年(おれ)の危機にも立ち上がってくれよ。


 ……初心者に厳しい浄善寺(あいて)が一番の問題だとは思うけどな!


「あーもう止めだ止め。逆立ちしても勝てる気がしねぇ」


「そう、なら次に行きましょうか」


「は? 次?」


 困惑する俺を他所に、やけにあっさりと浄善寺はゲームセンターから退店する。

 俺は眉をしかめつつ、親鳥に追従する雛のように浄善寺の後を追うしかなかった。


 *


 アニオンモール東河丘(ひがしがわおか)。

 俺の住む地域で一番有名な複合型商業施設であり、映画を観るか一人になる以外のことなら大体できる場所と認識されている……主に俺から。


「お、ガチャコーナーあるじゃん。やろうぜ」


 モール内を黙々と歩く浄善寺に我慢できず、目に止まった物を指差す。


「それはタカラ◯ミーアーツの商標よ。この場合は適切でないわ」


「チッ、カプセルトイ警察かよ。良いだろガチャガチャって言っても」


「そちらはバン◯イナムコの商標ね」


「なんで違うとこが商標持ってんだよ。カプセルベンダー界隈激戦区過ぎるだろ」


 軽口を続けるも、委員長は歩みを止めない。


 ふと、先程の会話に違和感を覚える。

 確かに浄善寺情華という人間はいつも俺の揚げ足を取る。

 だが今の会話は何処か無理矢理な、言葉には出来ない違和感を感じる。


 腕時計に触れる、反応は無い。超常の力に問いかけようと、応答も無い。

 ただ、脳に浮かぶ僅かな疑心。背を伝う薄ら寒い感触。


「あー……そういえば、何で今日遊びに誘ってくれたんだ?」


 待て、本当に今日俺は遊び(・・・)に誘われたのか?


