第5話 受け継がれし剣技 ―灰の流派・セラン―
王城の外れ、南門から少し歩いた先に、古びた道場があった。
かつて騎士たちの訓練場として使われていたが、今ではもう忘れられた場所だ。
カイは、そこに通っていた。
王宮では使えない剣を、
「王子の遊び」と笑われるのが嫌で、こっそりここで振るっていた。
その日も、黙々と木剣を振るカイの前に、一人の老人が現れた。
「……その構えじゃ、脇が甘い。斬る前に、やられるぞ」
白髪に無精ひげ、袴に袖なし羽織。
背中に木刀を背負ったその男は、何かを見透かすような眼をしていた。
「え……あ、すみません。つい自己流で」
「いや、別に謝ることじゃねぇ。ただ──“戦う”ってのは、“剣を振るう”ことじゃねぇんだよ」
老人は地面に一本の線を引いた。
「“勝つ”ってのはな、自分の間合いに相手を入れたときじゃねぇ。
“相手に、自分の間合いから出させない”ことだ」
「……?」
「要するに、剣術ってのは“支配”じゃなくて“導き”だってことさ。
相手の動きに合わせて、自分の芯をずらさない。それが“灰の流派”」
その言葉に、カイの瞳が光った。
「あなた……もしかして、“勇者レイ”と一緒に戦った人の流派の──」
「俺か? 俺はセラン。勇者殿と肩並べるほどのもんじゃねぇが……
俺の爺さんが、“灰刃のグレン”って名で、あの人の隣に立ってた。
その流派を、細々と継いでるだけさ」
カイは思わず頭を下げた。
「教えてください、セランさん。オレ、強くなりたい。
誰かを守れる、ほんとの“勇者”になりたいんです」
セランはひとつ、鼻を鳴らした。
「ったく、今どきの王子が土下座するか? 面白ぇな」
老人は木剣を投げ渡した。
「一日だけだ。……その代わり、逃げんなよ。
この“灰の流派”、血反吐吐くほど地味でしんどいからな」
カイはその日、何百回と素振りを繰り返した。
体の芯が痛み、手の皮が剥がれても、やめなかった。
セランは夕暮れにぽつりと呟いた。
「そういや、レイもそんな奴だったよ。
不器用で、弱くて、でも──目が、死んでなかった」
カイは、うっすら笑った。
「“勇者”って、そういう人のことを言うんですかね」
セランはそれには答えず、空を見上げた。
「さぁな。……けど、少なくとも“目が死んでねぇ奴”は、世界を変えるかもしれねぇよ」




