承:悪意の強襲、未成年の逢瀬
そして今朝、つまりは冒頭の数時間前。
『ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ』
鳴り響く警報音の中、俺はビィドと共に町中を全力疾走していた。
「――では、田中様は逢引の御予定を今朝まで隠してらっしゃったのですね?」
「隠してねぇよ! 逢引でもねぇし!」
「ああハイ左様で。それはそうと、集合時刻一時間前だというのに何故この様な……」
「仕方ねぇだろ! コレ鳴っちまったんだから!」
『ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ』
そう言って俺は、警報音の元凶である左腕の腕時計型変身アイテムを指差した。
『マジパナイザー』、ホビー感溢れる赤と黄色で塗装された全長十五センチ程度の長方形物体は、腕時計と言い張るには余りにもデカすぎる。
そのテカテカした外観と本来リューズがある筈の部分から飛び出しているストリングから、ベ◯ランチャーと揶揄されることもある。主に俺から。
『ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ』
つかうるせぇ!
毎度思うが何で変身しない限り止まんねぇ仕様なんだよ!
ミュート機能とかスヌーズ機能とか付け……いやダメだな。
寝てる時に鳴ったら二度寝する自信あるわ。
ヒーローが寝てて世界滅んだとかシャレにならねぇな。
「然しですね田中様。最近は政府も秘密裏に強化外骨格の開発に成功し、実戦投入もされております。貴方様が態々出られる必要は」
「折角友達と出かけてんのに怪人倒されたかの心配とかするのは、それこそ浄善寺に失礼だろうが! なるべく急ぐつもりだよコンチクショウ!」
「……逢引で無いとは言いつつも、存外楽しみにしてらっしゃったのでは?」
「してた! 浄善寺性格はクソだけど、顔は良いし!」
「そのように田中様の良くも悪くも正直な点は嫌いではございません」
おうサンキュ。これから自信持っていくわ。
目的地まで三百メートル程、次の角を曲がれば……
「てか、何でお前ついて来てんの?」
「我々妖精国には怪人など存在しないものですから、もしもの時を考慮し参考データを取っておこうと思いまして」
「なるほど、わからん……今更だけどお前って、気軽に外出歩いて良いんだっけ!?」
「問題ありません。ワタクシの異常性は人間が私を目視した時に発現し、曝露した対象に認識改変を施します」
「SC◯かよ。具体的には?」
「ワタクシという存在が人間であるかのように見えます。収容には曝露した人間のBクラス記憶処理が必要とされています」
「S◯Pじゃん。作品によって設定違うからBクラスがどの程度かわからんのだが?」
「御想像にお任せ致しま……と、着いたようですね」
俺達が歩みを止めたその先、アスファルトの上で暴れ狂う怪人がいた。
正確には、直立二足歩行で人間サイズのカラスがいた。
「ケーッケッケッケ、この地に混沌を満たしてやるっケよぉ!」
「笑い方独特だなおい」
カラス人間は両羽をバタつかせ発生した真空波によって周囲の建物を切り裂いている。
お前、壁の修繕費幾ら掛かるか知ってんの?
本気で許せんのだが?
「田中様、何故怪人の方々はあのような事を……?」
「あー、そういうの説明する気無いから。戦う理由なんて当事者が知ってればいーの。後、突拍子も無いクロスオーバーはNG」
「仰っていることが微塵も理解できておりませんが、一先ず飲み込む事としましょう。今は……」
「ああ、ちょっくら街救ってくるわ。」
「では、ワタクシはいつも通り避難誘導をば」
そうして、俺は堂々と歩き出す。
怪人サマも俺の姿に気がついたようで、態々此方に向き直ってくれた。
あ、戦闘シーン苦手な良い子の方々は次の場面転換まで適当に流してくれよな☆