 ……いやいや、考え過ぎだろ俺。英雄症候群かよ。

 高校生が授業中にテロリストを殲滅する妄想してんじゃねえんだから。


 いや俺高校生だったわ。なら多少の妄想も仕方ねぇな。


「そうね、確かめたかったからよ」


 不意に振り返った女の黒い双眸が、俺を映している。


「な、にをだよ」


 口から出た空気は、意図的な苦笑か、ただ恐怖で漏れ出でただけだったのか。


 鉄仮面と見つめ合い数秒。


「行きましょうか」


 浄善寺は再び前へ向き直り、足早に歩き出してしまった。


 俺もう委員長が理解んねぇよ。元から何も理解ってなかった気はするけどそれはそれとして理解んねぇよ。


 何はともあれ貴重な友人と過ごす休日だ。

 残念ながら、ついて行く以外の選択肢は元より俺に与えられていない。


 *


 辿り着いた先はアニオンモール併設のアミューズメント施設。

 直球に言えば、ボウリング場である。


「何なの? 今日は未経験競技で俺が初心者狩り(しょがり)されるデーなの? ポイント二倍付く?」


「おめでとう、今日から経験者ね。ポイントも好感度も付与しないので各自勝手に楽しんでちょうだい」


「血も涙もねぇ……つか、何その馬鹿みたいにクソデカなバッグは」


 浄善寺は、いつの間にか片方の肩にクソデカスポーツバッグを担いでいた。


「私物よ」


「盗品の可能性なんて考慮してねぇよ。文脈を読め文脈を」


「拾得物という選択肢が出てこない時点で、貴方の育ちの悪さが感じられるわね」


「俺の人生を読めなんて言ってねぇよ……誰がスラム育ちの悪童だ!?」


「言ってないわ。ほら、呼ばれたわよ」


 浄善寺はそう言うと、颯爽と受付を済ませ中へと入ってしまった。


 ……ボウリングって、行って直ぐに出来る訳じゃないんだな。待ち時間ちょっとだけ暇だったわ。


 俺も続くように施設内へ。

 レーンがずらりと並び、人々が思い思いにボールを投げる。そんな、創作や動画の中でしか見たことのない光景が目の前に広がっていた。


「見たことあるやつじゃん」


「情報量ゼロの発言ね」


 ふと委員長の方を見れば、いつの間にか手にグローブを着け、カバンからマイボウルを取り出す真っ最中だった。


「プロでも目指してんの?」


「形から入るタイプなのよ」


「それ堂々と自分から言うやついるんだ」


「貴方はさっさと自分のボール借りてきなさい」


「へいへい……ボールって、どう選べば良いんすか?」


「親指の付け根が入って、離した時に抜けてくれれば良いわ。後は投げやすい重さを選んできなさい」


「うっす」


 棚に並べてあるレンタルボールを眺める。

 書いてる数字は重さ……ポンドってやつだっけ?


