第6話 炎の記憶を継ぐ者 ―魔導師ナイア―
王城の西、禁書庫の外れにひっそりと建つ小塔があった。
そこは“火術塔”と呼ばれ、王都における魔導の修行場の一つ。
だが今や扱いが難しい火属性魔法は忌避され、訪れる者も少ない。
その中で――爆発音が響いた。
「ぐあっちぃぃぃ!? また暴発したぁぁぁッ!?」
カイの叫びとともに、塔の天井が煙に包まれる。
袖が焦げ、前髪がちりちりと焼けていた。
「……アンタ、正気?」
呆れたような声が背後から降ってきた。
振り向くと、そこに立っていたのは、深紅のローブを羽織った少女。
白銀の髪に、鋭い眼差し。手には小ぶりな魔導杖。
「火球ひとつで塔を吹き飛ばすとか……どんな間違い方したらそうなるのよ」
「う、うーん……魔力の制御って難しくて……でも、少しは進歩してると思うんだけどなぁ」
少女はため息をつきながら言った。
「ナイアよ。王都の火術師――というか、この塔の最後の生き残り」
「オレ、カイ。……“勇者スキル持ち”ってやつ」
その言葉に、ナイアの目がわずかに鋭くなった。
「……へぇ、勇者。なんでもできるけど、なーんにも極められないやつね」
「まあ、否定はしないけど……便利っちゃ便利よ? こうやって全部少しずつ失敗できるし」
ナイアは呆れ半分、関心半分のまなざしを向けた。
「そんな中途半端なスキルで、何を目指してるのよ?」
カイは少し考えてから、笑って答えた。
「誰かを守れるようになりたい。それだけだよ」
その言葉に、ナイアの顔から表情が消えた。
「……バカみたい」
そう言って彼女は塔を出て行こうとした――が、足を止めた。
「一週間。火球魔法を安定させてみせなさい。
できたら、ちょっとは見直してあげる。
できなかったら……もう二度と火術塔には来ないで」
「……やってやるよ」
カイの目に、炎のような光が灯っていた。
一週間後。
火術塔にて、ナイアの前でカイが火球を放つ。
放たれた魔力は小さいが、芯が通っていた。
術式は雑ながら、反復による精度の高さがにじみ出る。
ナイアはそれを見届けて、小さく笑った。
「……一週間で、ここまで持ってくるとは思わなかった」
「オレ、基本は不器用だからね。でも、何度もやるのは得意なんだ」
ナイアは、杖を軽く振った。
「“焔環のアイゼル”――かつて勇者に付き従った賢者がいた。私の先祖よ。
あの人も、最初は何もできない凡人だったって言われてる」
「……へぇ。なんか、親近感わくな」
「一つだけ言っておくわ。“勇者”ってのはね、
戦う力だけじゃなく、“続ける意志”を持った者のこと。
少なくとも、あんたには……その片鱗がある」
そう言って、彼女は振り返らずに去っていった。
煙の残る火術塔で、カイはぽつりと呟いた。
「続ける意志、ね……
うん、オレ、それだけはあるって……ちょっとだけ自信あるよ」