「ケケッ、お前は田中太郎! 何しに来やがったっケねぇ!」
「気にしてんだからフルネームで呼ぶんじゃねぇよクソが」
両手を強く握り、左手は胸の前へ。
マジパナイザーが丁度心臓と敵の一直線上に並ぶようにする。
「言うに事欠いて『何しに来やがった』、だぁ? テメェらこそ、地球征服なんて自分勝手な御題目掲げて我儘三昧してんだろうが」
そうして俺は、右拳で時計の天板を強く叩いた。
『マ・ジ・パ・ナイザ〜!(高音)
マジパナイザー!(無駄なハモリ)』
などと気の抜けるような認証音と、それに続けて流れてくる何故かシンセ調の待機音声。
妙にクソダサい音だが、最近逆にカッコよく聞こえてきた気がする。
「だったら俺が自分勝手な理由でテメェらぶっ飛ばしても、文句は言っちゃいけねぇよなぁ!?」
ストリングを引いた。
「転身ッ!」
『ヒ・ィー・ロォの・號!業!GO〜!』
掛け声と共に無駄にテンションの高い変身音が流れ、俺は光と風に包まれる。
『TEN−SHIN』
発光が止む。
既に俺の身体は紅い機械的なスーツに包まれ、頭にはフルフェイスのマスクを被っていた。
「出たなヒーローっケ!」
「無理のある語尾止めろ。お前ら怪人は、悪の科学者が作り出した無から生まれた生命ってことは判明してんだ。ぶっ飛ばした所でちょっと胸糞悪くなるだけで、経読んで終わりよ」
そう言って俺がファイティングポーズを取る間に、怪人は縮地を使ったかのように眼前に迫っていた。
「隙ありっケェ!」
「南無三スマァーッシュ!」
「ホケキョッ!?」
念動力で物理法則を捻じ曲げた俺は、直立不動の体勢からは本来有り得ない軌道での回し蹴りを決める。
そのまま後方に吹っ飛んだカラス野郎はビルの五階程の高さに突き刺さった。
「直前まで真空波飛ばしてたヤツが遠距離攻撃捨ててんじゃねぇよ。持ちうる武器で戦うのが基本ってバトル漫画で学ばなかったのかテメェは」
「ぐ、ぐげケ……」
呻き声を上げながらもビルから身体を抜くカラス怪人。
中々ガッツあるじゃねぇか。
さっさと倒さないとヤバいかもしれねぇな……
「田中様、不味いやもしれません」
「どしたビィド、危ないから下がって……」
「怪人の手元を御覧ください」
「あ……?」
怪人の手元、固く握られているのは紫の宝石。
アレは、まさか。
「ジャマー・トークン……! アレって妖精界関係の産物だろ!?」
「はい。何故怪人が所有しているかはわかりませんが、使用した場合前例無き脅威になることだけは想像できます」
「ケケケケーッ! コイツを使って……!」
「させるかよぉ!」
マジパナイザーのストリングを続けて三度、親指で軽く引く。
『チャージ、キィック』
マジパナイザーが宣言する。
身体中に練気を循環させた俺は、助走をつけ跳躍した。
超能力で軌道を修正し放つその飛び蹴りは、瞬間時速およそ四〇〇キロ。
隼の急降下速度さえ越える一撃は、怪人の胴部を貫いた。
「ゲビャァーッ!!」
爆散。
悪は滅びた。
でも消滅する時に大爆発するの、びっくりするし熱いから止めてほしい。本気で。
……というか、ジャマー・トークンの入手元聞きそびれたな。
*
「で、今からどう足掻いても遅刻する時間な訳だが」
怪人の持っていたジャマー・トークンを回収し、ビィドに預けた俺は諦め気味に言った。
「飛んでいけば間に合うのでは?」
「いやいや、町中飛んでいけるわけねぇだろ。正体バレの危険性って知ってる? ニチ◯サ未視聴勢か?」
「魔法少女コスチュームは、ワタクシと同じく認識改変能力と記憶処理能力が御座います。カメラにも映りません」
「……いや、まあ」
嫌な訳じゃないよ? 嫌なわけじゃないけどね?
俺は懐から、明らかに隠し持てるはずが無いであろう一般的なバール程度の長さの棒、『マジカルロッド』を取り出した。
「魔装転身!」
「メイクアップ! で、御座います」
天に棒をかざし叫ぶと、俺は紅い光に包まれ全裸になった。
男のサービスシーン誰得なの?