「良くわからんが、デカい方が良いだろ」


 そんな考えで十六と書かれた球を手にする。


 うん、軽い。


「よっし、じゃあレクチャー頼む委員長」


「……そこは聞くのね」


 ボールを弄る俺に、委員長が呆けた面を向ける。


「知ってたか委員長。人間には、手段を選ばず勝ちを取りに行かなきゃならない時があるんだぜ」


「休日の球技にそこまで本気に慣れるのはある意味尊敬に値するわね」


「格ゲーはともかく、スポーツでは負けたくねぇよな男の子としてはな」


「まあいいわ、じゃあ私のフォームを見ていなさい」


 そうして自然な導入で始まったボウリング対決。


 浄善寺はボールを持ち、流れるようなフォームで投球する。

 回転の掛かった球はカーブを描き、ピンをなぎ倒す。


『ストライク!』


「どう、理解できたかしら?」


 画面に派手な表示が出て、腰に手を当てた浄善寺が自慢げにコチラを見る。


「おぉ〜、何(なん)もわからん」


 わからないなりに『何かすごい』事は理解ったので拍手。

 そうしてドヤらないまでも鼻を鳴らし御満悦な委員長様。


「よっし、じゃあ俺の番だな!」


 立ち上がろうとする俺を浄善寺が静止する。


「スコアボードを見なさい、ボウリングは一フレーム三投よ」


「……つまり?」


「一ターン三回行動よ。因みに、最終ターンだけ二投目に全ピン倒さないとそこで終了になるわ」


「なんでだよ」


「そういうルールだからよ」


「なら仕方ないか」


 続く二、三投目。

 当たり前のように全てのピンを倒した浄善寺は悠々と着席した。


「え、ストライクってそんなに簡単に取れるの? ホームランみてぇなもんじゃねぇの?」


「ホームランよりは個人の実力で何とかなる範囲よ。簡単かどうかは……ま、見る前(Leap)に(before)跳べ (you look)ってやつね」


「リープ……何だって?」


「かいつまんで言えば、当たって砕けろみたいな事ね」


「やっぱムズいんじゃん」


 そうして始まった俺の初ボウリング、栄えある一投目。


 浄善寺に倣い、見様見真似で構える。


「足が逆よ。右足を少し後ろに下げるの」


「こうか?」


「違っ……ああもう、ちょっと触るわよ」


 口での指導だけでは要領を掴めない俺に痺れを切らした委員長。

 俺の隣まで来ると、浄善寺の手が俺に触れ――



 バチリ



「痛っ!?」


 季節外れの静電気。

 脳天まで貫くようなその衝撃に、思わず彼女の手を払う。


「うわ痛ってェ……すまん委員長思いっきり振り払っちまったけど大丈夫か? いや、それにしても凄え衝撃だったな。俺の手赤くなってない?」


 口早に感想を述べた所で、気付く。


 浄善寺がその場に硬直していた。


「委員長?」


 目の前で手を振った所で浄善寺はハッと首を振る。


「いえ、何でもないわ……」


「本当か? 調子悪いなら座った方がいいぞ」


「大丈夫よ、貴方の醜悪なフォームを見ている方が気分が悪くなるわ」


「そんなにかよ」


 軽口を叩く委員長は、いつもの無愛想な顔に戻ってしまった。


 やはり今日の浄善寺は調子がおかしい……気がする。


 いや、俺は浄善寺の事何も知らねぇけども。

 正直学校で問題起こす俺を叱ってくれるヤツくらいの理解度だけども。


 だが、俺の超能力センサーにも腕時計(マジパナイザー)にも反応が無い。

 普通の高校生の悩み(・・・・・・・・・)なら、俺に出来ることは友人として遊ぶことぐらいだろう。


「で、どう投げるんだ……こうか?」


「フォームはリズムに沿って、イチ、ニの……」


 その後、浄善寺先生のコーチングにより俺はストライクを三回出した。


 ゲームにはボロ負けした。


 *


 ボウリング場から出た後、俺達は再びアニオンモールの中をぶらついていた。


「良い時間だから、昼でも食べるか?」


「いえ、そろそろ本題に入りましょう」


「本題って……オイオイ、散々遊んだのにまだ何か用意してんのかよ」


「いいえ、貴方についての話よ」


「話?」


 頭に疑問符を浮かべ立ち止まり、隣に居る黒髪を見る。

 彼女もまた、その吸い込まれるような双眼で俺を見つめていた。


「私、田中君の事が好きよ」


「……は?」


 唐突に告げられた言葉。思春期の男子高校生には猛毒な台詞。

 それだけで貴重な青春時代がどうにかなってしまうそんな一言が……今、目の前で放たれた――


「人として、好感を持てるわ」


 ――訳ではなさそうだった。


「人として、かぁ……」


 いやまあそんな訳ないよな。そりゃあそうだ?


