第7話 評議会と追放令
王都アストレイアの中心にある評議の間。
灰色の大理石に囲まれた厳粛な空間には、重厚な椅子が円形に並び、王族と最高位の貴族たちが顔を揃えていた。
会議の議題は一つ――
「第三王子・カイの処遇について」
先日行われた軍議での“越権発言”、
それに加えて「勇者スキルという不確定要素への不信感」が積み重なり、
ついにこの日、審議が下されることとなった。
「軍議での発言は、王家の秩序を著しく損なうものだった」
老宰相が低く重い声で告げる。
「加えて、“勇者”なるスキルの実効性は極めて曖昧。
統治、軍事、内政、いずれにも適応しない。
ゆえに――第三王子カイは、“王家の任から除かれる”ことを、我らはここに提案する」
「異議なし」
第一王子レオンが即座に応じた。
「貴族を煽動しかねない理想論は、剣よりも害だ。
……無能者は、王家に不要」
第二王子ジークも冷淡に頷く。
「感情で動く者は組織を乱す。“勇者”という響きに酔う前に、自らの立場を省みるべきだったな」
静まり返る評議の間。
カイは、中心に立っていた。
一人だけ、身じろぎもせず、彼らの言葉を黙って聞いていた。
そして、笑った。
「なるほど。オレって“無能”で、“使えない”らしいな」
「皮肉のつもりか?」
レオンが眉をひそめる。
「違うよ。ただ、ちょっと安心しただけ」
「安心?」
カイはまっすぐに兄たちを見た。
「オレはね、人の命を数字で語る人間にはなりたくなかったんだ。
民を“守らないと決めた”おまえらと、同じ王族として並ぶくらいなら──
追い出された方が、よっぽど気が楽だ」
「っ……!」
ジークが舌打ちし、レオンの拳がきしんだ。
だが、老宰相は静かに宣言した。
「第三王子カイ・アストレイアは、本日をもって王家の籍より除外される。
身分を剥奪し、辺境グレイル領への派遣を命ずる。
処遇の理由は“修行と自省”。表向きは礼遇されるが……実質的には、王都への帰還はない」
「了解」
カイは一言、あっさりと答えた。
「王族の名前も、地位もいらない。
オレは、“オレの目で守りたい人”を、守るだけだ」
その言葉は、誰の心にも届かなかった。
――ただ一人を除いて。
会議の最後、静かに立ち上がった男がいた。
ロア・ヴェルト。グレイル領の領主。
「この若者を、我が領に迎え入れたい。
“勇者”の名を持つ者を、我らは歓迎し、鍛えよう」
会議の空気が変わった。
「……ロア殿? なぜそこまで……」
「勇者とは、“何にでもなれぬ者”ではない。
“どんな未来にも届く者”だと、我が主君――千年前の英雄が、そう語っていた」
その瞬間、誰も口を開けなかった。




