第3話 兄たちの選民思想
「おい、カイ。今朝の訓練、見てたか?」
城の裏庭、騎士たちの鍛錬場。
第一王子レオンは、汗も乾かぬまま豪快に笑っていた。
鋼鉄のごとき体格に、風を切る声。
年齢こそカイより4つ上だが、もうすでに一軍を率いる将としての風格すらあった。
「三人を同時に斬ったんだと。俺の“戦神の剣”、やっぱり格が違うな」
その隣では、第二王子ジークが淡々と記録を取っている。
「剣の軌道は平均で誤差2度以内。実戦運用には申し分ない」
レオンがジークの肩を叩く。
「おまえの分析力には助けられてるぜ。カイ、おまえも見習えよ。
“勇者”なんて肩書きで調子に乗るなよな」
カイは笑ってみせた。
「いや、別に調子には乗ってないよ。ただ、何でもできるってだけ」
「何でもできる? それが問題なんだよ」
ジークが顔も上げずに言った。
「すべてに適性がある代わりに、すべてにおいて中途半端。
統治にも軍事にも、使い道がない。
“勇者”というのは、あくまで昔の幻想に過ぎない」
「幻想、ね……」
カイは少しだけ視線を落とした。
レオンは剣を肩に担ぎながら言った。
「王は力を持って民を従わせるものだ。
弱者を守る? 平等? 寝言だな。
強き者が支配し、選ばれし者が導く。それが“王族”ってもんだ」
ジークも頷く。
「下民の命など、国の流れにとっては“数字”でしかない。
その意味を、貴様も早く理解しろ、カイ」
……沈黙が流れた。
だがカイは、どこか悟ったような微笑を浮かべて言った。
「オレはさ……王族とかどうでもいい。
誰かが困ってたら、助けたいだけなんだよ」
レオンとジークは、あきれたように顔を見合わせた。
「やれやれ、甘ったれたお子様の理想論か。
さっさと追放された方が、民のためになるな」
その言葉に、カイは肩をすくめて答える。
「そう思うなら、それでいいさ。でも──
“力があるのに、誰も守らない”方が、よっぽど情けないとオレは思うけどね」
言い捨てるようにして、カイはその場を去った。
陽の光が差し込む中、彼の背中はどこか寂しげで、それでいて、決意に満ちていた。