「貴方を蔑んでいる時、得も言われぬ感情を覚えるの」


「唐突な、ドS宣言?」


 戯(おど)けた言葉に反応もせず、浄善寺は此方に、


「貴方は、どんな負け方をしようと心の中は敗北していない」


 近く、


「その瞳の奥で、いつも普通の人と違うモノ(・・)を感じる」


 近く、


「貴方の隠しているもの、そのチカラを私は……


 近づいて、


 ……知っている」


「浄、善寺……?」


 呟いた一言、それが合図となったのか。


「ごぁ゛っ……!?」


 通行人のざわめきが遠く聴こえ、首筋が熱くなった。


 それが痛みと感じた時には、俺の脳は酸素を求めて悲鳴を挙げていた。


 突き立てられたサバイバルナイフ。

 何処から取り出したのか、何故刺されているのか、そんな疑問が頭を駆け巡り、苦痛の中に消えてゆく。


「流石に、英雄は即死してくれないわよね」


「ぉ゛……あ゛……」


 ブラックアウト寸前、力の入らなくなった手で、天板に触りストリングを――引いた。


「……ぃ……n(転身)」


「……!」


 何かを察した目の前の女が俺を突き飛ばす。


『TEN−SHIN』


 視界が光に包まれる。

 焼けるような喉元は、いつしか生温かい体液が噴き出しているのを自覚できるまでに落ち着いていた。


「ゲハッ、オェ……あぁ……」


「その外部装甲(スーツ)、着用者の外傷を修復してくれるのかしら? 便利なものね」


 ヘルメット越しに、前方の存在に意識を向ける。

 クラスメイトの委員長。目の前にいる存在は、確かにそれと瓜二つに見えた。


 心の底では聞きたくない言葉が返ってくると知りながら、俺は敢えてその問い掛けを口にする。


「お前は、何だ?」


「浄善寺(じょうぜんじ)情華(じょうか)。貴方のクラスメイトにして、世界を滅ぼす為に貴方を殺す存在よ」


 べたり、とスーツが肌に張り付く感触を味わいながら、最低の口上を受け取った。


「わかんねぇよ……俺、今日の委員長がわかんねぇよ!」


「ええ、理解する必要は無い、わ!」


 慣れない手付きで繰り出された刺突は、意識すれば害になり得るものですらなかった。

 素人同然のその攻撃を左手で受け止める。


「洗脳でもされたっての、か!」


「そうよね、躱すのではなく凶器を取り上げようとする」


 凶器を持つ手とは逆、少女の左手が妖しく光る。


「『魔力回路起動(起動セヨ)』『指向性魔力放出(続ケテ爆ゼヨ)』」


 腹部に走った衝撃。

 既に体は後方に吹き飛び、コンクリートに打ち付けられる。


「がぁっ!?」


 騒然は悲鳴に。

 日常物だったショッピングモールは一転、パニック物へと様変わりした。


 壁に背中を預けたまま思考する。

 魔法? 超能力? いや、何でもいい。

 大事なことは、相手が止めるべき悪意(・・・・・・・)であるって事だ。


「田中様!」


 砂埃の中、何処からともなく見知ったぬいぐるみが飛び出してくる。


「ビィド……!」


 見慣れた毛並みに、少しだけ呼吸のリズムを思い出せた気がした。


「申し訳御座いません、本来ならばもう少し早くに駆け付けるべきでした」


「ホントだよ。俺じゃなかったら死んでたぞ?」


「端的に状況を報告いたします、浄善寺様が洗脳などを受けている形跡は確認できておりません。また、『魔力』を使った攻撃を確認しています」


「ボケはスルーかよ。魔法世界のゴタゴタに浄善寺が巻き込まれたって事か?」


「いえ、我々の世界においても見たことのない術式の使い手でした。また、肉体自体は一般女子高生のものでしたので、偽物という線も薄いかと」


「一般女子高生が唐突に刺してきて訳わからん詠唱をカマしてくる方が怖いんだが。悪意ある第三者の仕業であってくれよそこは」


「あら、一人だと思いきやサポート役がいたのね」


 靴音が聞こえる。どうやら作戦会議の時間はなさそうだ。


「田中様、毎回の事ですがワタクシは……」


「ステッキを俺に貸してるから戦闘出来ないって言うんだろ? いつも通り避難誘導ヨロシクな」


「では、お言葉に甘え失礼させていただきます」


 そう言い残し、我らが妖精さんは煙と共に消えた。


「あら、数の利を活かさなくて良かったのかしら?」


「馬鹿野郎、あんなファンシーぬいぐるみに血なまぐさい戦闘させられるかよ。一般通過女児泣いちまうだろ」


「そう、血みどろの戦闘になる事は理解できてるのね」


 そう言って歩んでくる浄善寺の周囲には、黒球が幾つも浮かび、周囲に稲妻を走らせていた。


「そういえば言ってなかったな委員長。『何か、今日雰囲気違うな?』」


「あらそう? 貴方だって、今日は『本気』で戦ってくれるのね」


 黒い稲妻が此方に迫る。


 小細工は好きじゃない。

 俺は前方に向かって全力で走りつつ、最低限の動きでそれらを躱す。


 先ずは、拘束……!