毎回着替え終わる前に発光終わらないか心配になるんだよなコレ。
なんというか、俺は一般魔法少女みたいに表現規制な力で護られてない気がする。
光が止む。
オレンジの髪、妙にペラッペラのスカート、謎の脇だけ出した衣装。
チャームポイントのエメラルドのマフラーを深く身に着けた、女の子に俺はなっていた。
「毎度思うが、何で女体化したら胸が膨らむんだよ。男性ホルモン的にそうはならんやろと言いたい」
「田中様風に返答しますと、なっとるやろがいで御座います」
「そういうのいいから」
「端的に申し上げますと、田中様の理想の女性像と女体化した時の素質を掛けて二で割った姿が反映されております。魔法少女アニメで女の子が急に大人っぽくなるのと同じ理屈で御座います」
「足して割れよ。どっちの要素も偶数じゃなかったらどうすんだよ。小数点以下切り捨て?」
どうでもいい会話を
魔法少女になった俺はホップ・ステップ・ジャンプの要領で宙に浮くと、外見に反して全く可愛くない速度で待ち合わせ場所へと急行する。
ビィドも続いて地面を離れ浮遊する。
自分の意志で浮いているはずなのに何故か手足をバタつかせるテディベアを見ると、何とも言えない感情が湧いてくるな……
「ジャマー・トークン使用前に成敗出来て良かったですね。魔法少女とヒーローコスチュームの同時着用は避けたいところでしたから」
「え、ダメなの?」
「全く不可能というわけでは御座いませんが……言うなれば、メーカー非推奨の使用方法です」
「まじかよ。保証効かなくなっちゃうじゃん」
「特にヒーローコスチュームは自己修復機能や動作補助機能があるようですし、魔法少女の力と混ざり合ってどうなるかは未知の領域です」
「そう思うと、変身した後に練気と超能力使ってるの大分リスキーだな……」
元々は素養ある一般人に渡る筈で作られた変身アイテムだ。
何かよく分からん力がハイブリッドのバカ盛り高校生の手元に渡るとは、開発元も予期してないだろう。
良かった、今まで戦ってる最中に身体爆散とかしなくて。
「ですので、出来うる限りマジパナイザーとマジカルロッドの同時使用はお控えください」
「お前それフラグじゃん。この後使う流れじゃん」
「絶対ですよ?」
「ねえ何で強調したの? 目的を言え目的を」
*
『すまん、遅れそうです』
『ゴメンチョ☆』
『極刑』
『スマン、ふざけたのは悪かったから許して欲しい』
『許しを請うのは謝罪とは言わないわ』
『百理ある』
『頭に油揚げ乗せたまま銭湯に行って来なさい』
『お前の思う極刑はそれなの?』
『食べ物粗末にするなってどこかの委員長に指摘されそうだからやめとくわ』
『よくわかったわね』
『ついでに証明に写真を撮らせて
銭湯内で自撮りした罪で通報する気だったわ』
『あ、極刑って社会的に死刑ってことなんすね』
『謝罪の気持ちとして昼飯代を払わせて下さい』
『元よりタカる気だったわ』
『休日出勤手当として』
『酷い』
『俺との遊びは労働なのかよ』
『貴方で遊ぶのは趣味よ』
『おい接続詞』
『着いた』
『どこ』
トークアプリで軽口のメンコを叩きつけ合った末、送られてきたのは一件の位置座標。
待ち合わせ近くのカフェを示すものだった。
「それでは、ワタクシは近くから田中様の逢瀬を見守っております」
「それ本人に言うタイプのマスコットキャラ初めて見た」
「破天荒なサポート役になれるよう日々精進しておりますので」
「破天荒って型破りってことじゃないからな? 後、型破りと型無しも違うからな?」
俺の指摘をガン無視し、ビィドは目の前から姿を消した。
ヤレヤレ系主人公気取りで肩をすくめた俺は、足早にカフェへと入店する。
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」
そんな店員さんの問いに、
「あーっと、先に友達が入ってる筈なんですケド……」
たどたどしく返してしまう俺氏。
何せカフェなんぞ生まれてこの方入ったことがない。
そもそも珈琲も紅茶も飲めない。
癖のある飲み物って楽しめないんだよな。俺がバカ舌だからか?
それはさておき、広くはない店内を見渡し目的の人物を探す。
然し、いくら目を動かそうが一向に見つからない。
段々と困惑顔になる店員さんを余所に諦めず捜索を続けると――
――――居た。
いや、本当にアレか? でもアレしかないよな……
件の人物は、丈の短いダークブラウンの革ジャンを前開きにし、黒のベース生地にド派手なペンキ柄が彩られたインナーを堂々と見せていた。
スラッとした浅い色のデニムパンツに耳元にアクセサリまで付けたキメッキメの姿は、男と見間違える程に可愛げのないファッションだ。
窓際の席で肘を付き、物憂げに外を見る姿は、俺がスマホで撮るだけでもファッション誌に掲載出来そうなほどには絵になっていた。
店員さんに相手を見つけた意を示し、席へと近づく。
「モデルみたいな装いは撮影所でやってくれませんかね」
「あら、やっと来たのねレフ板係」
「せめてカメラマンにしろよ」
「あら、結構難しいのよ。位置角度調整とか、固定しとく必要もあるし」
