第1話 “凡夫”の偉業
朝、グレイルの大通りを馬車が行き交い、商人たちの声が飛び交っていた。
かつて魔物に怯えた街は、今では活気にあふれていた。
「……ここが、あの“魔境”だったって?」
旅人の男が驚いたように首をかしげ、案内人が誇らしげに笑う。
「そうさ。五年前は、街道の先にダンジョンが六つもあってな。
それが今じゃ、二つを残して全て制圧済み。
しかもそのうち四つを――“あの男”が一人で何とかしたって話だ」
「まさか、あの“スキル勇者”の……」
「そう、“凡夫の勇者”カイ様よ」
グレイル領・冒険者ギルド
「……というわけで、諸君の推薦と実績に基づき――
これよりカイ殿を、正式に Cランク冒険者として認定する」
ギルド支部長の言葉に、周囲から拍手が上がる。
「おお!」
「勇者様だ!」
「いや、カイ様って呼べって言ってたぜ」
カイは、肩をすくめながら笑った。
「ありがとう。でも……そんなにすごいことしてないよ。
たまたま得意だっただけさ、“地道にやること”が」
若い冒険者たちが羨望のまなざしを向けてくる。
「スキル“勇者”って、結局どんな能力なんですか?」
「攻撃系? 支援系? 全ステータス少し上昇って噂も……」
カイは笑ってごまかす。
「全部できるけど、全部“ちょっとだけ”ってやつさ。
でも、それって逆に――“全部、伸ばせる”ってことでもあるでしょ?」
帰り道、見上げた空は雲一つない青だった。
(……あれから、五年か)
王都を追われた十三歳のあの日。
灰の剣士と出会い、無スキルの少女と笑い、ミスリルを求めて潜ったダンジョン。
「少しは、“勇者”っぽくなってきたかな」
と、そんなカイに、肩から何かが飛びついた。
「カイ! おめでとう!」
「わっ、リア! 不意打ち禁止って言ってんでしょ!」
「だって嬉しいじゃん! あの頃は、“どこ行っても村人Bにしか見えない”って言われてたのに!」
「……それ、わりと気にしてたのに」
後ろからやって来たガルドが、肩をすくめる。
「ったく、祝福ってのは静かにやるもんだ」
「じゃあ、静かに剣くれる? そろそろ出来上がってるって言ってたよね」
「……せっかちめ。明日だ。
明日、お前に渡す。“五年”かけてようやく“答え”が見えてきた」
カイの表情が引き締まる。
「……ありがとう、ガルド」
その夜、カイは鍛錬場で一人、素振りをしていた。
“スキル”は、いつでも自分の中にある。
けれど――“強さ”は、ただのスキルでは届かない。
自分は、まだ“凡夫の勇者”にすぎない。
だが――
(このまま、“凡夫の英雄”になってやる)
振り下ろされた木剣が、夜空を斬った。