「あら、避けるなんて意外に慎重なのね」


「格ゲーで一発食らったら抜け出せない技しか撃ってこないヤツが何か言ってら」


 そうして肩をつかもうとした俺だが、


「おわっ!?」


 気がつけば天井を仰いでいた。

 どうやら、合気か何かで投げられたらしい。


「捕まえた」


「オイオイ、近距離で魔法ブッパは駄目だろっ」


「ああ、魔法と魔術の違いすら理解していないのね」


 明らかに痛いでは済みそうにない力の奔流を感じた俺は、咄嗟に意識を集中させる。

 思い描くは、幾重にも重なった層。


 閃光。


 全身に衝撃が走る。

 超能力(いのう)にて具現化された不可視の壁。その障壁によって間一髪、俺がミンチになることは防がれた。


 まあ、再度ブッ飛ぶことにはなったのだが。


「ケホッ……初手ナイフからそうだが、殺る気満々だな」


「理解できているなら、抵抗を止めてもらえると助かるわ」


 悠々と歩む浄善寺は随分とキマった目をしていやがった。


「この数分で随分と悪い顔が出来るようになったんだな」


「田中君のおかげ様でね」


「俺の?」


 口に出た疑問符とは裏腹に、心当たりはあった。


 浄善寺に触れた瞬間、頭に奔った衝撃。

 或いは、彼女の不自然な反応。


 思い返してみれば昨日浄善寺が遊びに誘ってきたのは、俺が彼女の手首を掴んだ直ぐ後だった様な気がする。


「接触することで、何か良くないことがあった訳か」


「それが良いか悪いかは、これから決まるわ。兎に角、私は自分が何者なのかを思い出した(・・・・・)」


「マジかよ、俺は何にも理解ってねぇよ。詳細って付録の小冊子見ればわかる?」


「まだふざける余裕があるとは感心ね」


 うっせ、ふざけてないと現実直視しちまうだろ。


 理解っている、目の前にいる浄善寺(かのじょ)は明確な敵対者であると。


 だが、頭で理解しても認めたくないものはある。

 たった数分まで仲良く遊んでいたクラスメイトなのだ。その正体が何だどうだと言われても『知らねぇよ』としか俺は言えない。


「さって、どうすっかな!」


 己を鼓舞する為、再びストリングを引く。

 エンジン音のような唸りを上げ、マジパナイザーが震え出す。


「無駄よ。貴方と私では世界観レベルで能力に格差があるわ」


「だったら、路線変更(戦術変え)するまで!」


「……!」


 懐から取り出したのは、一本の杖(ロッド)。


『魔法少女とヒーローコスチュームの同時着用は避けたいところでしたから』

『え、ダメなの?』

『全く不可能という訳では御座いませんが……言うなれば、メーカー非推奨の使用方法です』


 なんて、この状況で言ってる場合じゃねぇよな!

 魔法には、魔法をぶつけんだよぉ!


「魔装(マジカル)——」


「即時起動(やらせると)、座標指定空間歪曲(思うのかしら)」


 目の前の空間が歪み、マジカルロッドが世界ごと(・・・・)へし折られる。

 変身バンクシーンに入る前に、呆気なく、そして容赦なく変身アイテムを破壊されてしまった。


「おまっ、そんな技あるなら最初から使ってこいよ!」


 ムッとしたように浄善寺が顔を顰める。

 どうやら先ほどの言葉に対して不服な御様子だが、連発できるようなものではないという証左だろう。


 さてどうするか。

 軽口を吐いているが、実際の所打つ手がない。

 マジカルロッドを破壊された今、浄善寺のトンデモ魔法に正面から対抗する手段はほぼ無いと言っていいだろう。


 マジパナイザーはまだ元気に唸っている。鬼の力を引き出す為の練気もある。超能力を扱うための集中は十分だ。

 だが、闇雲に動く訳にもいかない。


「まあ救いとしては、浄善寺(向こう)も決め手が無さそうなことか?」


「そう、ではわかりやすい敗北条件を作ってあげましょうか」


「あ?」


「この身を標に、この世界線(とき)、この次元(ばしょ)で。

 地には星。天に空(から)