「何で高校生が撮影事情知ってんだよ。レフ板係を馬鹿にしてるわけじゃなく、縁の下の力持ちポジでメイン所ではないという話をしているんですが」
「良いじゃない。縁の下の死屍累々」
「くたばってんじゃねぇか。桜の木の下ですらそんな表現使わねぇわ」
下からの目線の癖して、やけに挑発的な上目遣いが無駄に魅力的に見えたものだから。
浮かんだ言葉を飲みこむ為に勢い良く席に着いてしまった。
「遅刻よ」
「残念だったな。俺の電波時計は集合時間ピッタリと言ってるぜ」
そう言ってマジパナイザーを見せつける。
「残念だったわね。私のわざと進めてあるアナログ時計は五分後を指してるわ」
「余りにも俺ルール過ぎるだろ」
「待ち合わせ時間ピッタリに来て自分が遅かった自覚がない奴は、いつか自分の過失も見逃すわ」
「ビックリするほど偏見。流石に厳しすぎだわ」
「まあ流石に冗談だけれども、貴方より遥かに優秀な人間を待たせたという事実を認識してほしいわね」
「うーん、ナルシズム」
「違うわ。貴方を見下しているだけよ」
「より酷ェ」
会話も程々に、俺は徐ろにメニューを手に取り目を通す。
お、たまごサンド良いよなぁ。
「そういや、お前ピアス開けてたっけ?」
「ああ、コレ?」
浄善寺は首を回し、耳元を見せつけてくる。
全体的に暗い服装の分、翡翠色の耳飾りがより強調されるように揺れていた。
「イヤリングよ」
「……と、言いますと」
「挟み込んで止めるやつよ。その位常識として知っておきなさい」
「悪かったなファッション知識皆無で。委員長様が普段そんな不良ファッションを身に着けてるなんて意外だったわ」
「これぐらい普通よ。それにTPOに従っている服装なら、何処でどんな服装をしようが恥じる事は無いわ。現に、今こうして私は三下の目の前にこの姿を晒していても微塵も屈辱感は無いもの」
「誰が三下だ誰が」
「土日を挟めば教師陣の熱りが冷めると思って、月曜発売の週刊誌を週末に学校に持ってくるような姑息な思考を持った人は、どう考えても三下以外の何者でもないと思うけれど?」
「必死にネタバレ避け、読みたい欲求を抑えながら行ってる俺の努力を姑息呼ばわりするのは止めていただきたい」
雑談をしながらソフトドリンクのページを見ていると、浄善寺がメニューを捲りコーヒーに誘導してくる。
「チェーン店ではめっきり見掛けなくなった深煎りが飲めるからお勧めよ」
「俺苦いの無理なんだが」
「焙煎の仕方によって苦味は抑えられるから苦手意識を持つのは勿体ないわね。こうしてカフェに入った時に飲むものが無くて困る心配も無いわよ」
「まあ確かに。その深煎り? ってのは苦くない訳か?」
「いえ、苦味を引き立てるわね」
「苦いんじゃん」
「貴方の中学時代みたいね」
「馬鹿言えバリバリ明るかったわ」
「明るかった、ね……」
「うん、言葉尻捕まえて陰湿的なディスするのはクソだから止めような?」
「では直接的で快活な罵倒をするわ。田中太郎君は中学時代はナアナアの人間関係でやれてたのに、いざグループ形成が本格化される高校生活に突入したら気づかない内に孤立していたのね」
「うん、ちょっと難しかったかな浄善寺。明確な意思を持って人を傷付けた時点でクソなんだ。快活でも無ぇし」
大人しくフルーツオレと軽食を頼んだ俺は、改めて浄善寺に向き直る。
本当、顔だけは良いんだがなぁ……
「で、委員長様の今日のご予定は? まさか無計画で俺を誘ったわけでもないだろ?」
そもそも何をするのかすら理解ってないまま呼び出されたのだ。
その傍若無人さに対し恨めしさを主張する様に目線を送る俺。
「そうね、大人しく集合場所に来たのだから行き先位は教えてあげましょう……」
浄善寺は鼻を鳴らして答えた。
「ゲームセンターに行きます」
「……は?」
は?
どうも、残機1LIFE0です。
引き続き本作をお読みいただきありがとう御座いますッ!
さて、本作は私にとっての書きため投稿ということなのですが。投稿する際にここで一つ問題が…
後書き、何書こう。
いや、書かなくて良いんですよ?後書きなんて
でもなろうの後書きって二万文字も書けるじゃないですか。余白があるなら埋めたいと思うのが心情じゃないですか。
ですが、このお話も直近で書いた文章ではない。
つまりその時に持っていた熱とは違うわけですよ。
こんなことなら、1話1話書いた後に後書きも書き溜めしておくんだった……(後書きの書き溜めとは?)
……流石に作品について触れておきましょう。
『浄善寺情華の恋情』は私なりに初心を思い出そうと、割と手癖で書いてみている作品です。思いついたままのキャラクターと設定を詰め、自分のリズム感で物語を刻む……
もし、これを読んでいる貴方の心と歩調が合えばそれが幸せです。
後、浄善寺というわかりにくい魅力を持ったキャラクターを気に入っていただけたらな、と。
田中君? まあ……うん、好きですよ? その、頑張ってますよね!(必死のフォロー)
違うんです、何かこう……男キャラは苦労してこそカッコいいみたいな美学が……
ではではまた次回、田中君が振り回される回でお会いしましょう……ずっとか? ずっとだな