 全ては、在るべき所へ——」


 詠み上げられたのは、災厄を呼ぶ呪い。


「第五元素(エーテル)・実在証明開始(接続)」


 聞いたこともないような轟音が鳴り響く。


「一体何を……」


「言ったでしょう。貴方の明確な敗北条件よ」


 浄善寺が指を天に向ける。

 爆発と共に俺たちの頭上、半径数メートルが吹き抜けとなった。


 彼女の指先、空のその先にある物。

 常人なら見えないであろう青空の向こう側に、光が見えた。


「こっちに、向かってきてねぇ?」


「違うわ。落ちて来ているのよ」


 隕石。

 端的に言えばそれだ。


 俺の視力で辛うじて見える星が、ものすごい速さでデカく見えて……否、近づいてきていることがわかる。


「お前、が原因でいいんだよな?」


「元凶(・・)と取ってもらって良いわ。約千七十秒後秒後に大気圏に突入するわ」


「なっに言ってんだお前……お前ごと消し飛ぶだろ」


「隕石の衝突程度なら肉体を再構成する余地はあるわ。この位でなければ、貴方のような英雄(そんざい)は死なないでしょう」


 そんな馬鹿みたいな理由で、この戦いの制限時間は決定された。

 遠き天体が、俺の希望を打ち砕きにやって来る。


 *


 ——そして、冒頭(プロローグ)に繋がるって訳。

 

 意識が朦朧とする中、俺は左手に付けた腕時計型変身アイテムのスターターを引く。

 ギュンギュンと今にも壊れそうな音が鳴りながら文字盤が回転するも、何も起こる気配はない。


 既に身体中の練気は使い果たし、超能力を扱える程の集中も最早無い。マジカルロッドは一番最初に圧し折られていた。


 結果から言おう。満身創痍ってやつだ。


「地球諸共木っ端微塵にする気かよ、馬鹿野郎が」


「貴方を殺せるならどうでもいいわ」


 彼女は淡々と、半ば投げやりにそう言葉を口にした。


「目ェ覚ませよ、浄善寺ッ!」


「目覚めたからこうなっているのよ。そろそろ倒れてくれないかしら」


 血を吐きながら投げかけた台詞も、返ってくるのは言葉遊び。最早彼女の正気を取り戻す術は『一回殴る』位しか思いつかないが、それも許されない格上の戦闘能力。


 視界が赤く染まる。身体は痛みを考える段階をとうに越し、ただ震えと痺れを伝えてくる。


 幸いであるのは、どうやら浄善寺も俺を仕留めきれないということだろうか。

 最早、力の込め方もわからなくなった腕を動かし……それでもストリングを引く。足を動かす。無理にでも呼吸をする。


「茶番は終わりにしましょう」


 攻撃が止む。

 定まらない焦点で宙に浮かぶ彼女に目を向ければ、相

も変わらず冷たい視線が此方を見つめていた。


「貴方の力が本格的に目覚める前にトドメを……と、初めは思っていたのだけれど。貴方、わざと手を抜いてるわね?」


「手なんか抜いてねぇよ、これが俺の精一杯だよチクショーが」


「嘘ね」


 そんなに秒で否定するなよ。

 嘘は言ってねえよ。


《聖剣の解放を許諾しますか?》


 ただ、真実でもないってだけだ。


 明滅するウィンドウがこれでもかと目の前で主張する。

 うるせぇよ、今浄善寺と話してんだどっか行ってろ。


《》


「私が記憶を取り戻したように、貴方も私との接触によって英雄としての何かを取り戻している筈」


「生憎と英雄とやらの記憶なんざ無ぇよ。力に関しても御覧の通りだよ」


 浄善寺は疑いを向けるように、俺を睨みつけ、魔力の塊を飛ばす。

 痛む体を無理にひねり半身でそれを躱し、何度目かの爆発の熱を背中で受ける。


「俺は、ただの田中太郎として此処に立ってる」


 ストリングを引く。やはり空回る様な音が鳴り、何も起こらない。


「英雄なんかじゃねぇ、お前のクラスメイトとして此処にいる」


 一つ、また一つと歩を進める。


「だから、」


 能天気に視界に浮かぶ青いポップアップ、それを——


「今は、御都合主義(いつもの)はお休みだよなぁ!」


 ——全力で殴り飛ばす。

 俺以外に見えていないことや、そもそも触れられるのかわからない事などはどうでもいい。


《聖剣の解放を許諾しますkkkkkkkkkk


「転身……!」


 まるで実際の液晶画面かのようにヒビが入りバグり始める文字列を余所に、改めてストリングを引く。


『TEN−SHIN』


 変身できるかどうかではない。変身する、変身した(・)。


「訳がわからないわ。貴方はずっと、今日の遊戯(ゲーム)の時だって……勝とうと思えば、手段は幾らでもあったはず」


 俺のやった行いの仔細までは把握できていないだろう。然し、浄善寺は驚いたように目を見開く。

 やがて首を傾げた彼女は、相容れない価値観の違う異星人の様で。


「どうして、そこまで手段に拘るのかしら。結果を伴わなければ、全て無為に終わるというのに」


 その自らのすべき行動を決めつけた暗い目が、俺にはどうしても許せない。


「馬鹿じゃねぇの、たかだか高校生同士のケンカで世界が滅ぶかよ。そんなことありえねぇし、させねぇよ」


 スーツもほぼ壊れている。

 回復機能は使い物にならず、装甲としては心許なく、体の動作補助程度しか期待できないだろう。


 つまり、充分だ。


「なあ、浄善寺……突然超常が手元に来て、唐突に因縁が生えて来て、本来白紙だった筈のお前の未来に唐突に『要らない筋書き』が入り込んだんだろ。だから、それを否定する」


 マジカルロッドを取り出す。

 折れてはいるが、ビィドへの緊急連絡程度は出来る筈だ。


「お呼びですか、田中様」


 ポンッと音を立てて現れる魔法のテディベア。


「出たわね、魔法生物」


 放たれる攻撃に、俺はビィドを担ぎながら逃げ惑う。


「避難は?」


「完了しております。偶然か必然か、負傷者も死者も出ておりません」


「そりゃよかった。で、マジカルロッド直せるか?」


「用途が変身なのであれば、そのままご使用いただけます」


「は?」


 手に持ったロッドを眺める。どこからどう見ても真っ二つに折られており、握られているのは残った半分だけだ。


「魔法少女の変身シーケンスは、田中様が御自身で行使されている魔法に過ぎません。マジカルロッドは、変身を補助する触媒ですね」


「え、じゃあコレいらねぇの?」


「ええ。しかし人間の世界での魔法という存在はとても不安定ですので、『妖精界から持ち込まれた小道具』という縁が必要なのです」


「それが、マジカル・ロッド……」


「二つに頒かたれた事で縁は薄れておりますが、そこは田中様の類まれなる運命力でカバーできるかと思います」


「ガチかよ凄えな俺の運命力」


「ガチでございます。しかし田中様、魔法少女に変身した所で、浄善寺様の魔法を相殺できる程度だと思われますが?」


 不安げな表情で此方を見つめるビィド。いや、テディベアに表情は無いんだが。


「決め手に欠けるって言いたいんだろ? 策はある」


「策……?」


 訝しげな顔をするビィド。いや、どう考えてもテディベアに表情は無いんだが。


 襲い来る攻撃を避けながら、作戦を告げる。


「ジャマー・トークンを出してくれ、ビィド」

どうも、残機1LIFE0ですっ!


晩ごはんの用意をしながら、この後書きを書いています。

空腹で心身ともにハングリー精神の様で書く後書きはさぞかし……お腹すいたしか思いつきませんねコレ


さて、焦らしに焦らしたヒロインとのデート回なのに何でこんなに滅茶苦茶になったの? という感想が来る前に一つ言わせてください。


ちゃ、ちゃうねん……こんな筈では……

プロローグの時点で予定された闇堕ちだから許されると思って……(何が違うんですか?)


「あらすじで日常系コメディと言っておきながら何言っとるんじゃクソボケェ!」という方がいらっしゃるかと思われます。

一つ言いたい、その前に書いてあるあらすじと冒頭に出た設定の時点でそんな訳ないやろがい!!!!!


ちゃんと風呂敷畳むから!今だけ!今だけ広げさせてよ母さん!待ってください掃除機かけるのは!


次回も楽しんでいただけると幸いです。ではでは

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